2023年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

著者名索引

香桑の近況

  • 2022.2.25
    2021年 合計28冊 2020年 合計38冊 2019年 合計55冊 2018年 合計33冊 2017年 合計55冊 2016年 合計50冊 2015年 合計32冊 2014年 合計26冊 2013年 合計32冊 2012年 合計54冊 2011年 合計63冊 2010年 合計59冊 2009年 合計71冊 合計596冊
  • 2019.1.25
    2018年 合計33冊
    2017年 合計55冊
    2016年 合計50冊
    2015年 合計32冊
    2014年 合計26冊
    2013年 合計32冊
    2012年 合計54冊
    2011年 合計63冊
    2010年 合計59冊
    2009年 合計71冊

    合計475冊
無料ブログはココログ

« 桜風堂夢ものがたり | トップページ | あなたは、誰かの大切な人 »

2022.07.15

風の港

村山早紀 2022 徳間書店

翼に風を。
心の翼に、よき風を。
その風は、心をどこまでも遠く高く、羽ばたかせてくれるもの。

村山さんという作家さんは、飛行機や旅が好きな人だ。
猫が好きで、植物が好きな人だから、家を長く開けることはあまりされていないと思うのだが(ことに、この2年間はコロナの影響もある)、ふわりと身軽に旅に出る雰囲気を持っていらっしゃる。
その分、この2年間以上にもなってしまったコロナ生活の息苦しさを、空港の物語がふっと横穴を開けてくれるような、とりわけて愛しいものに感じた。
そう。それまでは、私も出張だ、旅行だと、空の旅を楽しみにしていた。
電車の旅も楽しいけれど、飛行機に乗ることは子どもの頃から、特別で。
だから、空港という場所も、アミューズメントパークに似た特別な感じが、今もする。

目を閉じれば浮かぶ、さまざまな空港の景色。
国内のものも、海外のものも。
中でも、一番の馴染みといえば地元の空港と言いたいところだが、最近、建て変わってしまって、お店も変わってしまって、ちょっと馴染みが薄くなってしまった。
それよりも、空港らしい空港として、私の中でどっしりと横たわっているイメージは、羽田空港のほうになるのかもしれない。ここも、長い年月の間に、いろんな変化があるのだけれど。

第1ターミナルと第2ターミナル、今日はどちらだっけ?
横浜に出るなら、リムジンのほうが早いし、楽だ。乗り換えも少ないし、迷子の危険性がとても少なくて済む。
都内に出るなら、モノレールで。できれば、大井競馬場で、馬の一頭も見ることができると嬉しい。
水面に浮かぶ、カモメたちやカモたちも見どころだ。
京急も便利だから、ホテルを選ぶ候補地が増えた。
行きはたいてい時間の余裕がないのだけれど、帰り道、余裕があったら、水上バスを使うのが好きだった。

そんな胸にいっぱいにつまった思いが、噴出してくるような気がした。
あの空港の、あの一角で、こんな素敵な魔法が起きていたら、とても素敵じゃないか。
こんな素敵な魔法の一つ、起きても不思議がない。それが空港という場所なのだ。
どんな魔法かと言えば、出会いの魔法。人と人とのささやかな出会い、すれ違いが、詰め込まれた、素敵な旅の一幕となっている。

今まで読んできた村山さんの本の中で、一番、大人向けだなぁと思った。
大人の女性たちに、まず、勧めたい。
というのも、当たり前のように恋愛して結婚して妊娠して出産して…というライフコースをたどる女性を否定しないけれども、そういうライフコースをたどっていない女性たちも否定しないところが、今回の一番の魅力のように感じたからだ。
それぞれの女性たちにそれぞれの生き方があって、いいも悪いもない。お互いに相手を少し気にすることはあっても、否定はしない。
どんな生き方を背負ってきたかなんて、誰にも見せないで、仕事をしたり、人生を頑張っている大人の女性たちを応援する本だ。

だからといって、女性だけが頑張っているわけではなくて、頑張っているのは男性も女性も同じ。
それどころか、どんな生き物だって生きていることを頑張っていることを、いつも視野に入れている人だ。
そういうところが、女性の世界に閉じずに、すべての人々、すべての生き物に開かれていた。
『風の港』というタイトルにふさわしい風通しのよさが、気持ちよかった。
ここは村山さんのバランス感覚の素晴らしさだと思う。

複数の登場人物たちの誰に気持ちを寄せるか、それは読み手それぞれだと思う。
一人、魔女が登場する。
映画「シェルタリング・スカイ」のなかで、旅行者travelerと観光者touristは違うという。後者は旅に出たときから家に帰ることを考えているが、前者は帰りを考えていないという。
人生そのものが、繰り返しのほとんどない、後戻りすることのない旅行、いや、彷徨であることを考えさせられた映画だった。
『風の港』の魔女の旅からの連想でこの映画を思い出したが、よくよく考えると、journeyという言葉のほうがむしろ似あう。
Journeymanといえば、徒弟制度で年季奉公を終え、給金をもらって働けるようになった職人のこと。 そうやって、諸国をめぐりながら糧を得る。
そういう生き方に、なんだか憧れを掻き立てられる。 それこそ、今の住所は「旅行中」なんて書きたくなる気持ちになることだって。

私は今、病気治療中で県外に出かけることを制限されている。
世界にはこの二年間、コロナという病気のせいで、移動をしばしば制限されてきた。
そこにロシアのウクライナ侵攻や、その他の平和を脅かす状況のせいで、渡航が難しい場所が増えている。
そんな様々なことが重なって、私の生活から空港は遠いものになり、時たま上空を通り過ぎていく飛行機が、一層、キラキラと輝いて見える。

だからこそ、この一冊の本の中に描かれた空港の景色と空気がとても楽しかった。
したい仕事をしていることとか。懐かしい友人と再会できることとか。心残りだったことが解けていくこととか。かつての自分がなにか誰かによいものを残していることがわかる瞬間とか。
登場人物たちに訪れる奇跡の一瞬に、胸が躍るような時間をもらった。
空港とホテルというのは、やっぱり大人の世界で。
すごく素敵で。
元気になったらどこかへ行こう。そう思った。

すずなちゃん、また空港で待ち合わせて、どこかに行こうよ。いつかまた会おうね。

« 桜風堂夢ものがたり | トップページ | あなたは、誰かの大切な人 »

小説(日本)」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
香桑さんのこちらの記事を拝見して、「風の港」を読みました。
おっしゃる通り、大人の女性に特に読んでほしい作品だなと思いました。
自分にも当てはまるような部分がたくさんあって、いつもは職場でお昼休憩中に読書をするのですが、涙が止まらなくなって職場で読むのを諦めたくらい^^;心に刺さった作品でした。
元々ネガティブで、上手くいかないなぁと思うと引きづってしまうタイプなのですが、それでも大丈夫、少しずつ前に進んで行こうと、背中を押してくれたような気がしました。
素敵な物語を教えて下さり、ありがとうございました。
いつか、私も香桑さんと空港で待ち合わせをして、どこかで食事をして、直接会ってお話したいな…なんて思いました。

苗坊さん、こんにちは。コメントありがとうございます!
この本がぐっときたあなたは、大人の女性ね♪
ネットの中とはいえ、出会ったときのイメージのままなのだけど、きっと素敵な大人なのだろうと思い描いています。
いつか、空港で待ち合わせするなら、やっぱり本屋さんにしませんか?
そこから、どんなお話をしようか、どんなところに行こうか、思い描くのは楽しいですね。

私の記事を参考にしてくださったなんて、嬉しいです。
この辺境の地を憶えていてくださったことにも感謝。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 桜風堂夢ものがたり | トップページ | あなたは、誰かの大切な人 »

Here is something you can do.

  • 25作品のレビュー
  • 80%
  • グッドレビュアー
  • プロフェッショナルな読者

最近のトラックバック