猫が30歳まで生きる日:治せなかった病気に打ち克つたんぱく質「AIM」の発見
宮崎 徹 2021 時事通信社
本書の印税の一部は、猫と人間の腎臓病研究などの費用に充てられる。
東京大学で人間の病気の医師であり、研究者である著者が、猫の宿業とでもいうべき腎臓病の治療薬の開発にも関わる。
そこにはいくつもの出会いの積み重ねがあり、著者の研究がどのように広がっていったかの流れと、AIMという血液中にあるたんぱく質の働きについて、平易な表現でつづられている本だ。
特別な知識はなくても読めると思うが、もしかしたら、『はたらく細胞』をちょっとかじっていたりすると、だいぶとわかりやすいかもしれない。
腎臓病、肝臓がん、肥満、アルツハイマー型認知症。
どれもこれも現代的で、私にとっては身近な病名が並ぶ。高齢の親戚家族はの9割ぐらいは、どれかに当てはまる。全員かもしれない。
そのどれもこれも、老廃物が蓄積することで、徐々に機能障害が起きていき、最後は特定の臓器が充分に活動しなくなることで、寿命を迎えるというモデルであることは、なんとなく普段から感じていたことであった。
人間の体と寿命というのは、そういうものであることはわかる。
その「老廃物が溜まる」ところを、なるべく遅らせるために、お掃除機能を高める。そういう治療モデルの提示がとても面白かった。
私自身ががん患者であり、その定期的な通院の待合室で読んでいたものだから、こんな風に科学が進むことで治療法が見つかっていくこともあることに、涙腺が緩みそうになった。
文中に抗体医薬品というのが出てくるけれども(p.188)、私が服薬しているものがこれになる。分子標的薬と呼ばれたりもしている。
実際に高額な治療費がかかるわけであるが、仕組みを聞いた時に、よくそんな精緻なものが作れると驚いたものだ。
そういう自分に身近なキーワードが、次々に出てくる本でもあった。
私は猫好きであるし、かつて一緒に生活をしていた22歳ほどまで生きた猫も、最後の最後は腎臓病の問題だった。
そのよろよろと苦しむ姿を知っているから、その苦しみがやわらいだ姿を見ることができただけでも、飼い主がどれほど安堵や喜びを味わうか、思い描くことができる気がする。
同時に、猫たちの寿命がのびたときのために、人のほうが先に寿命を終えたときに残された猫たちを次の人が世話をするようなことが当たり前の意識と仕組みを作っていくことも必要になる。
猫たちの寿命が長くなるということは、人の方が先に死ぬことも増えるんじゃないかと思うから。
その部分は、著者ではなく、猫を飼う、猫を愛する人たちの役割である。
イエネコだけではなく、ライオン、トラ、ヒョウ、チーターといったネコ族すべてが共通の問題を持っているとは思わなかった。
数を極端に減らして種の危機を迎えている種にとって、寿命が延びることで繁殖の機会が増えると、数の回復にもつながるのではないかと期待が持てる。
基礎研究というのは、大変、夢があるなぁ、希望があるなぁと思った。
猫好きの人だけではなく、基礎研究てなに?と首をかしげる人や、これから進路を考える10代の人にも触れてほしいような本だった。
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