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2021年2月

2021.02.19

紅霞後宮物語(12)

雪村花菜 2020 富士見L文庫

中華風の王宮を舞台にしたファンタジーのなかで、主人公の小玉の年齢が高めであるところが異色だった本作。
未来において伝説のように神話のように語られるようになる小玉の、本当のところの物語というコンセプトも面白くて読み始めたシリーズだ。
既に、12巻目となった。

こう長くなってくると、読む方としてもちょっと惰性になってきたりして、読むたびにレビューを書くこともなくなっていたのだが、11巻あたりから、このシリーズは他の中華風の王宮を舞台にしたファンタジー群と一線を画したと思う。
先に「中華風の王宮を舞台にしたファンタジー」と書く時に、私の頭に浮かぶ代表作は、『彩雲国物語』であると書いておく。本屋さんで眺める限り、このジャンルはたくさんの本があると思うのだけれども、そのジャンルそのものを語ることは難しい。
活躍している女性を主人公に置きながら、少女マンガのようなきらびやかな夢物語のような活躍はコミカライズのまさに少女マンガに任せ、小説では本来作者が描きたかった実は普通の人たちであった主人公を描くところに、私は新しさを感じたのだ。

人は老いる。
若く、美しく、強く、元気で、純粋で、万能感に満ちた世界をそのまま輝かせるような終わり方をしたのが『彩雲国物語』だったと思う。私は『骸骨を乞う』がなんといっても傑作と思ってしまうのだけれども、ああいう形を取るしかなかった物語であったようにも思う。
老いる。外見も、精神も、肉体も、若いときのままではいられない。青春の輝きを失った後も、人生は続いていく。
いや、そもそもは、人は、不器用だったり、醜かったり、理不尽だったり、狡猾だったり、お世辞にも立派ではない部分を取り繕いながら生きているものだ。
そういう等身大の生々しさを、中華風の王宮を舞台にしたファンタジーのなかにぽいっと放り込んでみせたところが見事だと思ったし、容赦がないとも思った。
なにしろ、美形であるとさんざん称えられてきた文林も立派に中年として描かれている。表紙では美々しいままなのに…。

幻想を抱かれては幻滅される。
人々は勝手に幻想を抱き、勝手に幻滅していく。
読み手もまた登場人物に勝手に幻想を抱き、もしかしたら幻滅した人もいるかもしれない。
主人公たちは、すごくもないしえらくもない。もしかしたら没落しちゃうかもしれないのだろうか。
かえって、この先が気になっている。

たいせつな気づき:新型コロナウイルスをのりこえた未来の物語

トモス・ロバーツ 2021/02/24(刊行予定) 創元社

美しくて柔らかくて優しい色合いの絵本。
その色合いを味わうだけでも、心が穏やかになるような画面だ。
水彩のぼかしたような輪郭が、画面を一層、柔らかくしているのだと思う。

この絵本はロックアウトされたなかで、作者が自分が絶望しないために描いたという。
人には希望が必要だ。
出口に光が見えるトンネルを行くのと、光が見えないまま洞窟を進むのでは、耐えがたさが異なる。
作者自身のための希望は、きっとほかの人にも光を灯すだろう。

日本では、今のところ、本格的なロックアウトを経験していない。
去年の緊急事態宣言と巣ごもりの勧めの時期を思い出す。
本格的なロックアウトではなかったものの、それでも、Covid-19についてわかっていないことがまだまだ多い状況で、不安ばかりを煽られていた。
私自身、抗がん剤治療が終わって日が浅く、横になって過ごさねばならない日々だったから、外出そのものが難しかったのであるが、難しいとしてはいけないの間は大きい。
そして、高齢の両親が、自分たちと私を守ろうと必死に閉じこもろうとする姿が、レイモンド・ブリッグス『風が吹くとき』の主人公夫婦に重なって見えた。
政府の広報を素直に信じて、実直にその通りにして、大丈夫だその通りにしているんだと言いながら、死んでいく人たちにしてはならないと、強く思ったことを今もはっきりと覚えている。
あの時に、私はこんな希望を描くことができただろうか。できていただろうか。

医療従事者など特定の職業や職場では家族以外の接触を厳重に禁じた生活を継続している人たちはいる。
他国のロックアウトに比べればゆるやかな規制であるが、今もまた緊急事態宣言が出ている都道府県がある。
ワクチンの接種は開始されたが、まだまだ、Covid-19に警戒した生活は続けなければならないだろう。
次の流行の波、その次の流行の波が、これからもまだ人の命を奪っていく可能性もある。
生活への打撃を受けて、終わりの見えなさに打ちのめされそうな思いをされていらっしゃる方も少なくないと思う。
現に、自殺者数は増加している。

どうか、未来に希望を。
奇跡を思い描くことは、こういう時にこそ必要なのだと思い出させてもらった。
それがよかった。

*****

#NetGalleyJP  で拝読させていただきました。
これから出る本です。

2021.02.06

女たちの避難所

垣谷美雨 2020 新潮文庫

あの日のことを忘れることなど、できない。
あの日には幼すぎて記憶にはあまりない人や、その後に生まれた人もいる。
けれども、あの日は自分にとっていつか来る日であるかもしれない。

この本は、東日本大震災に題材を取っている。
福島の架空の海沿いの町で、災害に遭った3人の女性が主人公だ。
彼女たちが、災害をどのように体験し、災害後をどのように体験したか。
避難所とはどういう場所であったかを、小説として読み手に体験させる本だ。

文体はなめらかで真に迫り、あの日からひっきりなしに放送された映像が目の前に浮かぶ。
この人は無事にあの災害を生き延びるのか、あの災害の規模を憶えているだけに、地震の描写が苦しくなった。
あまりにも苦しくなり、手にとっては置き、手にとっては置き。
最後の数ページを先に読んで自分を安心させてみても、読み進めるのがつらくなった。
そのうち、腹が立って仕方がなくて、読み進めるのがつらくなった。

福子は子育ても終わった中年の女性だ。その夫は、定職に就かず、ギャンブルに依存しているような男だ。怒らせると面倒で、ただ男であるというだけで威張り散らす。でも、地域の女性らしさの規範にのっとって、福子は黙りこんで耐えるしかない。
遠乃は出産したばかりの若い女性だ。夫を災害で喪うが、夫の父親と兄から家事労働を含むケアの担い手、性的な対象として、当然のように世話することを求められる。乳児を抱えた美しい女性が、避難所でどういう目に遭ったか。
渚は小学生の息子を持つシングルマザー。離婚歴があり、飲食店を営む彼女を、地域の人々はふしだらな女性として扱う。そのため、息子も学校でいじめにあっていた。

読むほどに、怒りが湧いてたまらなくなった。
腹が立ちすぎて眠れなくなるわ、吐き気がしてくるわ、うんざりするほど憤りが湧いてきた。
福子と遠乃と渚と、その他の女性たちと、どの女性たちが自分に近しく感じるかは、読む人によって異なると思うが、彼女たちの苦しみは自分の苦しみと地続きだ。
だから、私はこの小説を、架空の物語として読めなかった。

これは小説の形を取るしかなかった記録に思う。
こんなことはきっとたくさんあって。
きっともっとひどくて。
あの頃、ひどい話を端々で聞いた。
とても丁寧に取材されており、実在のモデルを想像してしまうほど、鮮明で具体的で現実的だ。
脚色されているとしたら、過大に盛るのではなく、過小にマイルドにしなければならない方向性に、だと思う。
小説という体裁を取らなければ、本として出せないほどにひどいことがいっぱいあったのだろう。

だが、問題の多くは、多かれ少なかれあちらこちらで繰り返されている。
震災前からあり、震災によってあぶり出されたことは、今なお現にある。
竹信三恵子さんは解説で、「人をケアするべき性」として扱われてきた女性被災者たちをケアしてくれる存在はなく、静かに疲れはてていくと書いているが、それはCovid-19流行下でも現在進行形であることを自殺者数が示しているのではないか。
三界に家なしと言われてきたこの国の女性たちに、避難所はあるのだろうか。
この小説では、主人公たちは東京に避難することを決めるが、そこが楽園であるわけではない。
都市の女性なら理不尽に抗議できたかどうかは、去年、バス停で休んでいるところを殺された女性が示すのではないか。

日本の社会っでいうのは、女の我慢を前提に回っでるもんでがす。それに、若い男の人が年寄りに遠慮して物が言えないのも前からそうでした。(p.332)

男の人がこの本を読んだら、どんな風に感じるのだろう。
ミソジニーな傾向の人、ホモソーシャルな社会が居心地のよい人が読んだら、くだらないと言うのだろうか。嘘っぱちだと言うのだろうか。自分たちを故意に貶めていると言うのだろうか。
それとも、お行儀のよい感想を言うのだろうか。

福子にも、遠乃にも、渚にも、#DontBeSilent のエールが届くといい。
ひとつひとつの理不尽に声をあげなければ、なかったことにされるではないか。
ひとつひとつの理不尽に声をあげなければ、こちらの不愉快さに気づいてもらえないではないか。
声を上げても怒鳴られ、声を上げても殴られ、声を上げても押し殺されてきた中で、声を上げることがどれほど大変か。

この世界に、まだ避難所すら持てないことをつきつけられているのだから。

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