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2020.01.20

残り者

朝井まかて 2019 双葉文庫

まさか、こんなに手こずるとは。

大政奉還し、徳川が江戸城を明け渡す。
その時、大奥にとどまった5人の女性がいたという。
かねてからお気に入りの朝井まかてさんの、なんとも面白そうな題材な一冊を見つけた。
その時はまだ単行本で、迷ううちに文庫化されたので、手に入れた。
そこまではよかった。

5人の女性たちは、それぞれ役職が違う。働いてきた部署、仕事内容、地位、経歴はそれぞれである。
自分はそれなりに知ってはいるつもりであるが、どのように大奥という場が営まれていたかが見えてくるような物語だった。
ある意味で吉原とも似ているのであるが、働くことは、この時代から、ケアレスマンになることなのだと思った。
働く女性は、吉原でも、大奥でも、自分が再生産(出産)することはなくなる。母親として妻として誰かをケアする役割から降りて、就労に奉仕する。
それはある意味で、男性たちの働き方・生き方に準じた役割を取ることを意味するように見える。
同時に、吉原でも大奥でも、部屋子という形で、彼女たちは年少の者を手元に置いて後進として育成することもあり、そこで誰かをケアする喜びを味わった人もいたことだろう。

他者をケアすることが好きな人もいれば、そうじゃない人もいよう。
だが、他者をケアする余裕を与えられない時、自分自身のケアさえ十分になされていないことがある。
自分のケアを他者に任せないと働けないという構造が作られているからだ。
そこのケアレスな状態にならざるを得ない、献身して奉仕して一身に就労してきた女性たちの集合体を大奥に見出す物語だった。

そう考えると、これは企業が倒産したり、吸収合併などして消えていくときの様子にも似ているのではないか。
きっと明日も同じように、ここで働く。いつもと同じように生きる。そんなイメージを抱えながら、人は生きている。
それが、明日はない、と急に言われた時に、どうなるのか。

5人の女性たちは、こっそりと命に逆らって江戸城に隠れて残っている者たちであることから、お互いに探り合ったりして、なかなかすっきりとは物語が進まない。
彼女たちは、なぜ、自分が立ち去らずに残ったか、自分でもわからなかったのかもしれない。
そのわからなさが歯がゆくて、読むのに大層、時間がかかってしまった。
たぶん、もっと劇的な展開やヒロイックな筋立てを期待しすぎてしまったのも、私の間違いだったのだと思う。
何か月、持ち歩いただろうか。
何度か挫折しそうになったが、読み終えてみると、ひどく気持ちの良い物語だった。
『恋歌』と同じ、その節目を生き延びた女性たちの力強さが気持ちよかった。

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コメント

香桑さん、ご無沙汰しています。
3年ほど前に、単行本の方を読みました。

彼女たちの就労が「ケアレスにならざるを得ない」という表現、とてもわかりやすかったです。
そんな状態にあっても、そして「明日からもう、(自らの家だとすら思っていた)職場はない」という状況にあっても、それぞれの立場にたって最善を尽くす彼女たちの凛とした姿が、とても美しい作品だったと思います。

水無月・Rさん!お久しぶりです!!
こちらこそ、すっかりご無沙汰して申し訳ございません。
こんな風にCMをいただいて、すごく嬉しいです。

少し前に読んだ上西充子さん『呪いの言葉のときかた』を読んで以来、現代の労働を考えるときにケアレスマンというキーワードが重要な気がして、頭にずっとあったのです。
まかてさんは、江戸時代に題材をとりながら、現代の問題を映す名手であるので、ふっとつながった気がします。

彼女たちは、最大限に誇りをもって戦ったのだと思うのです。時代というものと。
読み終えてみると、おっしゃる通り、凛として姿がとても美しい作品でしたね。

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