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2020年1月

2020.01.27

イマジン?

有川ひろ 2020 幻冬舎

久しぶりの有川作品。
単行本を1日1章ずつぐらいのつもりで、ゆっくりと読んだ。
少し前なら徹夜してでも一気読みしていたかもしれないが、今回はゆっくりゆっくり。
それは、私の体力や集中力がいまいちというだけではなくて、急いで読むのがもったいなかったのだ。
というのも、これは、長年のファンにはたまらない作品だと思ったから。

主人公は、良井良助。
別府出身。子どもの頃に観た映画『ゴジラvsスペースゴジラ』をきっかけに、映画・映像を作る側になることに憧れて育った。
今は、新宿でゴジラのディスプレイに見下ろされながら、チラシを配っている。
そんな良助が、制作という仕事の現場で成長していく物語だ。

雑誌掲載時に評判を聞いたようなうっすらとした記憶はあったが、前情報ゼロに近い状態で読み始めた。
そして、非常に興奮した。
だってですよ。第一章のタイトルは、『天翔ける広報室』。このタイトルだけで、一気にテンションがあがらないわけがない。
あの作品を思い出すタイトルで、原作のあるドラマを撮影する現場に、良助は関わることになるのだ。

ドラマや映画の裏方の一部である、制作。ロジスティックスを担当する雑用というか、隙間産業というか、土台を支える部門。
私は映像の裏方の役割分担をよく知らないので、職業ものとして楽しむこともできたが、それ以上に、あのドラマやあの映画の裏側ではこういうことがあったんだろうなぁという想像につながって楽しかった。
ファンサービスではないと思うのだけども、これまで映像化されてきた有川作品が、どれだけ大事に作られてきたかを教えてくれる物語だと思ったのだ。
これはあの時のとか、きっとあの作品でとか、それぞれの映像が目に浮かぶようだった。
あのドラマやあの映画の、キャストやモデルになった人たちと再び出会えたような嬉しい読書となった。

私にとってはファンサービスをいただくような贅沢な一冊であったが、もしかしたら、違うかもしれないけれど、映像化されるたびに現れるアンチな人への抗議のようにも感じた。
ここまで大事に大事に作られているものを、知りもしないで、観もしないうちから、否定するのか。
そんな風に、作る側に立つと、感じるのではないだろうか。
もちろん、多くの人にとって残念なケースというのもあるかもしれないが、それでも、大事に大事に作られたものだとしたら、一緒に盛り上げるのがファンの心意気のように思ったりもするのだ。
どうせなら、映像化されたものが盛り上がって、新たに原作を手に取る人が増えて、本と本屋さんが喜ぶような循環があるほうが、私は嬉しいなぁ。

有川浩さんが、有川ひろさんになった、第一弾。
それは、有川浩さん時代の作品で、映像化された小説たちのオマージュがいっぱいの作品で、きっとこれも愛される小説になる。
良助や、良助と一緒に仕事をする仲間たちが、魅力的な人揃いなのだ。上司たちも素敵だし、同僚も有能だし、そこで一生懸命に頑張る良助の姿は、なんといっても応援したくなる。仕事も、恋も。
この作品を入口として、有川ワールドにはまる人も、きっといると思う。はまってから、追いかけているうちに、後で映像を見て、えーっ!?と驚くのも楽しいだろうなぁ。

あー。面白かった!

2020.01.24

かなりや荘浪漫2 星めざす翼

村山早紀 2020 PHP文芸文庫

今年になって、初めて出勤した日。
がんの再々発がわかってから仕事を休んできたが、抗がん剤治療にも慣れてきて、職場復帰したいことを話し合い、短時間だけであるが久しぶりに出勤した日。
その日の帰り道、職場近くの行きつけの本屋さんに行った。
ちょうど、この本が手に入った。私の再出発の記念品であり、自分への御褒美として、手に入れることができた。

表紙を開いたところで、本のカバーのそでの部分に引用された文章に目を留め、それだけで胸がいっぱいになった。

自分の好きな作品を買い求め、支持していくことで、作品を応援することができる。
これは「魔法」なのかも知れない。
ささやかで、でもたしかに、自分の望む、良い方向へと世界を変えてゆく魔法。ひとつひとつは小さな応援の声、励ましの言葉が、インターネットの力を借りて、世界に響くとき、集まって、大きな力を持つ、魔法になる。……世界には魔法使いが満ちているのだ。

作者はこの世界に魔法と魔法使いを見出している。
だから、この本は、読み手を魔法使いにしてくれる本だ。
一番の魔法使いは、そんな魔法を使う村山さんだと思うのだけど。

『かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち』の続きになる。
前作は入院中に読んだ。レビューというよりも、入院生活の記録のような記事を書いている。

前作でかなりや荘という舞台にたどりついた茜音ちゃんだったが、今作ではいよいよ重要な人物たちが舞台にあがってくるという趣だ。
茜音ちゃんはどちらかというと平和で穏やかな少女なのだけども、彼女の才能を周りが放っておかない。
本人が想像もつかないような戦場へと送られようとしているんじゃないかと心配になっちゃう。

しかも、茜音ちゃんを育てようとしている編集者の美月さんにも、ライバルがいるわけで。そのライバルのほうが、茜音ちゃんのライバルになるであろう少女よりも、よっぽど命がけの雰囲気で。
帯にある「命がけで戦うライバル」は、むしろ、大人たちのほうではないかと…。
大人だからこそ、本気の戦いになる。大人げなく、本気の戦いをしてほしい。
かなり、胸の熱い展開である。

戦いそのものは次の巻を待たないといけないが、2つの番外編がそれぞれ素晴らしかった。
この本のための書きおろしである「冬の魔法」も優しくて素敵な物語であるが、個人的には「空から降る言葉」に号泣せずにはいられなかった。
村山早紀さんの物語では、私は繰り返し、泣く、泣くと書いているけれども、本編では油断していたのだ。物語が大きく動くのはこれからで、読むほうも余裕があった。次はなにが起きるか楽しみになるほうが勝っているぐらいだった。
その油断したところに、がつんときた。

これ、なのだ。こういうことなのだ。こういう避難場所が、人を救ってくれる。
私はとてもよく知っている。こんな場所を私も持っている。そんな体験がいくつも私を支えてきてくれた。どんなにぼろぼろに打ちひしがれていたとしても、生き返らせてもらってきた。
そのことを自分なりに書いた「セラピストたち」という記事は、noteで書いたもののなかで一番評判がよかったが、私が書きたかった自分の体験が、そのまま物語となって紡がれているような、不思議な感動だった。
本編も番外編も、命を削るような思いで仕事をしたことがある人の心に、きっと響くと思う。

私がそこで泣くだろうってことは、お見通しだったようなんですけどね。
やっぱり、村山さんは魔法使いだと思うのだ。

2020.01.20

残り者

朝井まかて 2019 双葉文庫

まさか、こんなに手こずるとは。

大政奉還し、徳川が江戸城を明け渡す。
その時、大奥にとどまった5人の女性がいたという。
かねてからお気に入りの朝井まかてさんの、なんとも面白そうな題材な一冊を見つけた。
その時はまだ単行本で、迷ううちに文庫化されたので、手に入れた。
そこまではよかった。

5人の女性たちは、それぞれ役職が違う。働いてきた部署、仕事内容、地位、経歴はそれぞれである。
自分はそれなりに知ってはいるつもりであるが、どのように大奥という場が営まれていたかが見えてくるような物語だった。
ある意味で吉原とも似ているのであるが、働くことは、この時代から、ケアレスマンになることなのだと思った。
働く女性は、吉原でも、大奥でも、自分が再生産(出産)することはなくなる。母親として妻として誰かをケアする役割から降りて、就労に奉仕する。
それはある意味で、男性たちの働き方・生き方に準じた役割を取ることを意味するように見える。
同時に、吉原でも大奥でも、部屋子という形で、彼女たちは年少の者を手元に置いて後進として育成することもあり、そこで誰かをケアする喜びを味わった人もいたことだろう。

他者をケアすることが好きな人もいれば、そうじゃない人もいよう。
だが、他者をケアする余裕を与えられない時、自分自身のケアさえ十分になされていないことがある。
自分のケアを他者に任せないと働けないという構造が作られているからだ。
そこのケアレスな状態にならざるを得ない、献身して奉仕して一身に就労してきた女性たちの集合体を大奥に見出す物語だった。

そう考えると、これは企業が倒産したり、吸収合併などして消えていくときの様子にも似ているのではないか。
きっと明日も同じように、ここで働く。いつもと同じように生きる。そんなイメージを抱えながら、人は生きている。
それが、明日はない、と急に言われた時に、どうなるのか。

5人の女性たちは、こっそりと命に逆らって江戸城に隠れて残っている者たちであることから、お互いに探り合ったりして、なかなかすっきりとは物語が進まない。
彼女たちは、なぜ、自分が立ち去らずに残ったか、自分でもわからなかったのかもしれない。
そのわからなさが歯がゆくて、読むのに大層、時間がかかってしまった。
たぶん、もっと劇的な展開やヒロイックな筋立てを期待しすぎてしまったのも、私の間違いだったのだと思う。
何か月、持ち歩いただろうか。
何度か挫折しそうになったが、読み終えてみると、ひどく気持ちの良い物語だった。
『恋歌』と同じ、その節目を生き延びた女性たちの力強さが気持ちよかった。

2020.01.19

痴漢外来:性犯罪と闘う科学

原田隆之 2019 ちくま新書

痴漢や覗きといった性犯罪加害や、その他の性的な問題行動を「やめたいけど、やめられない」依存症の中に位置づけて、著者は治療を提供する。
依存症そのものが、まだまだ一般的に的確に理解されているとはいいがたい。偏見や誤解が根強い疾患のひとつである。
あらゆる嗜癖行動の中で性的依存症だけは被害者が存在する。この著者の指摘は、なるほどであるが、どきりとした。
だからこそ、加害者に治療をと訴えると、治療か刑罰かと二者択一的な態度で迫られることがあるのだろう。

依存症患者であっても、加害者としてやったことについて刑罰は受けることは当たり前である。
そこに、治療を加えることで、再犯率を引き下げようというのが著者の考えである。明確で、とても賛同できる。
この考えになじまな。い人にこそ、まず本書を読んでいただきたい。治療か刑罰か、ではない。治療も刑罰も、なのだ。
やったことに対しては刑罰を。繰り返さないように治療を。

どのような人が、どのようなことに苦しみ、どのような治療を受けるのか。そのことによって、どのように変われる可能性を持っているのか。
まず知ってほしい。

この本は、痴漢外来の現状を紹介するところから書き始め、病期として性的問題を位置付けていく。
性的依存症の原因と診断、治療についても、多くのページを費やしており、心理臨床業務に就く者として非常に参考になった。
流れとしては、リスクファクターをチェックリストでアセスメントし、その中で変えられる要因を標的にして、CBTと集団療法に導入する。
このくだりで、投影法に対して、ずいぶんと辛辣な批判があり、苦笑いを禁じえなかった。「科学の進歩を妨げる頑迷さ」には、自分も気をつけておかねばならない。

後半はハイリスクな性犯罪者や多様な問題行動、性暴力被害について、順に触れられていく。
個人的には、女性の性依存や性的虐待、性暴力被害の問題、また、同性愛の人たちならではの問題のほうに出会うことが多いので、こうして取り上げられていることがありがたく思った。

私が働く臨床の場でおそらく出会わないのは、ハイリスクな人々である。
そうではあるが、p.204では、思わず、涙が出た。
この感情を揺さぶられる文章を、ぜひ読んでいただきたい。
こんな一瞬のために、たぶん、自分は臨床を続けているのだと思う。

全体を通じて、著者の怒りやもどかしさ、悔しさを感じた熱い一冊。

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