白銀の墟 玄の月 第1巻・第2巻
小野不由美 2019 新潮文庫
18年前。
景王陽子は、利き腕をなくした女将軍と角をなくした黒麒が戴に戻るのを見送った。
たった2騎でなにができるのだろう。
どちらも大きな傷を抱えていた。体にも、心にも、大きな喪失を抱えていた。
それでも、彼らは彼らの国に帰らなければならならなかった。
自分たちだけが安全な場所でのうのうと過ごすことを、自分に許すことはできなかった。
読者もまた、悲壮な覚悟をもって旅立つ彼らの背中を見送ることしかできなかった。
あれから、18年が経った。
あっという間のようであり、彼らの消息を知ることをあきらめたこともあった。
しかし、ようやく、物語に時代が追い付いたように感じた。
戴の悲惨は、今の、この国の悲惨に他ならない。
そう考えるほど、現実に貧困や無力感が充満しつつある。他人事ではない。
なにをどうすれば、人々が食べるに困らず、寒さに凍えず、いたずらに殺されない、そんな政治が行われるのだろうか。
戴の嘆きを自分の嘆きと重ね合わせながら、2冊の物語を読み進めていった。
あまりにも重なりすぎて、その重たさに嘆息し、のろのろとしか読み進められなかった。
希望はどこにあるのか。
あの方はどこにいるのか。
古馴染みの名前と再会するたびに、読む速度は速まっていった。
彼は、彼らはどうなったのか。今も生き延びているのか。味方になってくれるのだろうか。
味方が集まれば、そこに希望を見出すことができるのではないかだろうか、と。
読み進めるほど、希望にすがりたくなる。
逃げ水のような、追いかけるほど遠のく希望であるが。
一喜一憂を何度しても、その希望に手を伸ばさずにいられない。
どうか、この国の悲惨が終わるようにと。
しかし、また一ヶ月を待たなくてはならない。
見届けないわけにはいかない。彼らの旅のゆくつく先を。
希望は残されているのだろうか。
*****
以上、ネタバレしないように精一杯、留意してみた。
この本を読むのは、自分の目で確かめたいと思う人ばかりだろうと思うので。
物語の重厚さ、さすがでした。
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