コンビニたそがれ堂:猫たちの星座
村山早紀 2019 ポプラ文庫ピュアフル
これは自分の物語。
特別な一冊が、また増えた。
この世で売っているすべてものが並んでいて
大事な探しものがある人は 必ず ここで見つけられる
風早町を守る狐の神様が趣味でしているコンビニたそがれ堂。
そのシリーズも8冊目となった。今回は「一冊丸ごと猫特集」である。
今日のたそがれ堂のお客さんになるのは、しっぽの短い麦わら色の子猫。
子猫がとぼとぼとてとて、冬の寒い町を一人で歩いているところを想像してほしい。
温かい安心できる家から離れて、足の裏を汚したり、怪我したりしながら、お腹をすかせて歩いている。
それだけでもう、私は泣かないように唇をぎゅっとかみしめたくなる。
その子猫の願いを聞いた押しかけ店番のねここは、二つの物語を聞かせてあげるのだ。
人と猫の、優しい優しい物語を。
生きていく末に、人は必ず老いる。病を得ることもある。
そして、必ず死ぬ。
死は悲しみや寂しさをもたらすものであるが、死なない人はいない。
この数年の著者は、いつか気持ちよく旅立つような、そんな死もあるだろうと、教えてくれるようになった。
死を嘆くばかりでもなく、恐れるばかりでもなく、満足した心持で、いつか来る日を迎えることができるかもしれない。
それは、人生の折り返し地点を過ぎた私にとっては、この上ない希望であり、福音だったりする。
ここからは、多少のネタバレも含む。
小説家は魔法使いのようだと思った。
冒頭の子猫が歩いているシーンから涙ぐんでいた私だったが、『サンタクロースの昇天』の後半は、涙が流れて止まらなくなった。
だが、本番は『勇者のメロディ』のほうだった。
村山さんが、私をして特に泣いちゃうかもねと予告してくださっていた意味がよくわかった。
これは泣く。絶対に泣く。今、読み返していても泣く。
私にとっての勇者のメロディであるDQ2の「果てしない世界」を耳に蘇らせながら読み進めた。
そう。そうなんだよ。
このシリーズを読んだ人なら、自分がたそがれ堂に行ったらなにがほしいか、きっと考えたことがあるだろう。
私は行ってみたいなと思っても、ほしいものが思い浮かばないのだ。
しいて言えば、美味しいと噂のおでんとおいなりさん、そして、コーヒーをいただきたい。
それだけで、もう十分、私は自分の人生を満たされてきた。あきらめてきたものもいっぱいあるけれど、それは今ほしいものではない。
私よりも誰かもっと必要な人に、奇跡は譲ってほしいとさえ思っている。
そんな心を、どうやって見抜かれてしまったのだろう。
自分が暴かれるようで恥ずかしいけど、自分をわかってもらえたという体験が襲ってきた。
しゃくりあげるように泣いてしまったとしても、仕方なかったのだと思いたい。図々しいとは思うけれど、これは自分の物語だと思うことにする。
実際に占い師のような仕事をしているわけだし。
いつか、見送ってきた猫たちと会える日を夢見ておきたい。
そして、麦わら色の子猫にはとっておきの魔法が与えられる。
素晴らしい未来。これ以上の魔法はない。
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