2019年7月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

著者名索引

香桑の近況

  • 2019.1.25
    2018年 合計33冊
    2017年 合計55冊
    2016年 合計50冊
    2015年 合計32冊
    2014年 合計26冊
    2013年 合計32冊
    2012年 合計54冊
    2011年 合計63冊
    2010年 合計59冊
    2009年 合計71冊

    合計475冊
無料ブログはココログ

« 2018年12月 | トップページ | 2019年2月 »

2019年1月

2019.01.28

あずかりやさん:桐島くんの青春

大山淳子 2018 ポプラ文庫

これは、セラピーの本だと思う。
心理的な援助職についている人が、自分たちが何をするか、見直す視座を与えてくれる本だと思う。
一冊目から予感のようなものはあった。二冊目はそれ以上だ。

「困ったときはそこへ行こう」となぜだか思っていました。ふるさとのないぼくにとって、それにかわるような存在だったのかもしれません。他人のものを受け入れ、あずかってくれる場所がある。そのことが心に余裕のようなものをくれていたような気がします。(p.10)

これは、セラピーの本だと思った。冒頭から。
心理的な援助職とは、こういう機能を果たすものだということが、そのまま書いてあるように思った。
今、目の前にある関係でなくていいのだ。
心のどこかに繋がり、余裕をもたらすことができたら、いい。
治療者の姿勢を示されたように思った。ちょっとした衝撃だった。

桐島くんの青春というと、一冊目に登場した石鹸さんとの物語かしら?なんて想像しながら読み始めたのだけど、そんな具合に最初からやられてしまった。
一冊目が、和菓子屋だった頃の名残ののれんやガラスのショーケースが店について語ったように、今度は文机が語りだす。
お客さんの一人が語り手となるのは、青い鉛筆の物語。
「夢見心地」と題された、オルゴールの長い長い物語。古い細工物の持つ歴史は、中高年の心境と響き合う深みがあった。
そして最後に、桐島少年が主人公となる。初めて、桐島の「目線」で語られる物語だ。

不思議なものだ。
物語というのは、文章というものは、「目」で読む。
しかし、そこに綴られているのは「言葉」であるから、映像が示されているわけではない。
あずかりやさんの店主である桐島は、途中で視力を失った青年であるから、音や香り、手触りや気配といったものを大事にする。
本は目で読むけれど目に見せず、音や香りも再現するわけではない。
だから、きっと、文字でも難しいけど、「言葉」が、視力の有無にかかわらず、私たちを繋ぐ共通言語となる。
言葉だけがなれるのかもしれない。

桐島は少年だった時から、淡々としている。
ただ、受け入れることしかできなかったこと。否認することしかできかなかったこと。
変わってしまった世界の中で、変わらないものを保とうとする。
映像としては確認できなくなってしまった思い出を、違う形で記念して、残さざるをえなかった。
彼にとって写真は確かめようがなく、音もにおいも熱も手触りも残しようのないものであるなら、こうするしかなかったのだと思う。
それはとても、とてもとても、大事なものだったから。
その大事なものは何であったか、本書を読んでもらいたい。

もしもは現実になりました。もしもは未来にあるのです。夢は持っておくものですね。(p.165)

「もしも」は心残りです。その心残りこそが「夢」ですし、それがこの世に生まれた証で、宝物のような気がするのです。(p.170)

このような哲学に裏打ちされた、心根の美しい物語だった。

 *****

ここで感想を終えてよいのだが、もう一つだけ、付け加えておこうと思う。
これも「夢見心地」という短編からの引用になる。

見えない目標に向かって試行錯誤するのが芸術家で、見えている目標に向かって試行錯誤するのが職人なのではないでしょうか。(p.115)

artは芸術という意味と、技術という意味と、両方を持っているから、単純にわけることは難しい気もするが、私の中で連想が働いた。
悩んで心理療法を希望する相談者は、目標が見えない中での試行錯誤という点で、芸術家のようなものではないだろうか。
そして、そのような人を支援するという目標を見ながら試行錯誤する心理支援職は、職人でありたいと思ったのだ。
職人芸もまた芸術的であるように、人を支援する技術を磨き続けておきたいものだ。

2019.01.25

2018年の読書

<1月>
春日武彦・平山夢明 2017 サイコパス解剖学 洋泉社

<2月>
雪村花菜 2018 紅霞後宮物語 第七幕 富士見L文庫
髙田 郁 2018 あきない世傳 金と銀5 転流篇 時代小説文庫
坂井希久子 2018 さくさくかるめいら:居酒屋ぜんや 時代小説文庫

<3月>
村山早紀 2018 コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙 ポプラ文庫

<4月>
村山早紀・げみ 2018 春の旅人 立東舎
内藤公典 2016 となりのイスラム ミシマ社

<5月>
瀬川貴次 2018 ばけもの好む中将7:花鎮めの舞 集英社文庫

<6月>
雪村花菜 2018 紅霞後宮物語 第八幕 富士見L文庫
小手鞠るい 2016 九死一生 小学館文庫
佐藤さくら 2018 魔導の黎明 創元推理文庫
青木祐子 2018 これは経費で落ちません!4:経理部の森若さん 集英社オレンジ文庫

<7月>
かたやま和華 2018 笑う猫には、福来る 集英社文庫

<8月>
村山早紀 2018 星をつなぐ手:桜風堂ものがたり PHP研究所
ハイディ・マッキノン 2018 おともだちたべちゃった 潮出版社
隙名こと 2018 「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ ポプラ社
三國青葉 2018 心花堂手習ごよみ 時代小説文庫

<9月>
佐野香織 2018 永善堂病院:もの忘れ外来 ポプラ社
髙田 郁 2018 花だより:みをつくし料理帖 特別巻 時代小説文庫
恒川光太郎 2018 滅びの園 KADOKAWA

<10月>
武藤裕子 2018 帰って10分絶品おかず:作りおきも下準備もいらない 新星出版社
渡辺大補 2018 性の多様性ってなんだろう? 平凡社
坂井希久子 2018 つるつる鮎そうめん:居酒屋ぜんや 時代小説文庫
三國青葉 2018 学園ゴーストバスターズ 小学館文庫
三國青葉 2018 学園ゴーストバスターズ:夏のおもいで 小学館文庫
雪村花菜 2018 紅霞後宮物語 第零幕 3:二人の過誤 富士見L文庫
瀬尾幸子 2017 みそ汁はおかずです 学研プラス。
坂詰真二 2017 世界一やせるスクワット 日本文芸社
H.S.ホランド 髙橋和枝(訳) 2012 さよならのあとで 夏葉社

<11月>
小川たまか 2018 「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。 タバブックス

<12月>
中西なちお 2018 トラネコボンボンの365日 世界一周 猫の旅:明日はニャンの国? 猫といく冒険 誠文堂新光社
はしもとみお 2018 猫を彫る 辰巳出版
セルジュ・ティスロン 阿部又一郎(訳) 2018年 家族の秘密 文庫クセジュ

2018年 合計33冊

資格試験のため、読書は控えめの一年でした。
試験が終わったら終わったで、なろう系をネットでがんがん読んでいたため、読書(書物という本の形態になっているものを読む行為として自分では捉えています)として数に加えてはいません。が、いつになく文字を追い続けていました。
また、昨年はNetGalleyさんを利用させていただくようになり、出版される前の原稿を読ませていただくという面白い経験をしました。
今年はどれだけ物語の世界を旅することができるでしょうか。
レビューをあげることが負担に感じるときは、読んで楽しむだけで終わらせているため、ここの更新もまばらですが、引き続き、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

あずかりやさん

大山淳子 2015 ポプラ文庫

え?

と、不意打ちされた。
一人称でつづられるオムニバス形式の短編集で、語り手は話ごとに代わっていく。
主役は語り手よりも、どちらかというと、あずかりやさんとその店主であろう。
あずかりやさんとその店主をめぐる物語を、関わるもの達が語っていく。
その語り手に驚いた。意表をつかれた。びっくりした。

あずかりやさんの店主である青年は、名を桐島という。
店の入り口に揺れるのれんは「さとう」と白抜きにした藍染。
その由来も物語に譲るとして、この青年は視力を途中で失っている。
だからこそ、彼を見守るもの達しか、資格情報を語る語り手になりえないのだ。

この仕掛けを最大限活かす巧みさと同時に、過剰な悲劇性をこめるのではなく、個性として描く書き手の姿勢が素敵に感じた。
目が見えないから生じうることに、時々、物語の筋とは別のところで、はっとさせられることもあった。
だけど、魅力は、彼の忍耐強いたたずまいにある。
静かで淡々とした語り口の優しくて柔らかい物語である。

1日100円で、なんでも預かるというお店。
その不思議なお店がどのように始まったのか、第一話から引き込まれた。
下町の商店街の昔懐かしいようなのどかさと、徐々に失われていく寂しさと。
一冊の中で時間が容赦なく過ぎていくことがもったいないような素敵な世界だった。

Twitterでフォローしている書店員さんたちがずいぶんと話題にしていた本だった。
記憶にいつか読む本として記録されていた一冊だ。
本来の表紙の上に、あたたかな色合いの市松模様のカバーがかけられて、平置きにされていた。
気になって、気になって、ようやく手に取った。
これは、読書好きの心をつかむはずだ。優しい心の本好きさんたちに愛されるはずだ。

2019.01.08

あたしとあなた

谷川俊太郎 2015 ナナロク社

美しい装丁に惹かれて手に取った。
箔押しの表紙に、青い薄紙のページ。
海に潜るような、空に昇るような。
ひっそりとして人知れぬ世界を包む本だ。

あたしとあなた。
そばにいるのに、わかりあえない。
あたしとあなた。
二人でいるのに、孤独が深まる。
あたしとあなた。
二人でいるから、対立してしまう。

まだ若く、未来に時間が多くあり、エネルギーがあり、共にあることを喜びとする「あたしとあなた」ではない。
共に生きてくることはできたけれども、共に死ぬことはできない、老齢期の「あたしとあなた」の言葉たちのように感じた。

もしかしたら、どちらかが認知機能の衰えから疎通性が低下していたり、他方を認知することが難しくなっているのかもしれない。
また、もしかしたら、それぞれに死期を迎えていたり、片方はすでに思い出のなかの人となってしまっているのかもしれない。

そんなひりひりとした孤独と、絶望を通り過ぎた諦念だけが持つ儚さ、軽やかさが、悲しくなった。
悲しくて、悲しくて、泣くことさえ許されない。
そんな風に、もの悲しい気持ちでいっぱいになった。
きっといつか、自分もまたこんな風に別れていくのだろう。別れるしかないのだろう。そんな未来を見せられた気がしたから、かもしれない。

  あたしは
  神を
  探しに行く
  迷子に
  ならないように(pp.56-57)

迷子に、ならないように。

« 2018年12月 | トップページ | 2019年2月 »

Here is something you can do.

  • 25作品のレビュー
  • 80%
  • グッドレビュアー
  • プロフェッショナルな読者

最近のトラックバック