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香桑の近況

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2018年8月

2018.08.31

心花堂手習ごよみ

三國青葉 2018 ハルキ文庫

続きを! 続きを早く!!
読み終えた瞬間に身もだえた。
これは、この後の展開が気になってしょうがない。

江戸は日本橋、商家や武家の女の子だけを集めた手習い所が舞台。
師匠になりたての主人公・初瀬の悪戦苦闘の幕開けだ。
旗本家で祐筆をしていた真面目でうぶな女性で、甘いものを美味しそうに食べる。
私自身も塾講師などをしたことがあるから、初瀬の悪戦苦闘にはあーあるあるとうなずいた。
彼女の戸惑いや気苦労を経て、少しずつ師匠として落ち着ていく様子を応援したくなった。

なにしろ女子校の先生になるようなものなのだから、そりゃあ生徒たちだって一筋縄でいかない。
物語の中の少女たちは、現実の症状たちと同じように、それぞれの家庭の事情があり、それぞれの個性や思いがある。
そして、女の子たちというのは噂話が好きで、人の恋話が大好きなのだ。
甘いものと並んでの大好物と言ってもいい。
少女たちと、きゃあきゃあと騒ぎ立てる気分になり、何度も笑いを噛み殺した。

子どもたちの活き活きとした様子が可愛らしくて仕方がない。
作者の方の眼差しが、このように温かみがあり、慈しむものなのだろう。
時代小説というジャンルの中で、こんなに可愛くて楽しい物語と出会えたことが嬉しい。
きっと幸せな気持ちになれるのではないかという予感が働く語り口だ。
少女たちの成長を見守ると同時に、初瀬の恋の行方を見届けたい。
物騒な話に疲れている人や殺伐な話は苦手な人には、特にお勧め。
じれったい男女が好きな方にも、ぴったり。

2018.08.03

おともだち たべちゃった

ハイディ・マッキノン 2018 潮出版社

恐ろしい外見なのに、うじうじとしているモンスター。
彼はお友達を食べてしまい、ひとりぼっちになったモンスターだ。
そして、新しいお友達になってくれるひとを探している。

とてもシンプルな物語であるからこそ、いくつもの解釈が成り立つ。
読み聞かせる大人が解釈を付け加えると途端につまらなくなりそうだ。
もやもやとした余韻が、考えさせられるところが、すごくいいと思った。

ユーモラスな絵柄に反して、少し後味が悪いところがいい。
「たべちゃった」というとぎょっとするが、「きずつけた」と置き換えれば、この主人公のような後悔の念は、大多数の大人は体験したことがあるのではないだろうか。
だからハッピーエンドを期待するのであるが、だからラストにたじろぎ、この物語には救いがない、終わりがない物語だと感じるだろう。

言い換えれば、この物語は成長譚ではない。因果応報譚と考える。
これをやすやすとお友達ができてめでたしめでたしにしてしまうと、冒頭で主人公が「おともだち たべちゃった」という罪を無かったことにしてしまう。
だから、主人公は報いを受けなければならない。
しかし、読み手は、主人公を弾劾しながら読むのではなく、主人公の後悔に共感しなかがら読むので、許されなかったことに後味の悪さを感じるのだと理解できる。

このような読みをすると、これは救われてはいけない物語である。
世の中には取り返しがつかないこともあるのよ。お友達を大事にしましょうね、なんて言葉を付け加えてしまうと、途端にチープになる気がして面白くない。
そう感じたので、もう一つの自分の考えたことを言葉にしようと思う。

最後のモンスターの背中を見ると、このモンスターは主人公と同じ後悔を抱え、同じようにさまようことが予測される。
「おともだち たべちゃった」という行為を繰り返すということは、これは実は主人公自身ではないだろうか、と想像した。
なぜ、かれがモンスターになったのか。それは「おともだち たべちゃった」からではないかと考えてみよう。

かれのもともとの姿はすでに失われており、モンスターとなり果ててしまった。
かれの飢えや渇きは止まらない。大事なものを食べてしまい、ひとつの存在になったが、心は満たされることがなかったからだ。
かれは同じ過ちを繰り返す。差し出された手をつかみ、他者を取り入れ、同一化してしまう。同一化して他者がいなくなれば、残るのは孤独だけである。
かれは自分の姿かたちをうしなって飲み込んだひとの姿になったのかもしれないと、私は連想したのだ。

さらに、もう一つの解釈の可能性を考えることができる。
それは、かれが「おともだち」のなにを「たべちゃったの」のか?という問いから発する。
このレビューの中で、最初に挙げた解釈は、主人公がおともだちに食べられてしまう物語通りの理解。
ふたつめの解釈は、主人公が新しいおともだちも食べてしまったのではないかという可能性。
みっつめの解釈は、新しいおともだちが主人公の心だけを食べた=もらった可能性だ。
いいやつだったのに、いいやつだったから、彼の孤独、後悔、衝動性をもらって、去って行く。

このような対人関係の間違いを繰り返す人は多い。
相手と一体化したいという願望の強さは、幼児的なファンタジーである。
母子一体となったハッピーな時代の記憶の余韻が、他者にも同じような一体化をなすように要請する。
離れると怖い、離れていくことだ不安だ。そんな気持ちを持ちやすい人は、ますます相手にしがみつこうとして、相手が離れていくことを繰り返しやすい。
自分で抱えられない不安を投げ入れられた人は、その浮き沈みの激しい感情に耐えさせられることに疲れてしまうからだ。
いつも同じ対人関係を繰り返す人は、主人公と同じモンスターになってはいないだろうか。
こうして考えると、これは衝動制御の物語や摂食障害の物語、対人関係を維持することが難しい人格の偏りの問題を抱えている人の物語として読むことが可能になる。

おともだちになることよりも、おともだちでい続けることのほうがずっとずっと難しいのだ。
子どもはこのモンスターと出会い、一緒に友達を探し、最後はまた人に戻ってきてほしい。

 *****

#NetGalleryJPより。

2018.08.01

「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。

隙名こと 2018 ポプラ文庫

高校生の目立たないけど普通な男の子が主人公だ。
教室の隣の席は、無表情で無口で、なかなか登校しない美少女だ。
高校生というのは、まだ世界をあまり知らない。
本人は知っているつもりでいても、10代ならでは、学生ならではの限界がある。
その無垢な状態は、冒険者になるのにふさわしい条件なんだと思う。
彼らの出会いから始まる物語は爽やかで、読み手を少し裏切るだろう。

笑顔の裏に、人はそれぞれの苦手や傷を隠す。
自分の隠しているものは自分だけは知っているから、自分だけがつらい思いを抱えているように勘違いしやすいものだ。
そのくせ、人もまた苦手や傷を持っていることに気づけるかどうかは、別の話になる。
どんなにわかっていても、笑顔の他者のその裏側に思いをはせることが難しいことがある。
知られたくなくて苦手さや傷を隠しているのだから、その隠し方がうまいとどうしても気づけないものであるし、気づかないふりができることも大事な社交の技術ではある。

同時に、人の幸も不幸も、冷笑したり嘲笑したり、暇つぶしのコンテンツにしてしまう御時世だ。
ネットの中には、無責任に無邪気な悪意がふりまかれている。
当事者を傷つけようなんて意思はなくて、ただ面白おかしく楽しんでいるだけかもしれない。自分とは他人事だから楽しめるのかもしれないし、不謹慎な言説を紡ぐこと自体を楽しむ文化もある。
あるいは、傷つけることを楽しむ人もいないわけではない。匿名だから、気軽にできてしまうことだ。

そういう気軽に紡がれている言葉が当事者に届く。だって、当事者はあなたの隣にいるかもしれない。
SNSではもっとダイレクトに相手に伝わる可能性が高い。
そこで書かれる悪口は、こっそりではない。聞こえるように言う悪口に等しい。
自分の笑いが、人の傷を二重三重に傷つけることになることへの想像力を、説教臭くならずに、物語としてぽんと目の前に置いて見せたところがすごい。

かといって、物語は決して重くなりすぎない。痛々しくもない。
登場人物たちが可愛く思いながら、読み手も安心して、安全なまま、読み終えることができる。
主人公たちのまっとうな感覚と出会えたことが、私にとっては希望となった。作者の方のお人柄だと想像するが、こんな物語を紡ぐ人がまだまだ生まれていることが希望である。
こういうまっとうで健康なこころの根っこを育てる物語と出会えたことが嬉しかった。
ぜひ、主人公と同年代の人たちにも、もっと年上の人たちにも、このタイトルはどういう意味だろう?と首をひねってもらいたい。

 *****

#NetGalleyJP  #「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。 #水品さん

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