魔導の黎明
佐藤さくら 2018 創元推理文庫
真理の織り手。
このシリーズの名前がようやくわかった。
シリーズ4冊目にして最終巻。1巻と並べて表紙を見比べると、一層、感慨深い。
レオンは40代、ゼクスは30代になった。
相変わらず、仲が良くて。
相変わらず、じっとはしていられない二人だ。
物語はラバルタとエルミーヌの二つの国を行きかう。
ラバルタではますます、悲惨な状況になっている。
魔導士を弾圧するようになった国で、そこで生きるしかない人々が抵抗と反乱の狼煙をあげて10年。
さらなる差別、さらなる暴力が、人を追い詰めていく中で、希望を見出すことはできるのか。
『系譜』『福音』『矜持』の登場人物たちが次々と登場する。
あの人も、この人も。ああ、これはきっとあの人だ。
懐かしく感じる人もいて、物語がここまで進んできたことに感動した。
登場人物たちと作者と共に歩んできた過程に、感慨深かった。
物語ではあるが、この社会の閉塞感は、どこか現実の写し鏡となっている。
差別に対抗するために差別をしようとする人たちがいる。
暴力を振るわれないために、暴力で相手を殲滅させないと気が済まない人たちがいる。
差別や暴力の連鎖は、今、世界の各地で、この身近な場所でも、大なり小なり繰り返されている。
読みながら、そこにガザの人々が思い浮かび、ネット上のレイシズムやヘイトな言説が思い起こされ、時に息苦しくなりながらも、最後まで没入せずにはいられなかった。
もしも、自分の生きる価値がわからないとか、自分はだれにも必要とされていないと悩む人がいたら、このシリーズと出会ってほしい。
この作者の紡ぐ物語と出会ってほしい。
生きていいんだよね、と。
生きていいんだよ、と。
作者の方に心からのお疲れさまと、次作を楽しみにしていることを伝えたい。
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