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2018年3月

2018.03.06

コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙

村山早紀 2018 ポプラ文庫ピュアフル

クリスマスの頃に書かれた、冬の空気が春の気配に溶けていくような優しい物語。
雪が、雪柳になる。冬の金属質のにおいが、花のほろこぶ香りになる。
3つの物語、それぞれに胸がきゅうきゅうと締め付けられ、何度も涙がこみ上げ、鼻をすすり、ティッシュペーパーのお世話になった。
これから読む人は、どうぞ、タオルと箱ティシュのご用意を。

コンビニたそがれ堂のアルバイトから店員になったねここさんが、お弁当を届けるところから始まる「雪柳の咲く頃」。
猫さんが出てきたところで、既に泣きそうになった。
思い出すのは、かつて、駅前の角にあったタバコ屋の景色。
猫のおしっこのにおいがする、古くて汚いと、嫌がる人もいたことを知っている。
私が見たのは小柄な黒猫の女の子。赤い布のリボンを首につけてもらっていた。
その女の子に会いに、でっぷりと大柄なキジトラさんが通っていて、店頭で招き状態になっていた。
駅の主のように堂々と横切るキジトラさんで、通りすがりの人たちにも機嫌よく撫でられていた。
私が座り込んで撫でていたら、若い男性から声をかけられて驚いたことがあった。その男性は猫ご飯のパウチを片手にしていて、あげないかと声をかけてくれたのだった。
そのキジトラさんを最後に見た時、足を引きずり、汚れて、やせており、もう立ち止まってはくれなかった。

角のタバコ屋も、もう今はない。
もう今はない景色が、風早の町は思い出させてくれる。
再開発の名のもと、壊されていった大正時代からの商店街や戦前からの駅前の通り、住宅地。
新しい町になると、便利になる、安全になる、きれいになると言われるし、それはそうかもしれないが、私の心の中に刻まれた古くて懐かしい景色がきらきらと蘇る。
きっと風早の町は、そんな心のアルバムに刻まれた景色の集合体であるから、子ども心に戻って遊ぶことができるのだろう。
心が惹かれずにいられないのだろう。

ふたつめの「小鳥の手紙」は、最後の数ページで頭の中が真っ白になるほど泣いた。
こんなに泣いたこと、あったっけ?と思うぐらい泣いた。
更に、3つめは『百貨の魔法』の番外編になっていた。
コンビニたそがれ堂の風早三郎さんと、百貨の魔法の白い子猫の競演とは、なんて豪華なんだろう。

なにげないシーンのひとつひとつ。
たとえば、おでんのこんにゃくを食べる。
それだけのことなのに、声をあげて泣きたくなった。
途中から、涙のスイッチが切れなくて大変だった……。
これはどういうことだろうと考えてみる。

寂しかったり、悲しかったり、つらかったりしている子ども達や、かつて子どもだった人たちに、こうなったらいいなぁ、こうしてあげたいなぁ、と私が思うことを、私の代わりに村山さんが物語の中でしてくれる。
だから、私にとって願望を充足してくれる物語である。
私は子どもを持つことがなかった人間であるが、誰かの心の代理母のように、愛情を注がせてもらい、しかも、愛情を返してもらうことがある。
そうとしかできない私を肯定あるいは受容してくれる物語のように感じた。
だから、私はこの本を読むと、ひどく安心することができたのだと思う。
いつにも増して優しくて優しくて、自分を見守る眼差しを感じつつ、自分もまた誰かを見守り続けたいと祈るように誓うように思った。

作者の方をTwitterで追いかけているので、この本を書かれた時、作者の方がとても大変そうだったことを記憶している。
その様子はあとがきにも書かれているのだが、そんな時にこんな優しい物語を……と思うと、それはそれでまた胸がつまった。
優しい方が紡ぐ、優しい言葉の、こんな優しくて素敵な魔法を信じていたい。
大丈夫。世界はきっと悪いことばかりじゃない。いいこともある。
人の心は捨てたものじゃない。未来には、なにかよいものが、きっとある。きっと。

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