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2017.05.12

恋歌

朝井まかて 2013 恋歌 講談社

苛烈で凄惨。
歌は、その歌だけで味わうのもよいが、背景が加わることで更に輝きを増す。
それが命がけで詠まれたものであるなら尚更、背景を知ることが意味を知ることになる。
幕末の時代から明治を生きた歌人、中島歌子の生よりも、その時代の描写に圧倒された。

明治維新は江戸城の無血開城で成ったとはいうが、施政者がただ単に交代しただけではなかった。
なにも江戸城や京の都だけで起きた大事件ではなく、その時代に住む人の生活をあちらこちらで大きく変えるものだった。
たとえば、髙田郁『あい:永遠にあり』も江戸城の外で展開される幕末であったが、主人公のあいは中島歌子に比べればまだ穏やかな人生であった。
二人を決定的に分けるのは、あいが農民、歌子が商人の娘であったことよりも、夫が医師であるか武士であるか、それも水戸の武士であったかどうか、であるように思う。

登世という娘は、江戸の富裕な商人の娘として何不自由なく生まれ育った。
彼女が結婚した相手は水戸藩士。
当時、水戸の藩士は天狗党と諸生党に二分して政権争いをしていた。
その争いは、積年の恨みとなり、血で血を洗い、骨を相食むことになる。
戦闘の表舞台に登世があがることはないが、武士の妻女として投獄されて悲惨を味わう。
食べものを十分に与えられず、寒いなかに捨て置かれ、傷病の手当ては受けさせてもらえない。
身分の高い家の子どもともなれば、趨勢が決まった時に目の前で斬首されていく。
そんな悲惨を味わう。

これのどこが、アウシュビッツと異なるだろうか。
明治維新は、ほんのたった150年ほどの昔のことだ。。
当時は当時の教育があり、知性があり、理性はあっただろう。
しかし、人は残酷になれる。どこまでも冷酷になれる。野蛮にはきりがない。
日本人は礼儀正しいとか、武士は高潔だったとか、思いたがる人たちもいるけれど、例に漏れず、こんな野蛮な歴史をちゃんと抱えている。
この野蛮さは過去もあり、現在もある。現在だって、残念ながらしっかりとある。
尊皇攘夷を謳った人たちが維新後に先を競って欧米に倣おうとした皮肉と矛盾も、今も大差がない気がする。

この物語、導入と結びの仕掛けも素晴らしい。
一人の歌人の手記を通して、歌しか抱きしめることができなかった恋と、歌しか残すことができなかった人々が語られる。
そして、歌を命がけで詠むような時代ではなくなってしまった世界に、歌ではないものを残していく。
いとしい人は、どうして先に死んでしまったのか。
厳格に追求すれば騒乱が起きる元。相手が滅ぶまで追求しあう男達の対立を、人を愛すること、人を知ることで、ささやかに解決を図ったのは女達だった。
忘れられない愛しさだけが憎しみを超えて、復讐を恐れて手加減できなくなる愚かしさを、終わらせることができたのだ。
心のままに生きることの難しさ、共に死ぬことの難しさが切なかった。

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コメント

香桑さん、こんばんは(^^)。
思いを三十一文字込めて高らかに歌い上げた歌壇の華・中島歌子の苛烈にして激動の生涯、そしてその背景にあった時代を読みながら、とても胸が熱くなったことを思い出します。
読後に広がる温かさが、とても心地よかったです。

水無月・Rさん、こんにちは。
決着のつけ方が見事でしたね。
歌子の死後を語るためには、このような花圃という読み手が必要だったのでしょう。
花圃がいて初めて、歌子が命がけで詠んだ歌、その歌を詠むためには命を閉じなければならなかったことを伝えられますもの。

読み終えて数日経ち、それでもなお、じわじわと気持ちが揺さぶられる気がします。
忘れることも教えてほしかったとは、悲しいなぁ。

そう。正にその通りで、歌子という一人の女性の生よりも、あの時代の描写に圧倒された物語でした。特に投獄の様子の悲惨さに言葉を失ったものでした。
それでも、だからこそ、歌子の想いがまた胸に迫ってきた物語でもあったように思えます。。。

すずなちゃんの言うとおりで、歌子の想いが胸に迫りましたね。
一人残されて、かすれた声で「瀬をはやみ」とつぶやいていたところは、涙腺決壊ものでした。

夫を愛していたからこそ、歌子は自分の敵を正しく見つけることができたんだと思います。
諸生党だけではなく、天狗党もまた夫を殺したものに違いなく、争いそのものが歌子の敵だったんじゃないかなぁ。
こんな人生、こんな時代、しんどいなぁ。

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樋口一葉の歌の師匠であった中島歌子。彼女の波乱に満ちた人生を描いた作品。 [続きを読む]

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