花咲家の人々
村山早紀 2012 徳間文庫
風早町にひっそりと住む、ある家族の物語。
植物と会話することができる一族だが、その力は知る人ぞ知るものだ。
風早町は村山さんのいくつもの作品の舞台となっている町だから、そんな力を持つ一族が普通に住んでいてもおかしくない。
町も、そこに住む人も、不思議なことには懐が広いのだ。
おとぎ話のように、読んでいる間、穏やかな時間が過ぎてゆく。
老いていく人々や、死んでいった人々との出会いが心に残る。
不思議な力を持っている一族であっても、時間は同じように流れていく。
どれほど不思議な力をもってしても、老病死から救えるわけではない。
けれども。
老病死と老病死苦とは違うんだなぁ、と、これを書きながら気づいた。
三角屋のおじいさん、かっこよかったなぁ。
老いてこそなしとげられることがあり、病を得てこそ気づけることがあり、死んでもなお残せるものがあるとするなら、それはただただ苦しいものではなくなるような気がする。
しんみりとはするけれども、逃げ出したいほどの、でも、逃げ出すことのできない苦しみが、もっと透明で美しい色彩のものに塗り替えられるような魔法を感じた。
春の庭の女王とばかりに咲き誇る桜や、ベンチを綺麗な彩りで特等席に変えるバラや、冬の庭を飾るクリスマスローズに。
植物は自ら動くことはないけれども、心はあるのかもしれない。
村山さんの作品では、これまでも植物が魔法の担い手としてちょくちょく登場してきたが、このシリーズではそんな植物たちが重要な役割を果たす。
花咲家の人々が、人々と植物の間に立って、これからどのような物語を紡いでいくのかを楽しみにしたい。
それだけではなく、『みどりのゆび』や『ライオンと魔女』といった古典の童話が出てくるのも、読書しながら育った人には楽しみになると思う。
ここからどんな本であるか、手を伸ばす人がいあたら、それも素敵な魔法。
風早町が舞台なだけに、そこでコンビニたそがれ堂の出番ですよ! 三郎さん、助けてあげてぇ~と、ついつい思ってしまうこともあった。
それは、私が最初に読んだ村山さんの作品が、コンビニたそがれ堂だったからなんだろうな。
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