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香桑の近況

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2016年12月

2016.12.27

花咲家の人々

村山早紀 2012 徳間文庫

風早町にひっそりと住む、ある家族の物語。
植物と会話することができる一族だが、その力は知る人ぞ知るものだ。
風早町は村山さんのいくつもの作品の舞台となっている町だから、そんな力を持つ一族が普通に住んでいてもおかしくない。
町も、そこに住む人も、不思議なことには懐が広いのだ。

おとぎ話のように、読んでいる間、穏やかな時間が過ぎてゆく。
老いていく人々や、死んでいった人々との出会いが心に残る。
不思議な力を持っている一族であっても、時間は同じように流れていく。
どれほど不思議な力をもってしても、老病死から救えるわけではない。

けれども。
老病死と老病死苦とは違うんだなぁ、と、これを書きながら気づいた。
三角屋のおじいさん、かっこよかったなぁ。
老いてこそなしとげられることがあり、病を得てこそ気づけることがあり、死んでもなお残せるものがあるとするなら、それはただただ苦しいものではなくなるような気がする。
しんみりとはするけれども、逃げ出したいほどの、でも、逃げ出すことのできない苦しみが、もっと透明で美しい色彩のものに塗り替えられるような魔法を感じた。
春の庭の女王とばかりに咲き誇る桜や、ベンチを綺麗な彩りで特等席に変えるバラや、冬の庭を飾るクリスマスローズに。

植物は自ら動くことはないけれども、心はあるのかもしれない。
村山さんの作品では、これまでも植物が魔法の担い手としてちょくちょく登場してきたが、このシリーズではそんな植物たちが重要な役割を果たす。
花咲家の人々が、人々と植物の間に立って、これからどのような物語を紡いでいくのかを楽しみにしたい。

それだけではなく、『みどりのゆび』や『ライオンと魔女』といった古典の童話が出てくるのも、読書しながら育った人には楽しみになると思う。
ここからどんな本であるか、手を伸ばす人がいあたら、それも素敵な魔法。

風早町が舞台なだけに、そこでコンビニたそがれ堂の出番ですよ! 三郎さん、助けてあげてぇ~と、ついつい思ってしまうこともあった。
それは、私が最初に読んだ村山さんの作品が、コンビニたそがれ堂だったからなんだろうな。

2016.12.15

男役

中山可穂 2015 角川書店

そこは夢の世界にたとえられる。

私が宝塚大劇場に行ったことがあるのは、一度きり。
高校の時も友人の一人が熱烈なファンで、大学の時も友人の一人が熱烈なファンで。
あれはたぶん、大学の友人につれていってもらったような気がする。
なんの作品だったのか、誰が出ていたのかも憶えていない。
劇団員といえばいいのかな。ステージの上の華やかさとサービス精神、なんといっても男役の皆さんのかっこよさ。
過剰なまでのロマンチシズムとアドリブの笑いのギャップに、生で何度も観たくなるファン心理を悟った。
礼儀正しく規律正しいファン達の熱量に圧倒され、独特の世界だなぁ、と思いながら、帰ってきた。

その時の印象そのままの世界が、この本の中にある。
宝塚そのものではなくて、印象としての宝塚。思い出としての宝塚。
著者が後書きで但し書きをしているけれども、リアルを追求したものではない。
逸脱するからこそ、幻想としての宝塚が強く心によみがえってくる。
友人たちの話から垣間見てきた宝塚、自分が一度だけ行った宝塚、その場所でならさもありなんと思うような、そういうしっくりくる感じがする。

中山さんの物語は、気合いを入れて読むものだと思っていた。
心の一番やわらかい所を閉まっているパンドラの箱をこじあけながら読むような、心が右往左往に引きずられて引き裂かれるような思いをするような、そんな恋愛小説を書く方だと思っているから。
美しい日本語で、美しい恋愛小説を描く、随一の方だと思っているから。
だから、読むタイミングをすごく選ぶのだけども、この物語はそんな心の準備は不要だった。

ファントムこと、扇乙矢。50年前に舞台事故で死に、宝塚を守護してきた幽霊。
現在のトップであり、引退を控えた、如月すみれ。
乙矢の相手役だった麗子の孫である、永遠ひかる。

彼女達、三代にわたって受け継がれていく、男役という生き方。生き物。
確かに女性であるには違いないが、彼女たちは男役である数年間を、女性ではないものとして自らを形作る。かといって、男性そのものではない。
男役は、男性の理想形を体現する、男役という性別であり、生物になる。
現実ではなく仮想の宝塚だからと敢えて書いておくけれども、そんな仮想の性別であり、この世界に仮住まいしているような人物像が、中山さんの世界に似合うように思った。
なにしろ、美しい。それだけで十分だ。

すみれの引退で幕を引く。
その切れ味がまた、中山さんらしいなぁと、舌を巻いた。
著者はもともと近代能楽集の一作品になるようにこの物語を構想したそうだが、ファントムだけではなく、男役そのものが舞台という一夜の夢でしか息づけない、そういう物語だったのかもしれない。

近いうちに、『娘役』のほうも手に入れなくちゃ。

2016.12.09

三千世界の鴉を殺し(17-20)

津守時生 2013-2016 ウィングス文庫

20巻が出ていると知って、久しぶりに読んでみようと思って購入。
振り返ってみると、17巻までは購入。でも、読んだのは16巻までだった。
積読山の中から17巻を探し出し、4冊まとめての読書を楽しんだ。
食事も睡眠もそっちのけ。こんな読書の仕方をするのも久しぶりだ。

もともと、面白いからこそ1冊があっという間に感じるシリーズだ。
会話が楽しいことが魅力のひとつで、その分、進度がゆっくりに感じていた。
だが、こうして4冊も一機に読むと、さすがに読み応えがある。
まとめて読むことで、分断されずに流れを理解できた。

物語りもきっと折り返しているのだろう。
この先の展開に少し見通しがつくような感じがした。
悪い意味ではない。物語のまとまりを感じたのである。
むしろ、見通しを持てるからこそ、今後が一層、楽しみになった。
見通しをいくら立てても、きっと予想外のことが起きるのだし。

改めて、登場人物が魅力的で、それぞれのかけあいが楽しい。
ツボは、クールに動揺するO2。
親世代の物語から読み継いできたのだし、続きも読んできたいな。

満足。

2016.12.06

コンビニたそがれ堂:祝福の庭

村山早紀 2016 ポプラ文庫ピュアフル

あの三郎さんが帰ってきた。表紙に描かれた賑やかな店内に、にっこりと立っている。
魔法のコンビには通常営業。銀の髪と金色の目をした店長さんがいることに、ほっとした。
おでんとお稲荷さんが美味しくて、最近はコーヒーもフラスコで淹れてくれる。甘酒のこともある。
近頃は、素敵な着物をまとったねここさんがアシスタントに入ることも増えてきたようだ。

洋服屋さんで働く販売員の女の子。かつてはデザイナーを夢見ていた。
母親を元気付けたくて、往年の大漫画家に会いに行く小学生の女の子。
父親と同じように芸人になりたくて、でもなかなか売れなくて、相方である幼馴染にも後ろめたく感じるようになった男の子。

3つの物語はどれもクリスマスの時期にぴったり。
寂しいだけ、悲しいだけの物語ではないのに、なんでこんなにほろりとくるのだろう。
夢は叶うかもしれない。叶わない夢もあるけれど、形を変えて叶うこともある。
誰かから贈り物をしてもらえたら嬉しいけど、きっと贈るほうも嬉しいんだよって教えてくれる。
自分が誰かに何かしてあげることができること。それを喜びたい気持ちでいっぱいになる。
それが、きっとこの冬一番の魔法だろうと思ったのだ。

あとがきを読んで、こういうことってあるあると思った。
自分が仕事で関わってきた人たちが、思いがけず、当たり前のことであるが、思いがけず、大人になっていて再会したときの喜びとか。
ふとした瞬間に、過去のこれまでの自分の仕事が、やってよかったこともあったのだと教えてもらえる喜びとか。
私はこの人たちを守っているつもりで、かえって支えられているんだなぁって、ほんのりと胸が温まる瞬間を思い出した。
愛されているなぁとおずおずと認めざるを得なくなる時の、面映いような、たまらない幸せな瞬間があるのだ。
さあ、今年もクリスマスのプレゼントを用意しなくちゃ。ね?

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