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2016.11.11

f植物園の巣穴

梨木香歩 2012 朝日文庫

主人公は園丁で、植物園に勤務している。
いくつも出てくる草木を、それとわからぬ時には、一つ一つ調べながら読み進めた。
戦前の文学を読んでいるかのような文体に、一度目は途中で投げ出した本だった。
久しぶりに取り出して読み始めた時、丁寧に草木を調べながら、景色を思い浮かべるようにしてみた。
梨木さんの文章に無駄がないように思う。
だから、わからないところを飛ばすのではなく、一つ一つ立ち止まりながら、主人公が迷いこんだ町を歩いてみようと思ったのだ。

萩原朔太郎『猫町』や、宮沢賢治が描くような、現実から地続きの異世界を思い出す。
もしくは、ジブリの『千と千尋の神隠し』。
先ほどまでは普通の現実の世界だったのに、自分でも気づかぬうちに幻想の世界をさまよっているのだ。
気づいていないから、いつも通りの行動をとろうとする自分。
しかし、いつも通りにはありえないことが次に次に起きる。
人の頭が雌鳥に見えたり、歯科医の家内の前世が犬だったり、お稲荷様が世話を焼いてくださったり。

これは夢の世界。
夢の中では、不思議なことがよく起こる。
情報が圧縮されて、自分の中で似ているものが重なり合ったり、違う姿で現されたりする。
人は自分の心を守るためにさまざまな防衛をしている。
自分に都合が悪いことは、別のものに置き換えて記憶されていたりする。
意識は、だから自分の無意識にしまったものをすっかり忘れていることもある。
夢の中で、人は記憶を整理する。
意識では処理しきれないも痛手を、無意識が解決しようと、何度も何度もトライする。
ほったらかしにしたら心が立ち行かなくなるような失敗も、夢の中なら安全に扱える。
そうやって処理していく過程だと気づいた時から、物語の不思議がすうっと私自身になじんだ気がする。
夢/無意識の中で起きる現象を、上手に取り入れて、かつ、表現された物語だった。

解説の通り、読み終えてから再び冒頭に戻って読み始めると、さまざまな小さな単語やエピソードが、実は全体を暗示する象徴であったことがわかる。
理性と知性が幾重にも防衛した奥底に流れる川は時間であり、無意識である。
時間を正しくさかのぼり、正しい流れにすることを、心が求めていたのだろう。
もう記憶を迂回をしなくても、正しい流れになる日が来たと知っていたのだろう。
静かな感動がひたひたと胸に溢れてくるような物語だった。

大きな悲しみを味わったことのある人の、心の過程をこれほど美しく描いてあるとは。
ずっとほったらかしにしたことを、もったいないことをしたと思ったが、これも今だから味わえたことと思うことにしたい。

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コメント

香桑さん、お久し振りです(^^)。
この作品を読んだのは、7年も前の事なのですが、未だに美しさと温かさ、切なさと曖昧さがひたひたと流れる感覚を思い出しました。
梨木さんの作品の中で、私の中で上位を争う、好きな作品です。
心の弱い〈ひと〉の苦痛を逃れるすべとしての、「すり替え」と「夢」。
それに気付き、弱いままでも「認める」ことができるようになった「私」の再生が、とても温かい気持ちになれました。

水無月・Rさん、こんにちはぁぁぁ。
わーい。CM&TB、ありがとうございます!
主人公は決して若くはない。その男性が心の巣穴に押し込んでなかったことにしていた過去がぶわぁっと噴き出したんだ、とわかるまでは、なんて読みづらい小説なんだろうと思っていたのは内緒です。
気づいてからは、これはすごい話だ!と目を見張る思いでした。

実は、ちょうど歯科医通院中でして。
虫歯とか歯茎に穴とか、見つからなくてよかったと、ほっとしました。

こんばんは^^お久しぶりです。
TBとカキコありがとうございました。とてもうれしかったです!
私もこの作品を読んだのは少し前ですが、この物語の世界観は覚えています。
同じく最初は読みづらさも感じで^^;なかなか読み進まなかったのですが、読んでいくうちに物語の核心に触れていくにつれ速度も速くなっていきました^^
最後が良かったです。良いラストでした。

苗坊さん、こんにちは。すっかりご無沙汰しています。
大病から3年が経ち、ようやく、読書をしたり、その感想をまとめるだけの体力や気力の余裕ができてきたような気がします。

最初は読みづらかった物語ですが、おっしゃるとおり、途中から加速しましたねー。
美代さんがもっと若い時に気づいてほしかったという場面がありますが、今だからこそできたこと、今になってようやくできたこととして、この夢の体験があるのではないかと思います。
この今という感覚を大事にしていきたい昨今です。

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この心地よいまでの、心もとなさ。 何かがおかしいと思いつつ、どこからどうズレてしまったか分からない、現実と幻想の合間を漂いゆくかのような、浮遊感。 やっぱりイイですねぇ~、梨木香歩さん。 f郷にある植物園に勤める男が、ある日ふと、違和感に気付く。 そこから『f植物園の巣穴』という、不可思議な物語が始まる。 ううむ・・・今回も、まともなことが書けそうにない。多分、感傷的なことを書き散らして終わりそうだ(笑)。... [続きを読む]

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f植物園の巣穴 植物園の園丁は、椋の木の巣穴に落ちた。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、烏帽子を被った鯉、幼きころ漢籍を習った儒者、アイルランドの治水神…。動植物 ... [続きを読む]

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