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2016年10月

2016.10.14

魔術師のおい:ナルニア国物語1

C・S・ルイス (著)  土屋 京子 (翻訳) 2016 光文社古典新訳文庫

目の前に、景色が広がっていく。
これから冒険や探索が待っている。
ナルニア国の歴史が始まる瞬間だ。
その情景の美しさに、うっとりした。

子ども時代に読んでいるはずだが、内容をまったく記憶していなかった。
主人公の少年少女が天馬に乗って上空に駆け上る。
読み手まで、胸が躍り、心が舞い上がるような興奮を味わった。

世界が生まれ、そして終わっていく。
そこはとても哲学的であり、現代への警句を含む。
ルイスは親しみやすい口調であるが、物語の背後には深い思索がはりめぐらされている。
そこは、大人になって読んだからこそ、考えたり、感じられたりできた部分だ。
以前の訳が古くなってしまったため、今に生きている言葉で、子どもだけではなく大人もまた読めるような文章に訳してある。
言葉遣いそのものに違和感は感じないが、ナイアードやドリアードなど、ほとんど固有名詞のように憶えていたカタカナ表記の名詞は、できればそのままだと嬉しい。

シリーズの構成も、出版順ではなく、物語の中の時代に沿って編みなおされている。
だからこそ、新鮮な思いで、一冊目として、創世記であるこの巻を読むことができたのだ。
この美しい物語が、こうして訳が新しくなることで、今まさに子どもの人たちやかつて子どもだった人たちに、新しく読まれることがとても素晴らしいと思うのだ。
新しい物語が気になって気になって、先に進まずにいられない。次はライオンと魔女だ。
この機会に、改めて、新しい気持ちで、このシリーズを最後まで読んでいきたいと思った。

2016.10.03

あきない世傳 金と銀 二 早瀬篇

髙田 郁 2016 時代小説文庫

なんでや。
なんで私ばっかり責められなあかんねん。
店主ゆう重荷を背負うてるんは、私だすで。
ほかでもない、私だすで。惣次やない。
こんな傾いた店を背負わされて、私は言わば被害者や。
私で4代目ゆうても、店が船場にあるわけやなし。
所詮、天満の呉服屋や。川向こうには勝てへん。
ちぃとも稼げへんのは私のせいやない。
時代は現銀売りや。お家さんが屋敷売りみたいな古臭い売り方にこだわるんが悪い。
こんな御時世やなければ、私かてもっと大きな商いしておましたわ。
私の苦労なんて誰も知らへんのに、私ばっかり責めるのはおかしいやないか。
家の者が大事にせえへんから、嫁はんかて実家に戻ってもうたやないか。
あんな子どもを後妻や言うてあてがわられても、笑いものになっただけだす。
私は、店主ですで。
私が店主やなんで。
なんで、なんで、こないな目ぇあわないかんのだすか。
私かて、私かて……もっと大空に飛び立つようにはばたいてみたかったわ……。

……とか、言ってそうだなぁ、と想像してみた。
想像してみたが、いくら想像してみても、ちっとも同情も共感も持てない。
なにもかも人の所為にして、自分は悪くないと言い訳して、努力をしようとしない。
周りを責めるだけ責めて、つらいのは自分だと主張して、自分を慰めてもらおうとする。
それが、阿呆ぼんである。

この巻になって、なんで第一巻が「源流篇」だったのか、タイトルの意味がやっとわかった。
きっと大きな川になっていく。そういう物語なんだろう。
その2巻なのであるが、阿呆ぼんの印象が強すぎた。
こんな阿呆ぼんでいいのだろうか。
主人公の夫になるのが、ここまで阿呆ぼんだとは空前絶後である。
ひどくないか。大丈夫だとは思えない。主人公がかわいそう過ぎる。
嗜みのある阿呆ぼんなことが、唯一の救いである。
幸の成長を喜びながらも、喜びきれない複雑な気持ちで一気読みした。

この展開は予想外ではあったが、大歓迎だ。
幸の活躍の場面は、どれもこれも胸がすくものだった。
これでこそ、次巻が楽しみになる。

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