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2016.08.04

魔導の系譜

佐藤さくら 2016 創元推理文庫

やっと読めた。
ようやく手に入れることができた一冊である。とても感慨深い。
一気に読むよりも、じっくりと丁寧に読みたい。なにしろ、長い物語だ。
登場人物も多いし、各派勢力は入り乱れ、舞台もあちらこちらと移動する。
主人公は、一組の師弟。魔導士と呼ばれる特殊な力を持った者たちの物語だ。
これは師であるレオンの物語であり、同時に、弟子であるゼクスの物語だ。

こういうデビュー作を見つけて読むのは、私の楽しみの一つだ。
デビュー作というのは、その人が懇切丁寧に思い入れを込めて紡いでいるような印象を請けることが多い。

作り手たちの物語への愛情を感じると、それだけで、その本をかわいらしく、いとおしく思えてくるからだ。
だから、著者への応援の気持ちをこめて感想をつづれたらいいなぁと思う。
この本も例外ではないが、デビュー作らしい筆の硬さやつたなさは少なく、結局は、この先どうなるのだろう?と先が気になり、じっくりと読むはずがすっかり夜更かしになってしまった……。

魔法を持っていたら、どのようなことができるか、を、描いたものは多い。
しかし、感じ方が違うことを取り上げた作品はあまり見聞きしたことがないような気がする。
導脈といわれる器官を魔脈という魔法の力の流れに繋いだ時、魔法使いたちは世界をありありと感じる。
魔力の強さとしては三流であるが、だからこそ、独特な指導法で指導することができるレオンは、たとえるならば、世界を柔らかに感じている。
魔法の指導を拒絶してきた少年ゼクスはレオンに預けられることになるのだが、希代の強い魔力を有しており、その感覚は鮮烈である。
この描写は、読んでいて景色が目の前に広がるような、五感が目覚めるような感覚だった。

世界の感じ方の時点から違えば、理解の仕方、考え方もおのずと違ってくるはずである。
力を持って何ができるどころではない。力は目に見える結果であるが、その前提に、一般の人の目には映らないかもしれないが、違いがあるということで、生きづらさが違ってくる。
それはゼクスが持っているある種のハンディキャップにも共通している。はたから見ている分には気づかれにくいが、しかしそこに違いはあるのだ。
感覚そのものが違う。そんな体験に注目し、描き出す人がいたことには驚いた。その想像力がすごい。
しかも、魔導士は一般人と感じ方が違うというだけではなく、魔導士によっても感じ方が違うという多様性の設定が素晴らしい。

この世界の魔導士たちは、ヒエラルキーの下層に位置づけられているが、その中でも、ゼクスも、レオンも、幾重にもハンディキャップを背負っている。
世界が敵のように感じることは、迫害的な体験を有していたり、そうでなくとも思春期の前後にはそんな気分になりがちである。
逆に、世界には自分の居場所なんてないかのように、自分がだめな人間、無価値な人間に感じて息苦しく感じている人も、そういう時もあるだろう。
前者は、世界に対して挑戦する形で、自分はここにあるのだと叫びたくなるだろう。それがゼクスだ。
後者は、世界に対して献身する形で、自分はここにいてもいいと許して欲しいと懇願するだろう。それがレオンなのではないか。
どちらも生きづらいことにおいて、実は表裏一体の心情だと思うのだ。

不幸なこと、残酷なこと、凄惨なこと、理不尽なことが山盛りの世界で、人を憎むのはたやすい。
だが、その中でも悪いことばかりではなかったと気づく瞬間がある。自分の生き方が間違っていたと気づく瞬間もある。
自分が誰かに愛されていたことも、自分が誰かを愛していることも、認めることは時々とても難しいのだ。
自分が間違えていたことを認め、受け入れることなんて、ほとんどの大人にとっても難しいと相場が決まっている。
だからこそ、その瞬間は、とても尊くて、輝いていて、美しいのだと思う。
気づくと、泣きながら読んでいた。
特に心動かされた場面、気に入っている場面は、ネタバレになるので伏せておこうと思うが、ライトじゃないファンタジーも読みたい人や、生きづらさを感じている人にお勧めしたい。
誰かの役に立ちたい。それは、祈りのようなものだ。
自分の意味を探して悩む人に、きっと寄り添う一冊になるだろう。

解説がまたいい。

この著者は「デビュー作から追いかけていました」と自慢できる作家になります。きっと。(p.427)

私もそう思った。すでに執筆中であるという次作を楽しみに待ちたい。

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コメント

最初は、このボリュームに慄いたんだけど、読み始めたら面白くって!一気に読んでしまった。同じく、何度か涙腺が緩んだりもしたのでした。二人が抱える憎しみや哀しみに心が重くなることもあったけど、それを乗り越えていく二人の絆と強さにグッときました。
そうそう!「感じ方の違い」というのも新鮮だった。

次作が楽しみな作家さんが、また一人増えました。そんな作家さんとの出会いをありがとう!

すずなちゃん、読んでくれてありがとうぅぅぅ!
CM&TBもだけど、この人の本、いつか読んでもらいたいなぁって思っていたんだ。
少年少女のみずみずしくて傷つきやすい感性を上手に言葉に載せる人だから、きっと、お口にあうのではないかと思ったの。
キャリアをスタートしたばかりの作家さんだから、この先、どういう風に育っていくかも含めて、次作が楽しみだねー^^

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呆れるくらい長く放置してしまいました。その間、何冊も「記事、書かなきゃ!」と思った本を読んだものの、重い腰を上げられなかったんですが、この作品を読んだら、もうね、「これは書かねばーっ!」と、ようやく重い腰を上げることができました。 そんな訳で、約2ヶ月ぶりの感想記事。どうやって書けばいいのか忘れちゃっててギコチナイ文章になるかもしれませんが、そこはご容赦くださいませ。... [続きを読む]

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