本能寺の変:431年目の真実
明智憲三郎 2015 文芸社文庫
これは面白かった。
小説ではない。学術論文でもない。
明智光秀の血を引く著者は、本能寺の変の前後の資料を、その信頼性を吟味しながら再調査することで、織田信長、明智光秀、豊臣秀吉らの人柄と行動を検証する。
現在の研究は、織田信長なら豊臣秀吉という直後の施政者が、自分に都合よく情報操作している点を考慮せずに資料を用いているところから、全体がゆがんでしまっている点の指摘が、非常に痛快である。
それは、たとえば、司馬遼太郎史観のような、司馬遼太郎が書いているからそれが真実か事実であるかのような誤謬など、ほかにも同種類のゆがみを指摘は可能であろう。
古くは、中国エリアの代々の国が、王朝が交代するたびに、前王朝の歴史を編んできたわけであるが、それは現王朝の正当化に資するバイアスがかかったものであることは、よく知られていると思われる。
だとすれば、国内でも同様のことが行われていないと、まったく考慮に入れていないほうが能天気だと思うのだ。
歴史小説で積み重ねられた織田信長や明智光秀らのイメージがあると思うのだけれども、それが一挙に覆された感がある。
豊臣秀吉はもともとあまり好きではなかったからいいのだが、徳川家康がうっかりいいやつに見えてしまったことが不本意だった。
なるべく信頼性の高い資料をもとに、蓋然性が高い合理的な推論を重ねていったとき。
今とはもう少し違う人物像や事件像が、ますます明確になっていくのかもしれない。
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