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2015.08.27

消された一家:北九州・連続監禁殺人事件

豊田正義 2009 新潮文庫

なぜ彼女は逃げなかったのか。

この問いが冒頭に置かれているが、逆に言えば、なんで知らない人が多いのだろうと、ほぞをかむような思いをしたことは枚挙に暇がない。
私の関心事にDV被害があり、その被害者が加害者から逃げられなくなることは、自明の理の思いがする。
答えは簡単。怖いから、だ。
恐怖心によってどのように支配されるか。冷静な判断能力を失い、その人らしい温かな情緒や人間らしい倫理が損なわれていくか。
意外と知られていない。
今も、知られていないのかなぁ、と思う。
だからこそ、そのような逃げられない心理状態を念頭に置きつつ、事件を再構成した本書は、説得力があった。
どうして、こんなひどい事件を引き起こしてしまったのか。
どれだけ、人は残酷になりうるのか。そこに、応えうる一冊だと思う。

著者が最初に一言触れている長崎の保険金殺人について、女性がDV被害者であることから恐怖心に支配されていたであろうことに、メディアは理解がないと嘆いたことを憶えている。
私は嘆くだけであったが、著者はその視点を保ちつつ、北九州で発覚した連続監禁殺人事件の加害者である女性に関わり、本書を著している。
ハーマン『心的外傷と回復』や学習性無力感の概念が紹介されているところがさすがであり、加害女性もまた暴力の被害を受けていた点、違和感なく読み進めることができた。

私が思い出したのは、アッシュの同調実験(1955)、ミルグラムの服従実験(1963)、ジンバルドの監獄実験(1971)という一連の大規模な実験である。
中でも、ミルグラムの服従実験は別名アイヒマン実験と呼ばれるが、監視役がある中で、被実験者の2/3が役割に忠実に死に至るほどの強さの電流を他者に流したという結果がある。
ジンバルドの実験に至っては、被実験者が囚人と看守という与えられた役割に忠実に同一化しすぎることで、安全性が保てないという判断から途中で中断するに至っている。
これらの実験は、第二次世界大戦後、特にナチスの事例に対して、人はどうして合理的に残酷なことができるのか?という問いに迫るものである。
合理的であることが倫理的あることではなくなってしまった戦後の世界での切実な問いであり、古い実験ではあるが、現在においてなお、学ぶ価値がある。

北九州の連続監禁殺人事件は、それを現実にやってしまった。
通電による無力感の学習の実験で、セリグマンは最初に犬を用いたが、それを実際に人に行う。実験ではなく、虐待として用いる。
これまで心理学が実験という安全な枠のなかで行われてきたことが、枠を取り払って行われ、やはり、実験で得られた知見が現実に苛烈に再現されたことがわかる。

実際にひどい事件である。
遺体の解体など、その作業が気持ち悪いとか怖いものと思わずに、どうしてこんなに淡々とできてしまうのか。
想像すれば不気味で仕方ない作業は、その事件の量に圧倒されて、読んでいる自分まで麻痺した。
この前に読んだ元少年A『絶歌』が本人が書いているということもあり相当なまなましかったため、本書をなんとか投げ出さずに読めたのかもしれない。
それでも、その場面を映像として想像したり、臭いや感触を想像したときには、吐き気がするほど気持ち悪くなった。
ちょうど、羊肉のカレーをいただく機会があり、骨つき肉の様子や皮の感触を感じたとき、どうしようもなく胃のむかつきが止められなくなった。

helplessness、救いも助けもないことを、学ぶ。
それは、ふと、アラブから北部アフリカ諸国に根強い暴力の連鎖でも、起きていることなのではないかと思った。

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