ガラシャ
宮木あや子 2010 新潮社
人はそう簡単には狂えないのです。
……と冷静に見てしまうと、物語が楽しめないのはわかっているが。
私自身も思いつめる性質ではあるが。恋で苦しんでいるが。
ガラシャにほとんど共感しないまま物語が終わってしまった……。
恋の部分では、一瞬、盛り上がれるかと思ったんだ。歴史小説というよりも、ラブ度高めの小説を期待して読み始めたのだし。
ただ一人を、会うこともなく、声を聞くこともなく、ただ記憶のみで慕うことぐらいできる。軽く10年ぐらい、やってみようと思っている。
会いたくて会いたくてたまらなくて、欲張りになる心があることを知っているけれども、なんだかガラシャとはベクトルと純度が違うんだよなぁ。
ガラシャの物語はとても若いお嬢さんって感じがして、恋についての語りも含めて、自分と重ね合わせることに無理を感じてしまったのだ。
作者の若さを感じてしまったと言ってもいいかもしれない。書いててへこむなぁ。
この肩すかしは、忠興の所為か!? 忠興って、もう少し描きようがないのかなぁ。
この忠興だと期待が盛り上がらないんだもの。顔がいいだけの困ったちゃんとしか描きようがないのかなぁ。
忠興は母親不在の家庭で育ち、母親の愛情に強い憧れと執着を持つ男。癇性なところがあったことは記録があるから仕方がないのか。
37歳になり、白髪が少し生え始めた頃の、落ち着いた忠興だったら、もっと玉子と睦まじくなれなかったのだろうか。
同い年の玉子も、もっと成熟することはできなかったのだろうか。
自分にできないことを物語に求めてみる。
このままだと、忠興より興元のほうが素敵やん。
糸の、ちょっと支えてもらいたくなった、よろめき具合にはかなり共感。
弱っているとき、ここぞというときに、助けてくれた男の人は、何割増しどころか、何倍増しにも魅力的になっちゃうよね。
ガラシャは途中、顔が綺麗な男はこの世のものではないと思おうとするけれど、ガラシャだって顔にばかり惚れていたわけではなかろうに。
その大きな手の温もり、心根の美しさに惹かれるからこそ、選んだ道だったのではないか。
というか、顔ならば忠興だって綺麗だったのだから。
それぞれ登場人物の姿かたちの綺麗さだけが際立ちがちな語り口だったからこそ、興元の穏やかな笑顔が魅力的に感じた。
歴史を題材にした小説は、既存のイメージがある上に、大きく物語の筋を変えるわけにはいかないところが難しいと思う。
それでもガラシャ夫人というのは魅力的な素材であるから、読み手の期待も大きくなるのかもしれない。
なお、九州国立博物館で現在、「細川家の至宝」展をしている。少し前までは京都国立博物館で行われていた。その京都でのフライヤーのコピーが最高だった。
「美の世界では、天下人」
このトホホ感が、やっぱり幽斎より忠興……。
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» 『ガラシャ』/宮木あや子 △ [蒼のほとりで書に溺れ。]
あう~。なんだろう。
宮木あや子さんといえば、ままならぬ想い、閉塞した世界にある孤独・・・といった狂おしさを描く作品が多いのですが、今回はどうもその辺が足りない。かといって『セレモニー黒真珠』のような、コメディ路線では全くなく・・・。
ちょっと私的には、何だか普通の物語(響くものが足りない・・・)『ガラシャ』でありました。... [続きを読む]
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香桑さん、こんばんは(^^)。
そうなんですよね~、宮木さんなら狂おしいまでのままならぬ恋、といった物語を期待してしまって、ちょっとな~…と思っちゃいますよね・・。
私も、全然玉子には共感できず、逆に侍女の糸の方がいいと思ってしまったのでした。
悲劇の女人・細川ガラシャを別の観点というのかとあるエピソードを加えて描く、という着想はよかったと思うんですけどね~。
投稿: 水無月・R | 2012.02.19 23:17
水無月・Rさん、こんばんは。
読者がどうしても期待しちゃう作家さんで、素材だから、宮木さんも大変。(^^;;
ガラシャの美しさが空虚なものに感じてしまったのです。恋をして人らしくなったかと思ったら、大坂に行って、また後退しちゃうわけですから……。
最後の展開は私はアリだと思いましたが、最初から最後まで糸の目線でもよかったのになぁとも思いました。
私の中では、なぜか、忠興はツンデレ、ガラシャはヤンデレという設定があるのですが、いつのまにどこからできあがってしまったのかしら。汗
投稿: 香桑@室長 | 2012.02.19 23:49
こんばんは。
私は宮木さんの作品が初めてで細川ガラシャについて知らなかったのが良かったのかもしれないです。
割と楽しめたんです^^;
でも、確かに糸目線でも良かったかなとも思いました。
投稿: 苗坊 | 2012.02.20 00:11
苗坊さん、こんにちは♪
楽しめた人がいてくれてよかったですよぅ。
私、宮木さんはお気に入りなので、アンチ記事みたいになっちゃうと嫌です。
苗坊さんのコメントが入ってくれてよかったです。
市の言葉にしろ、振り返っても黄泉というけど、人生まっすぐ前に突き進んでも黄泉じゃん!とかツッコミいれていましたから……。
恋愛だけではなく、人を赦すということやどう生きるかということや、大事なテーマがいっぱい盛り込まれていたのだと思います。
恋愛小説を期待して読んじゃったから、ずれちゃったかな、と。
投稿: 香桑@室長 | 2012.02.20 10:52
ガラシャには共感できなかったよねぇ;;;作者の若さなんだろうか。そう言われると私もへこむ…^^;
なんか、ホントにもやもやの残る読書でした。でも、面白かったのは面白かったんだけどねぇ。…って、矛盾してるけど^^;
投稿: すずな | 2012.02.20 12:36
すずなちゃんまでへこませてごめんよー(^^;;;
光秀や幽斎の描き方は好きだったんですよ。←おじさん好き健在
でも、市と長政はラブラブであったほしかったとか、信長は好きなんでもうちょっとなんとかとか、秀吉はどーでもいーかとか、ビッグネームが多いだけに、こちらの思いいれもいろいろとあったりするんですよね。
恋は内に秘めて病んじゃうぐらいなら、ぶつかっていってくれるほうが、読んでいるほうは気が楽でいいです。
投稿: 香桑@室長 | 2012.02.20 13:07