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2012.01.03

マザコン

角田光代 2007 集英社

母のことは好きだ。
だが、どうしても、いらいらしたり、もやもやとする。
その割り切れなさをなんと表せば伝わるのだろうか。

娘も、息子も、母親を求めている。
幼い頃、自分を支え、包み、守っていた、揺るぎのない環境としての母親。
母親だけが、自分を丸ごと受け止めてくれる。
自分をすべて理解してくれようとするだろう。
そんな幻想を、娘も、息子も、持っている。
自分をすべて理解してほしい。
そんな欲望を、娘も、息子も、持っている。

だから、母親が幻想通りではなくなったときに、幻滅する。
母親が家を去ったとき。母親が老いたとき。母親が死んだとき。母親の、自分が見てきた母親として以外の顔を見せたとき。
幻滅は、不可避だ。現実を知らなかったのは子ども達のほうなのだから。
この本は短編集であり、それぞれの娘や息子達が、幻滅を繰り返す。

と、同時に、娘は母親の支配に身をよじる。
その支配については、斎藤環『母は娘の人生を支配する:なぜ「母殺し」は難しいのか』を読んでもらうといい。
『マザコン』のなかの「ふたり暮らし」が気になった人には特に勧めたくなる。
父親のことを考えるならば、全体を通じて存在感が希薄だ。
「パセリと温泉」の有様は、我が家の近い将来に思えて仕方ならず、ぞっとした。
この短編の父親の様子は、思わずに母親に読み聞かせたほど。我が家だけのことでないというのは、あまり慰めにならない。

この小説で面白かった点は、人が娘/息子として母親に自分を丸ごと理解してほしいと求める一方で、自分の恋人や伴侶といった同世代異性とは話が通じるわけがないと投げ出しているところだ。
むしろ、異性とのディスコミュニケーションがひどいからこそ、幻想の母親にコミュニケーションを期待してしまうのかもしれない。
しかし、結局は幻想は幻想に過ぎず、誰にも理解されないまま、一人に突き落とされるような落下感がつきまとった。
読むにつれて、徐々に気分が沈んでいった。

最後に収められている「初恋ツアー」は、母親がコミカルなだけではなく、母親への幻滅を感じた男を妻が母親であるかのように抱きとめようとするところに、ある種の希望と救済を用意している。
こんな風に振舞えれば、よかったのにね。また落ち込んだ。

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