乱暴と待機
この2人の関係を気持ち悪い、で片付けてしまえたら簡単だ。
だけど、それぞれに少しずつシンパシーなんか感じてしまうから、複雑になる。
二組の男女。この4人で登場人物はほぼ終わり。
人に嫌われまいとするあまりに相手をイラつかせることが天才的に上手な奈々瀬。
その奈々瀬に復讐すると宣言して、同じ部屋で覗いている「おにいちゃん」英則。
英則の職場の後輩、見かけはそこそこだが好奇心旺盛でデリカシーは少ない番上。
番上の恋人で、高校時代に友達だったはずの奈々瀬から恋人を寝取られたあずさ。
濃密でねちっこくて、でもちゃちな作りモノの欺瞞が空虚に部屋を支配していて。
遺恨だらけの人間関係を、番上がずけずけと鼻をツッコミ、秘密を暴き立てる。
経緯を明らかにしてしまえば、関係が変わる、壊れる、そのことを頓着しない。
奈々瀬と英則が積み重ねてきた世界は、破壊者たる番上とあずさを巻き込んで再生産してみるのだから、もう堂々と開き直ってやっていくしかないではないか。
どの人物にも憧れないし、素敵だと思わない。どの誰にも自分を重ね合わせることをためらうし、重なりたくないと思ったりする。
とはいえ、どこかで見たことあるような、こんな人はいると思わせられてしまう登場人物たちが、それぞれなりに幸せなら、ハッピーエンドだ。不本意ながら。
気持ち悪い感じを綺麗に見せずに、なんか気持ち悪いままで呈示できるところが、作者の度量だろう。
はまる人もいれば、拒絶する人もいるかもしれない。私は途中で読み進まなくて困った口である。
タイトルと帯からもうちょっとドロドロしたものを期待していたため、期待と違って読み進まなくなったというのもある。
でも、最後の数ページ、舞台だなぁ、と思ったら、やっぱり舞台のノベライズだという。
奈々瀬の変貌はお芝居で見るような迫力があり、そこも演劇に携わっている作者ならでは、の名場面だと思った。
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