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2010.09.21

華氏451度

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)  レイ・ブラッドベリ 宇野利泰(訳) 2008 ハヤカワ文庫

不朽の名作。
タイトルだけは子どものころから見ていたが、なんだか暗そうな本だなぁ、と敬遠してきた。
私が学生の時にすでに、訳が古く感じて、それも含めてなんだかなぁ、と思ってしまっていたのだ。
それを読んでみようと思ったのは、エビノートさんのレビューで、あらすじを知ったからだ。読まなくてはいけないと、責務のように感じた。

Fireman。
普通は消防士と訳す。しかし、この言葉こそが、この小説の鍵だろう。
主人公のモンターグは焚書官だ。耐火素材で作られた家屋を燃やす。その中にある本を燃やす。
それが、本の舞台の政府の方針だからだ。
人は本を読んではいけない。知恵を身につけてはいけない。自分の頭で考えてはいけない。
だから、学校で教えられるのは、スポーツか技術。知性は不要だ。
それが唯一の心の平和を保つ方法だと謳って。
考えるから不安になるのだから。

比べ競あうから仲間はずれにされるのだ。
みんなが同じものになってしまえば、孤独はなくなる。
だが、果たして政府は成功しているのだろうか。
人々を考えさせないようにする装置は、壁面のテレビと、耳に差し込む<海の貝>という通信機器。
それらの装置を使って、モンターグの妻ミルドレッドは、赤の他人からなる「家族」と常に会話している。
シナリオがあるのかないのか、茶番劇のような空虚な会話を繰り返し、彼女にとっての現実はヴァーチャルなものに占められる。
その代り、夫との対話はほとんどない。彼女は自分では何も考えない。
それで、果たして幸福なのだろうか。

ミルドレッドの生活には、ぞっとした。
彼女は不安耐性が低く、不安と孤独を否認するために見知らぬ他者との刺激的で無意味な会話に依存している。自分自身の不安や孤独にほとんど無自覚でありながら、彼女は時折、致死量ほどの睡眠薬を過量服薬する。
私もブログを書くし、SNSを利用しているが、携帯やPCを手放せない今時の生活を鋭く批判されたような気がして、その詩人の直観の鋭さにぞっとした。
この本が書かれたのは1953年。チャットもツイッターもオンラインゲームも動画サイトない。あるわけがない。
そのころは、今のように出版社の危機が叫ばれることもなかったのではないか。新聞も雑誌も書籍も、まだ力があったからこそ、この本は警句となりえた。
活字離れが進み、この本もまた情報の海に埋もれて読まれなくなることは、もっともっとぞっとする。怖い予感だ。

本当に幸せなのか?
この問いから、モンターグは自分自身を振り返り、自分の頭で考えて自分の言葉を得ようとする。
モンターグは、本を焼くことは人を焼くことと同じであると、どこかで直感していた。
本の中には答えはないかもしれない。しかし、考えるための手掛かりや技術を人に与えてくれる。
前半は視覚と聴覚優位だった描写が、モンターグが町を出て、自分を歩きだした時から、触覚や嗅覚、温感といった全身の五感に訴えるものに変わる。
圧倒的な世界の存在感が、本を読もうとしたときに立ち現われるのが、興味深い。
知性を持った人々が試みた方法は確実ではないが、しかし、昔から人々が選んできた方法である。
飯島和一『黄金旅風』を思い出しつつ、本を閉じた。聖書を奪われた隠れキリシタン達の営みを……。

最初に出てくるクラリスという少女の言葉遣いに訳の古さを感じたけれども、読み進めるにつれて引き込まれ、一昼夜で読んでしまった。
ここしばらくでは一番の没頭だったように思う。
間違いなく、不朽の名作だと思った。

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コメント

こんにちは。あまり登場しない上にお久しぶり過ぎてお忘れかもしれませんが気にせず書きますね?(笑)

私もタイトルは知っていても難しそうで敬遠していました。
だけど読みたいと思いました!読みます!
暫く忙しくなると思うので直ぐには無理そうですが、(読むの遅いのに読み始めたら止められないので、タイミングが必要なんです)今日、帰りに本屋さんに寄ってきます♪
自分全部を使って生きていられることを嬉しく感じられそうです。

本離れや規制、逆行しないで欲しいと思います。

ナオさん、こんばんは。コメント、ありがとうございます。
この記事を見つけてくださってありがとうございます。
この本は、名作と呼ばれるにふさわしい本でした。
人を考えさせる力を持つ、印象深い一冊です。
読むほうもエネルギーを要求されますが、よい出会いになるよう祈っています。

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