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2010.06.01

悲しきアンコール・ワット

悲しきアンコール・ワット (集英社新書)  三留理男 2004 集英社新書

この本を選んだのは、アンコール遺跡群についての本の中で、数少ない新書だったからだ。
これから旅行に行く人や、帰ってきた人が、アンコール・ワットの見所ポイントやレリーフの意味合いを調べるには不向きである。
遺跡が建築されていった当時の歴史や生活を詳しく知りたい人にも不適当かもしれない。王達の歴史を知るには、ほかの本を紐解くほうがよいだろう。
しかし、結果として、私はこの本から読み始めてよかったと思う。
ここには、アンコール・ワットを代表とするカンボジアの文化財が、どのように壊されてきたのか、今も危機に瀕しているのかが、書かれているから。
近現代のカンボジアと、周辺国との関係性を理解する一助にもなった。

内戦時代から報道写真家としてカンボジアを取材し続けてきた著者ならではの美しい、迫力のある写真も多い。
人が笑顔の裏側に隠すものをよく見てきたのだろう。著者は安易に人の愚かさをなじりはしない。
しかし、問題の根深さと大きさに、途方にくれたかのような失望感や歯がゆくてたまらない苛立ちが全体に漂っているように感じる。

この遺跡は、段階を経て壊されてきた。
13世紀頃、中国がカンボジアを真臘と呼んでいた頃の記録があるそうだ。アンコール・トムが、遺跡ではなく、王宮として、都市として生きていたことがうかがえる。
王達は隣国との戦争を経ている。そのたびに、戦勝品としてアンコールから仏像が持ち出されることはあった。また、版図の縮小に伴い、今ではカンボジアの国境線の外になってしまった遺跡もある。
15世紀に王達がアンコールを去ってから、略奪が本格化したという。シャムやビルマなど、誰もがそこに価値を見出した。
19世紀になり、ヨーロッパがアンコール遺跡群を再発見し、そこから、更なる盗掘と密輸の歴史が始まる。
その上、20世紀には内戦の舞台となり、砲火を浴びた。その間も、時間と自然が手を組んで、遺跡を風化させてきた。

もちろん、ものというものは、作られた時からいつかは壊れる運命を背負う。
王達が土地を去った時から、森が遺跡を飲み込み、土に返していくことが、それが自然な営みなのかもしれない。
それでも、見る人が魅了されるデヴァターの微笑、建築の優美、栄光の日々を守りたいという気持ちならわかる。
ただ、それを手元に所有していたいという気持ちは、私にはわからない。
対象がクメール美術かどうかは置いておけば、手に触れたい、いつも側においていたい、そういう欲求は私にもあるが、なんせ、管理能力が低いから……。整理整頓、苦手だし。
となると、大事なものほど手元に置いておいちゃいけない気がするから、私の所有欲は低いのだ。
何をコレクトしても、ほんと、大事にしないもんなぁ……。
行っても余計なものは買うまい。そう思った。

自然に飲み込まれるのならまだいいのだ。
一番、嫌なのは、バーミヤンの石仏のような、あえて人が壊すパターンだ。
盗掘と密輸は、人為的な破壊に他ならないではないか。
そうやって国外に持ち出してしまえば、いつかアプサラ達は尽きる。数には限りがある。
売るのはレプリカにして、本物を手元に置くからこそ、それを良好な状態で保存しておいてこそ、観光資源としてアプサラ達はカンボジアの人々に未来に向けて富をもたらす。
その10年先、100年先の未来を見据えることはできないのか。
観光客が押し寄せてしまっては、それはそれで遺跡の保存上、難しいことが起きるかもしれないが、他でもない地元の人にとっての宝物であってほしい。
切実な思いで、文化を守ろうとする人たちもいる。そこに希望と敬意を感じた。

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