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2010.05.27

悲歌 エレジー

悲歌  エレジー  中山可穂 2009 角川書店

隅田川、定家、蝉丸。
3つの題は、それぞれが能より取られている。
「隅田川」を読んでから、能のほうの隅田川のあらすじを調べてみた。
ついでに、「定家」のあらすじを読んでから、こちらの小説のほうを読んでみた。
「蝉丸」については、雑誌掲載時に読んでいる。

中山可穂版・現代能楽集と帯に銘打ってあるが、同様の企画としては『弱法師』に続くものである。
こういう翻案されたものを楽しむには、もともとのものを知っていると、見方が変わる気がする。
後から元ネタを調べてここがこうなってああなって……と思い描くこともできるが、元ネタを知った上で読むと、あれがこうなるのか、という驚きをもって味わうことができるのではないだろうか。
そして、中山さんの料理の仕方のヴァリエーションに感服しつつ、改めて元ネタの深さにも驚いたりもするのだ。

心の中で、既に不在の人へと呼びかける。
その呼びかけが、この三篇には共通している。
隅田川では、娘を自殺で亡くした父親へ。
定家では、誰かを愛しながらも謎の死を遂げた小説家へ。
そして、蝉丸では、自分の師であり、心から敬愛する作曲家へ。
呼びかけた相手は不在であるから、その答えはない。
それでもなお、呼びかける。ねえ先生?と呼びかけずにはいられない。

三篇の主人公はそれぞれに、なにかの作り手である。
写真家、小説家、作曲家。
どちらかといえば、志に途切れがちな、道半ばで迷いながら、立ち止まりながら、師に向かって問わずにいられないのだ。
その師となるのは、どれもが主人公達以上に、その道や人生に挫折しているという矛盾を孕みながらも。
だが、作者の描く作り手達は、これまでとは違ったまなざしを持っているように感じる。

この薄汚れた醜い世界の隙間に隠れている美しいもの、圧倒的なものを注意深く取り出して、人々の前に差し出すこと。それが写真の仕事なら、わたしは写真家になりたい。あの子に向かって、死に急ぐすべての少女たちに向かって、世界はまだこんなにも美しいのだと知らせたい。(p.17)

ここに、作者の美意識を感じた。祈りのような美意識だ。
最近の作品になるほど、そこここに、年長者からのエールを感じるようになった。
それは、生き延びよという命題であったり、愛するときは用心深くせよという箴言だったりする。
それが、とても暖かで力強い愛に感じる。大きなものを包む薄い膜のように、意識には上らないけれどもそこに確かにあるような、そんな愛に。
だからこそ、読んでいて苦しくなるというより、励まされるような余韻が残るようになったのではないか。

愛を後ろ手に隠したまま、愛を貫く方法はないか。
そうは願いながらも、あいにく、私は隠し事が下手だった。
登場人物たちの不器用さに、だから、私は慰められるのかもしれない。
捨て身の、あまりにも捨て身で完璧なものを求める愛の報われなさ、難しさに。

それでも、愛の記憶は、時に胸を暖めて命を照らす力を持つのだ。
いつまでも。

「さあ、もう寝よう。明日も元気に目覚めるために。明日もまた、大人に負けずに闘うために。たっぷり眠った子供には、眠れない大人はかなわないんだからな」(p.149)

 ***

アンコールワットに行ってみようと思ったのは、無意識のどこかに蝉丸の物語が残っていたからかもしれない。
デヴァター達に会いに行ってみようと思う。でも、遺跡ばかりだと飽きちゃうことが冒頭で描かれていたから、欲張らないようにして。
ロリュオス遺跡かぁ。今回は後回しかな。ベンメリアもちょっと遠めなんだよなぁ。
アキーラ地雷博物館には行ってみたいのだけれども。うーんうーんうーん。

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