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2010.03.21

千年の祈り

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)  イーユン・リー 篠森ゆりこ(訳) 2007 新潮社

中国とアメリカ。
共産主義と資本主義。
中国と英語。
東と西の断絶を、その間隙に沈む言語で読む、不可思議。
この本も、母国語ではないからこそ書けた表現であり、遠くから母国を見つめなおす作業だ。
母国というのは、自分が生まれ育ち、知らず知らずに自らのうちに取り込んだ、文化であり歴史であり思想であり習慣であり精神である。
言葉の一つ一つが哲学であり、言語は思考である。異なる言語を得ることによって、初めて自分の思考を客体化することが可能になるのかもしれない。

この著者に興味を持ったのは、雑誌で読んだ短い文章だった。
本を手に入れるまでに時間が経ち、その文章も、掲載されていた雑誌のことも見失ってしまったが、その文章を読んだ時の、この人を読まなくてはいけないという強く湧きあがった義務感は憶えている。
入手してからまたしばらく経ち、目次を開くと「死を正しく語るには」というタイトルが見えた。
フォレスト『さりながら』の次に読むのにふさわしいのはこの本だと思った。
「不滅」とくればクンデラであるし、後書きを読めば、作者がクンデラはもちろん、サルトルやカミュ、ニーチェ、キルケゴールなどに親しんでおり、そのあたりもフォレストと通じるものを感じて、一つの流れを感じた。

10の短編のいくつかは中国を舞台にしており、いくつかはアメリカを舞台にしている。
面白いのは、中国を舞台にする短編には時制がない。もとの英文が、すべて現在形で書かれているのだろうか。中国語の素養がないので確かなことは知らないが、中国語には過去形がないようなことを聞いたことがあり、確かに漢文で過去形を習った憶えもないので、その時制のなさに中国を感じた。
勘違いだったら恥ずかしいけれども、欧米の言語は時制には口うるさい。その知識からすると、一つめの短編「あまりもの」は、首をかしげるぐらいに違和感があり、その違和感の理由に気付くのに間もなかった。
そして、10個目の短編「千年の祈り」では、「過去のことを語る習慣はない」(p.228)、「いつまでも思い出にふけっているのはよくない」(p.245)と語られる。
過去のことを語らぬならば、それが過去ではないとするならば、過去形はいらない。

この百年、中国は大きな変化をいくつも経た。近代史にうとい私は、それを十分に把握しているとは言えないが。長い長い皇帝の時代があり、

それから短い共和制の時代があり、軍閥の時代があり、二回の大戦があった。(中略)やがて内戦。ついに共産主義の夜明けを迎えるのである。(pp.57-58、「不滅」)

文化大革命があり、あるいは、天安門事件があり、それは世代ごとに大きく文化が異なるような事態が起きていることを示す。
単なる親と子の断絶ではない。その断絶は、歴史による断絶。
あまりにも深く、どうしようもなく広く、越えようのない隔たりのゆえに、どの人もわかりあえない。
寂しくて、淋しくて、さびしくてさびしくてさびしくて、母親は底なしの愛に落ちる。
他方で、「誰かの子供でいるというのは、その立場からおりることのできない難しい仕事である」(p.176)。

隔たりがあるにもかかわらず縛られている、その感覚を、著者は繰り返し叫んでいるように感じた。
母であり、母国であり、母国語であり、そういう自分を作り上げているもの、切っても切り離せないなにものか。
愛していながら憎まずにはいられない。けれども切り捨てるのは難しい。
海を越えて、物理的に距離を置いて、どうにかこうにか、心理的にも距離を置けるようになったもの。
程よい距離を望む心は、離れたくはないがぶつかりたくもない、本当はうまく繋がっていたいという祈りではないだろうか。

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