見仏記
阿修羅に会ってきた。
興福寺ではなく、博物館に行ってきたのである。
初対面ではなく、再会のはずである。
しかと憶えていないが、確か再会のはず。
興福寺に行ったのは、私が関西に住んでいた頃、こんなにもてはやされていなかった頃だった。
その展示を見終えた後、おみやげ物のコーナーを見るのが楽しい。
阿修羅関係のクリアファイルやトートバッグに、興福寺特製のお線香であるとか、お茶(興福茶)であるとか、食指を動かされまくった末に、この本と、阿修羅ファンクラブ公式ソングのCDを記念に購入した。
この見仏記は、興福寺から始まっているのだから。
奈良、京都、東北、九州……。旅行記ではなく、仏を見た記録。
仏像そのものについての薀蓄ではなく、仏像を見たときの感覚や感想、連想をつづったエッセイ。
いとうせいこうとみうらじゅんのかみ合っているような、かみ合っていないような、時々、がっちりクロスするような会話が楽しい。
二人で勝手に想像を広げていく感じが楽しい。仏像を作ったときの人の気持ちや、時には仏そのものの気持ちにまで想像は広がる。
それがやけにアクチュアリティが感じられて、思わず笑いがこみ上げてくることもしばしばだった。
しかし、いかんせん、寺と仏像の名前で映像が思い浮かぶほどには、私は仏像は詳しくないのだ。そこが悔しい。
思い浮かべることができたら、この二人とさも一緒に仏を見ているかのような気分まで、楽しめたであろうに。
後で、ちょこちょことネットで検索して画像を探してみたりしたが、やっぱり行ってみたいなと思った場所もいくつかあった。
阿修羅と会うのも、次は本来の場所がいいな。
私のリーダーも探してみたいな。今のところ、三井寺の如意輪観音様がベストなんだけど……。
面白おかしく読んだ本だったが、最後の最後で泣きそうになった。
三十三年後の約束。なんて、かっこいいことをしちゃうんだ。
二人の得た結論めいた会話が、この記録の二人の年齢を越えた私の胸に響いた。
「なにしろ、仏像は修復出切るからさ」
「でも、人間は修復出来ない」(p.289)
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こんばんは~。
阿修羅展、行かれたのですか。
うらやましいです。
東京のときも日程が合わずに行けず、かといって九州まで行くのも遠いし・・・と博物館で見るのはあきらめてました。
いつか興福寺に見に行くぞ!と思ってます。
仏像の本、去年いろいろ読んだのですが、「見仏記」よりも吉田 さらさの「京都、仏像をめぐる旅 」が気に入って、これを片手に京都を歩いてきました。
投稿: 牛くんの母 | 2009.09.14 20:00
こんばんは、阿修羅展に行かれたんですね。
阿修羅ファンクラブ公式ソングが気になります。
ファンクラブがあること自体驚きでした。
仏像は詳しくありませんけど、阿修羅像は一度見てみたいものです。
いつか興福寺で会える日がくることを願って。
引用の言葉、鐘の音のように余韻が残りますね。
投稿: 雪芽 | 2009.09.15 00:47
>牛くんの母さん
こんにちは。この「見仏記」、確かに仏像についてはあまり書いていませんもんね。いとうせいこうさんの文章は、つい、仏像から離れて行っちゃうので……。笑
展示の仕方も上品で、間近でじっくりと見つめることができました。できれば、もう少し人気が少ないと、自分の世界に浸りながら味わうことができたのではないかと思います。
>雪芽さん
「本来あるべき場所」にいる阿修羅に会いに行くのが一番素敵な出会いになりますよね。
阿修羅ファンクラブ公式ソングは、東京国立博物館&九州国立博物館のみの発売だったようです。
もうファンクラブは会員募集をしていないようで、ちょっと残念。
http://www.ashura-fanclub.jp/topics/20081024_2.html
投稿: 香桑@室長 | 2009.09.15 17:12