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2009.08.30

狐笛のかなた

狐笛のかなた (新潮文庫)  上橋菜穂子 2006 新潮文庫

人の心の中には、綺麗なものも醜悪なものも、共に在る。
そのことを、この作者はよく知っているのだと思う。

いつかどこかで見たような景色の物語は、幻想的で美しい。
「守り人」シリーズの作者が描く、日本の昔話の形を借りたファンタジー。
威余ノ国という架空の土地を舞台にした、一種の時代劇になっている。
たとえば、ひかわきょうこ『お伽もよう綾にしき』であるとか、柳原望『お伽噺を語ろう』とか、どちらもマンガであるけど、そのあたりを思い出してにまにま。
こういうジャンルも好きだー。

しかも、上橋さんの描くヒロインは、魅力的だ。
若々しくてたおやかでかわいらしい小夜も、守られるだけのヒロインではない。
一生懸命に大事なものを守ろうとする、力強い心と命を持っている。
まっすぐに育った若樹のように、しなやかで簡単に折れない。生きることをあきらめない。

世界には、復讐の連鎖という呪詛が渦巻いている。
それは現在進行形で紡がれている。
国の単位で更新されていることもあれば、個人の単位でも繰り返される。

復讐という呪いは強力だ。
まさしく、末代まで祟る。
呪いをかける身が、呪いに縛られる。
見ることは、見られること。使うことは、使われること。(p.265)
やられたらやり返すつもりが、やり返すことで自分はやられている。
その逆転に、どれだけの人が気づいているだろうか。

容易に断ち切れぬその連鎖を、小夜や野火は乗り越えていく。
同時に、二つの世界の断絶を、その<あわい>ですり合わせていくのだ。
私はこの結末に満足している。むごいとは思わない。
人の姿であることが、人であることが、ベストであるとは思わない。
相手を自分にあわせるのではなく、捨て身なまでに、相手に寄り添おうとした小夜の愛情が感じられる。
のみならず、小夜が自分を投げ出すことによって、霊狐を使役する一族の血脈を絶ち、未来の霊狐達をも守ることになる。
それどころか、小夜と野火の子孫は、いつか、霊狐の先祖たちのふるさとである<彼の世>にいたるかもしれない。

旅先に持って行ったこの本、帰り道は飛行機が空中で待機する羽目になったが、クライマックスを何度も何度も読み返した。
愛は自分を殺すことはできるが、相手を殺すことはできないのだ。
愛することができさえすれば、呪いを乗り越えていくことはできる。
きっとできる。

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