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2009.08.17

感情教育

感情教育 (講談社文庫)  中山可穂 2002 講談社文庫

伊勢佐木町から始まる。
この冒頭の1ページを開いて、横浜に行く時の共に選んだ。
最後の夏を目指す、その道すがら。飛行機の中で少しでも休養を取るつもりにしていたことも忘れて、引き込まれるように読みふけった。

中山さんの小説は、繰り返し、繰り返し、姿を変えながら一つの恋愛が立ち現れる。
遁走曲のように、変奏曲のように、通底している作者の体験があるのだと思っている。
デビュー作を読んだ後は遠ざかり、最近の小説で読み直すようになったので、新しい作品ほど作者の体験が昇華されていることを感じるし、以前の作品ほど生々しさに満ちている感じがする。

この本は、作者が恋人とその子どものために書いた本だと、どれかの後書きで読んだ。『白い薔薇の淵まで』だったと思う。
だからこそ、後回しにしてきた。生々しいと、自分が凹んでしまいそうな気がして。
中山さんの文章は大好きなのだが、読むことにとてもエネルギーを要する。我が身と向き合う作業が、必ず伴うからだ。

産まれてすぐに母親に捨てられた那智の半生を描く、第一章「サマータイム」。
これだけでもお腹がいっぱいになりそうなぐらい、丹念に彼女の不幸を描く。この人生は、不幸あるいは不遇と言っていいだろう。
自分自身というものからは一生逃れられない、その無力感と閉塞感。ぐいぐいと自分の中の古い傷跡を押し開かされるような痛みを感じた。
男性から閉じ込められ、外界から切り離され、ふみにじられることしか、自分には許されないのか。その嘆きが、痛々しくてたまらなくなる。

第二章「夜と群がる星の波動」は理緒という、父親から捨てられた女性の半生を描く。
いきなり別の場所、別の人物の物語が始まり、那智は不在で、この本は短編集であったのかと目を疑った。
芝居が好きで、文筆家になって、同性愛というセクシュアリティを隠さずに生きている女性。
しばしば、作者が自分を投影させて書いているだろうと思われるタイプだ。
恋愛にのめりこんでは体調を崩す、このタイプの方に、私も自分を投影しやすかったりする。
しかも、大学の景色が自分の知っていたものに似ていて、いつも以上に親近感を持つことができた。私のときにはここまで華やかではなかったが。
章題は、サルバトーレ・クワジーモドという詩人の詩句の一節だそうだ。イメージの広がる、とても美しい言葉であるが、詩集はとても素晴らしいお値段なので手を出すのはためらわれる。

そして、第三章「ブルーライト・ヨコハマ」で、運命の二人がやっと出会う。
出会ってからはあっという間だった。前世から絆を結ばれた二人のように、出会ったときからしっくりと来るような二人の恋は駆け足だ。
しかし、理緒にとって、人妻であり、母親であり、もともと性的な関係で苦労をしてきた那智との恋は、波乱含みだった。
相手が既婚者であるだけで、望めないことが増えてしまう。そのあたりが一番切なくて、二人が死の海に臨んだときには、一緒になって魅入られてしまいそうになった気がする。

一晩でいい。共に抱き合いながら眠れたら。共に夜明けを迎えることができたら。たったそれだけのことが、許されない。
愛する人に、自分との恋愛の代償に、現在の家庭や生活を捨てろと言えるか。自分の幸福の代償に、現在の家庭や生活を捨てることはできるのか。
二者択一ではないはずのことが、二者択一であるかのように選択を迫られる。自分自身も、そうとしか事態を把握できないほど、疲れ果てて視野狭窄に陥ってしまうことがある。

作者は後書きに本書がその時の最高傑作と書いている。恋愛は終わっても、小説は残る。
美しい恋愛の記念碑として輝く本書は、恋愛小説としてももちろんであるが、被虐待からのサバイバーを描いた小説としても秀逸だと思った。

 ***

あなたと今後どうなるにせよ、あなたと出会えてよかった。人生はとても短い。愛せる人にめぐり会うのは奇跡のようなものだ。心を開いて、前を向いて、自分に正直に、生きていってください。(p.235)

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コメント

香桑さん、こんばんは(^^)。
TB&コメント、ありがとうございました。
・・・すみません。自分に合わないからと、かなりマイナス方向な文章書いてたのに・・・。
那智や理緒とは真反対にいるから、情緒的に受け入れられませんでした。
理解は、出来たように思いますが。
私説ではない個人的な小説、ということで、現実はそんな簡単に収まるものではない、ということなのかな…と納得はしました。
・・・感想が難しい作品でした。

水無月・Rさん、こんばんは☆
感情が乗らない読書って、つらいですよね……。
同じ本でも人によって感想が違うのは当たり前ですから、TBさせていただきました。
それに、むしろ、水無月・Rさんにはこの二人とは真反対にいていただきたいですよー。そうじゃなくちゃ困ります。でしょ?

なんといいますか、私はその後の二人をほかの小説で読んだ気分で読み終えたのだと思います。
『マラケシュ心中』だったり『サイゴン・タンゴ・カフェ』だったり。

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中山可穂さんの作品は、激情の物語なんですよねぇ。読むときは体力と覚悟が必要なんですよ。今回も、久しぶりにちょっと体力的に余裕があるので、取り組むことにしました。 案外、本作『感情教育』は体力は要らなかったです。 というのもね~、今回は物語に同調できなかったのですよ。まあ、仕方ないかな。私、彼女達の正反対側にいるから・・・。... [続きを読む]

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