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2009.05.31

人間失格

人間失格 (集英社文庫)  太宰 治 1990 集英社文庫

はしがきだけを読んで、本を閉じた。それは、何年前のことであったか。
ある男性が、この本を読んだ時に自分のことだと思ったと語っていた。私は日本の文学なるものを苦手としていたから、恥ずかしながらきちんと読んでみたことなどなかった。
その人と別れてから数年。読み始める確かにその男性が思い出されて嫌になった。露悪的な陶酔感に、無性に腹が立った。
それから更に数年。今度は最後まで読んだ。

内容については、名作であるため、触れるの及ばないだろう。
代わりに、主人公はヘタレでトホホな属性はマックスでありながら、どうして私はこんなに萌えないんだろう?と考えてみた。
主人公の周りには次々と女性が現れる。主人公はさも迷惑であったかのように、ほとんど一目で女性に気に入られて、かまわれるようになることを描く。時にはほとんど幸福になることもあれば、心中すら試みながらも、その女性達の感情はといえば希薄にしか読み取れない。
そのあたりが、たとえばもりみーの描く主人公とは違うんだろうなぁ。におい立つようなナルシシズムが鼻につく。なんか、可愛くない。可愛くないったら可愛くない。

作者の娘である太田治子の鑑賞がよかった。この鑑賞を読んで、すっきりと腑に落ち着いた感じがした。彼女は「私はどうしても女ではない、男の強がりを感じずにはいられない」(p.193)と書く。いやまさに。
自分はだめだー人間失格だーと書きながら、顔がいいもんもてるもん画才だってあるもん金持ちのぼっちゃんだもん、と同時に書いているのだから。
そこを単なるナルシシズムとして読まずに可愛げのある強がりだと思うと、見える像が変化した。
しかも、作中では「都会の男女の場合、男よりも女のほうが、その、義侠心とでもいうべきものをたっぷりと持っていました」(p.127)と書いているように、すっかり女性に頭が上がらなくなっているものだから、男性としての見栄の張り方も工夫がいったことだろう。

太田が作者を「赤ん坊のような素直さ」と「明るい心の持ち主」と書いているが、露悪的に見えるようにかっこつけずにいられない。そうでもしないと自己愛が守れないぐらいのヘタレ具合に気づいたら、だんだん可愛くなってきた。よし。
落語の若旦那ばりの人の好さ、生活力なんてからきしなくて、人に振り回されたばかりで、そのかっこ悪さの自覚ばかりはあっても甲斐性はやぱりなくて、努力する場所を間違えてしまっていまさら修正できなくて、しょうがないからかっこ悪いなりにかっこつけてみました、みたいな感じ? どうしようもなくかっこよくないのだもの。それは、よくわかっているんだ。
そんな作者の顔らしきものが見えてくると、作者が森見登美彦の『新釈 走れメロス』を読んだらきっと楽しんでくれるんじゃないかって気がしてきた。

人前で仮面を取り繕わざるをえないような自己の在り方であるとか、日蔭者であるというアイデンティティの持ちようには、共感もする。
自分ばかりが普通にふるまうことがへたくそで仕方がないようなもどかしさを、引きずりながら生きてきた。
とはいえ、そこに同調しながら読むよりも、この主人公が診断がつくとしたらどうなるんだろうと気になって、むしろ対象として突き放すように読んでしまった。
抑うつ状態を伴うアルコール/薬物依存に、パーソナリティの問題もある気がする。だとしたら、自己愛性の人格傾向が一番顕著かな、と思ったり。でも、もともとうつ病の素因を持つ人であったのかもしれないとも思ってみたり。だとしたら、主人公は死なないが、本書を書いたすぐ後に自殺してしまった作者の自殺は、症状としての自殺ではないかと思えてきたり。
主人公のような人は多い気がする。言い換えれば、本作が今なお色褪せていない、十分に現代的である。

集英社文庫を買ったのは、小畑健の表紙に釣られたからである。そのくせ、Bookokaでつけてもらったリリー・フランキーのカバーを重ねているが。
年表や小説の素材となってであろう写真、小林広一の解説、太田治子の鑑賞に加えて、丁寧な語註もついており、若年の人にとっても言葉に戸惑うことは少ないと思われる。

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