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2009.01.06

イノセント・ゲリラの祝祭

イノセント・ゲリラの祝祭  海堂 尊 2008 宝島社

こんなに不吉な予感がいっぱいで終わられると、どうにも居心地が悪くなる。
不吉な予感は『螺鈿迷宮』から感じていたが、この巻を読んでますます強くなった。
「野性時代」の特集インタビューを斜め読みしたが、このシリーズはもともと桜宮市の医療崩壊を描く三部作だったと書いてあったと思う。
そうなのだ。いずれ崩壊していくことへの予感が、怖い。

田口&白鳥コンビの復活ということで、楽しみに読み始めて、あれれ?と思った。
なんか、田口のキャラ、こんなんでしたっけ?
口調が速水っぽい。昼行灯っぽくないです。へたれ要素が減ってます。
違和感を感じつつも、田口が厚生労働省の会議の委員に引っ張り出されるまでの前半は、テンポのよい会話に笑わせられながら、するすると読み進んだ。
田口もいいけど、白鳥も楽しいけど、加納さんが想像して楽しい。もちろん、高階タヌキ院長も。
あと、すみれの香りが漂う場面では、しんみりとしてしまった。

後半は厚生労働省の会議の連続。噂に聞く恒例の行事が出てきて苦笑いする。
こういうことが現にありそうなところが、滑稽でも苦々しくて笑い飛ばせない。
会議となると、当然、登場人物も飛躍的に増える。各科の医師、法医学者、医療事故被害者遺族、厚生労働省、マスコミ、法曹界、司法省に内閣府……。
各立場が入り乱れての議論は、まるでなにかの前哨戦だ。この物語はここで終わらない。
立ち上がったゲリラは、自らの失敗を予期しつつ、それでも立ち上がらずにはいられないのだから。

社会批判性の強さにひやりとした。
官僚主義に対する批判は舌鋒鋭く、かつ、皮肉たっぷりだ。
これは小説じゃないと書けない。創作だから許される。うかつに書くと後が怖そう。
そんな風に感じてしまう私の感性は、それだけ官僚主義社会を信頼していないということである。
そんな風に感じてしまう文章を書き上げた作者が、イノセントなゲリラを企図しているのだと思う。

臨床は体力だ。
医師は、つくづくと肉体労働だと思う。拘束時間は長く、要求される業務は多い。公共の福祉のため、無償で要求される業務もある。責任は重く、失敗は社会的に許されない。
だが、人は必ず死ぬ。人は老いる。傷つく。医療は完璧ではない。そのことを忘れるユーザーもいる。
医療が完璧であるというファンタジーは、時に治療者も持つことがあるので、それはそれで要注意なんだけど。
とはいえ、これでますます給料が安くなったり、当然の結果でも裁かれるようなことが増えれば、医療従事者がばからしさに仕事を放棄したくなるのもむべなり。という気がする。

こんなことを書いている私は、しかし、医療に対する不信もある。あれは医療過誤ではなかったのか、と疑いを持つことがいくつかある。
しかし、死者が焼かれた後になっては、何も確かめようがない。
入院患者が、左の部屋から順番に感染症で死んでいったのは、施設に問題はなかったのか。
解熱剤の長期投与により、血液が凝固せず、傷が治りにくかったことが、胃を摘出した患者の死を早めたのではないか。
なぜ、最後の最後、本人も意識が朦朧とする中、家族にも何も説明せず、モルヒネの量を勝手に増やしたのだ。誰が了承したのか。勝手に安楽殺しただけではないのか。
人が死ぬのは当然の事象であると受け止めていても、そこに人間の過失や意図が紛れ込んでいなかったか、家族はとてもナーバスになるものなのだ。
そこに回答するサービスは、私個人は、まだ受けたことがない。

今のままで医療ユーザーが無関心を保つとどういうことになるか。そんなカタストロフを作者は用意しているのではないか。
なぜかならば、作者は一貫して、現在の医療が抱える苦境を小説を通じて訴えてきた。
作者はミステリーを書きたいのではない。警告を放つ訴状を書きたいのだと、私は感じている。
最も強い警報の一つが、現状の維持の将来像を呈することではないだろうか。
だから、期待はせずに次を待ちたい。再生は死が前提であることを思い出しつつ。

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コメント

香桑さん、こんばんは(^^)。
今回も、いろんな登場人物がさんざんっぱら暴れまくってくれましたね♪

私の漠然とした不安を、香桑さんが明文化して下さったので、ちょっとすっきりしました。
>今のままで医療ユーザーが無関心を保つとどういうことになるか。そんなカタストロフを作者は用意しているのではないか。

もっと、考えなくてはいけない。医療の問題も、政治の在り方にも、もっと疑問を持ち、意見をもたないと、このまま本当に亡国・亡民となってしまうのではないかと、そんな風に感じました。怖いなぁ。

次作『極北クレイマー』も、楽しみですね♪

水無月・Rさん、こんばんは☆
今回の登場人物の多さには、うえーっとなってしまいました。人物が増えると、お気に入りさんの出番が減るじゃないですか。厚労省が舞台だと、院長の出番が~。(T_T)
これで役者は出揃った感じになるのでしょうか。

この先の展開、ちょっと怖いですよね。
この本を読んでから、各省がなにか調査をするとか研究会を立ち上げるというニュースを聞くと、冷たい斜め目線を送るようになってしまいました。(^^;;

ついでに、メタボも気にしなくなりました。笑

こんにちは。
そうそう。居心地の悪さいっぱいの読後感でした。
そして「訴状」ね!う~ん、ピッタリの言葉だなぁ・・・。
で。
私は「訴状」ではなく「小説」が読みたいのだっ!!としみじみ思いました;;;

すずなちゃん、こんにちは。
海堂さんの小説を書く動機って、「小説を書こう」として書いている感じじゃないんだもん。
小説の体裁を取っているから、ベストセラーにもなって、多くの人の目に留まり、かつ、極端なことを書いても許されるわけですが、私も「小説」が読みたいですぅ。小説を期待して読むので、もう少し小説っぽいと嬉しいんですけれども……
厚生省を小説に描こうとすると、これが限界というぐらい、もともとがもともとだったらどうしよう……。

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あの「バチスタ・スキャンダル」から、2年後。 厚生労働省の規格外役人・ロジカルモンスター・火喰い鳥の・白鳥のあからさまな要請にハメられ、「医療関連死モデル事業特別分科会」に招聘されたアンラッキー中年の田口センセは、厚生労働省及び官僚の方針、医療界内の対立を目の当たりにすることになる・・・。 うわ!大変なことになってるよ!『死因不明社会』で、厚生労働省というか官僚の基本方針が「国民のため、はなく自省の既得権益維持拡大及び天下り先の確保」である、という点を仕込まれてた私ですら、そりゃねーだ...... [続きを読む]

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