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2008.11.04

心ヲナクセ体ヲ残セ

心ヲナクセ体ヲ残セ (角川文庫 か 49-2)  加藤幸子 2008 角川文庫

2008年、誰かニジドリを見ただろうか。

新刊の広告の中で気になった本だった。
購入してみたら、梨木香歩さん大絶賛と帯にあり、期待して手に取った。

「主人公のいない場所」という題にまとめられた短編集は、「火の恋」というものから始まる。
アカショウビンだ。鮮やかで美しい鳥だ。お気に入りの鳥の写真専門のブログで見かけた姿を思い出す。
なんとも印象的な景色を皮切りに、いっぺんが4ページほどのとても短いものが24編。
これだけ短いにも関わらず、読むのは少し苦痛に感じた。短編集は苦手にしていたことを思い出したぐらいだ。

一人称ではないが、三人称というほど突き放している感じもしない。
登場人物の心の中まで見通すことのできる透明なまなざしの持ち主が語っているような気がした。
内心に触れることができるが、しかし、他人事のような冷たさがあり、語り口は常に淡々として一定なのだ。
そういう意味では、主人公となるのは、物語の中での死者や不在者というよりも、直接には登場しない透明のまなざしの持ち主であり、文章に足跡だけを残している書き手であり、また、読み手のいずれかということになるのだろうか。
しかも、理不尽で、不条理で、死の臭いがはしばしに漂う。本来、生き物の生は、常に死を傍らにするものだということを思い出さされる。
物語の手触りから、ミヒャル・エンデの『鏡の中の鏡:迷宮』という短編集を思い出した。
梨木さんの解説が精密で素晴らしいので、あわせて読むと居心地の悪さも少し納まった気がする。

「渡鶴詩」「雀遺文」「アズマヤの情事」「ジーンとともに」の中編は、私にもぐっと読みやすいものであり、引き込まれた。
人間が発展の名の下に自然破壊を進める時代の野性に生きる不条理や理不尽は、「渡鶴詩」や「ジーンとともに」で痛切にあらわされる。
しかし、「雀遺文」でも「アズマヤの情事」でも、理性という壊れた本能ではどうにも得心できぬ、あの燃え立つ衝動、自分の中にあるもう一人の自分の声を聞かされることでは共通である。
確かに、単なる擬人化ではない。その上、単なる自然観察報告でもない。

上橋菜穂子『神の守り人』に出てくるスファルや、マーセデス・ラッキーがヴァルデマール年代記の中で描く鷹の兄弟たちは、猛禽類を自分の目や耳のように使う。
どちらも、アクチュアリティをファンタジーに付与することのできるほど、素晴らしい想像力と描写力を持った書き手である。
さしづめ、そのスファルや鷹の兄弟たちが、自分の魂を、鳥という存在に託す感覚は、こんなものではないだろうか。
人間とはまったく異なる肉体を持ち、精神を持つ存在。その異なるという感覚がクリアに体験されるような、不思議な文章だった。

「ジーンとともに」を読むと、著者がやりたかったことが一番はっきりと感じられる気がする。
私は「雀遺文」も好きかな。読み終えた直後に、落語「抜け雀」を聞き、またもシンクロニシティに驚いた。

 ***

ニジドリ。自分のジーンの囁きが聞こえる。多分、私はあのとき、ニジドリを見てしまったのだ。

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