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2008.11.28

ジェネラル・ルージュの凱旋

ジェネラル・ルージュの凱旋  海堂 尊 2007 宝島社

いくらこの本が面白くても、『ナイチンゲールの沈黙』を読んでからでないと、ぴんと来ないところもあるだろう。
今度の舞台は救命救急センター。ジェネラル・ルージュこと速水を中心に物語は暴走する。
『ナイチンゲールの沈黙』とほぼ同時並行に話は進む。会話の多くも、双方を読んで補完されるような、そういう双子の本になっている。
友人の進めとおり、順番に読んでよかった。

章題は大抵すっとばしてしまうものなのだが、前作から海堂さんの章題には要注意にすることにした。
目次を見ると話の流れが見えてしまいそうになるから、そこだけは飛ばして、序章を開く。
序章の章題は「海の底」。
……有川浩?
違うけど。違うのはわかっているけど。潜水艦だし。ねえ?
思わず、のっけから釘付けになってしまった。

小児科・産婦人科と救急は、今、危機に瀕している。
物語の中の話ではない。現実の話だ。人手の問題、経済の問題。
メディアが声高に叫んでも、対応は進まない。
おそらく、受益者一人一人に思想の転換が求められている事象の一つではないだろうか。
自分の受益を確保し増大することばかりに汲々とするのではなく、自分がいずれ受けるであろうサービスのために制度の維持を心がけるという思想が必要なのではないだろうか。

「自分だけがよければいい」という思想の持ち主とは相容れることができない。速水がエシックスを攻撃したポイントの一つは、この点だ。
補給線は乏しく、戦線は常に動いており、戦場は鎮静する気配を見せない。部下は入れ替わることもできるが、指揮官は常に一人だ。もっと資源があれば、勝てる戦いもあるのに、あきらめなくてはならない責任は、疲労とともに指揮官の背後に重くのしかかる。この果てることがない消耗戦を刃の上で戦ってきた将軍の絶望と希望。
将軍は、王や皇帝ではない。誰かのために軍を率いる者であり、誰かのために戦うものなのだ。速水は、ただ目の前の患者のために。
あまりにもジェネラルの台詞がかっこよかったので、下記に引用させてもらうことにする。

精神科の沼田助教授率いる倫理問題審査委員会(エシックス・コミティ)での査問の場面は、読んでいるだけでも胃が痛かった。自分の血圧があがるのを感じた。
自分ひとりを高みの安全圏において、人を裁けると勘違いしている沼田の悪役っぷりが、本書の読みどころのひとつではあろう。こういう医師は絶滅危惧品種であることを祈りたいぐらいだが、学内政治家としてはあながち珍しくもないかもしれない。
高度に政治的文化的に洗練された公家言葉を操る沼田の、底意地の悪いひねくれっぷりを読むにつけ、速水の攻撃が痛快に感じる。
田口や白鳥がかすむほど、速水の印象は鮮烈だ。その真っ赤な輝きに負けず劣らず、最後の最後で黒崎教授、かっこいいじゃないか!
会議の場面では出席者も増えるため、高階院長や羽場貴之など、これまでの院内の登場人物が勢ぞろいだ。看護師も個性豊かで、中でも猫田さんがお気に入り。
それに、ようやく氷姫こと、姫宮も登場した。ちょっと予想外の人物だが、これはこれで可愛いかも。

そして、圧巻のジェネラル・ルージュの伝説の再現。来るかなぁ?と思ったら、やっぱり来た。
時には酸鼻な現場を乗り切る彼ら医療者の専門家としての姿に、たまらなく魅力を感じる。祈るように握り締めた手に、更に汗を握る。
こんな悲劇はいつもいつもあってはならない。けれども、永遠に絶対にないというわけにはいかない。
いつも、いつかのために備えておくこと。使わないに越したことはない。けれども、必要なときに使えるようにしておくこと。
普段はいらないからといって捨ててしまってはいけないものを、鋭く突きつける一冊だった。

3年後が楽しみです。
でも、多分、現状の医療が抱える問題点を、小説を楽しく読ませながら布教している感のある作者のことだから、今はまだ大学病院のハッピーエンドを描く気にはならないような気がする。
だから、せめてもう少しましな精神科医を描くぐらいはお願いしたいです。沼田だけだとあんまりだ……。

 ***

「収益だって? 救急医療でそんなもの、上がるわけがないだろう。事務は嵐のように唐突に襲ってきて、疾風のように去っていく。在庫管理なんてできるわけもない。小児科も同じ。産婦人科も、死亡時医学検索も。現在のシステム下では医療の根幹を支える部分が冷遇されている。俺たちの仕事は、警察官や消防士と同じだ。トラブルが起こらなければ、単なる無駄飯食い。だからといって国家は警察官や消防士に利益を上げることを要求するか? そんな彼らに税金という経済資源を配分することを、国民は拒否するのか?」(p.297)

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小説(日本)」カテゴリの記事

コメント

香桑さん、こんばんは(^^)。
医療に真剣なまなざしを向ける、各人の強さが印象的でしたね。
しかしホント、トラブル満載な東城大学医学部付属病院、大丈夫なんでしょうか。現代の医療界は、あちこちでこんなトラブルが発生し、対応や処理に奔走する必要があるんでしょうか・・・怖いなぁ、と思いますね。

水無月・Rさん、こんばんは。
物語世界じゃなければ、東城大学病院はマスコミのいいネタになりそうですものね。(--;
医者不足、財源不足は、よく耳にしますから、擦り切れそうな思いで頑張っている人たちは実際にいるんだろうなあ、と思いました。大学病院よりも前に、地方の総合病院で起きている危機なのかもしれません。
でも、さすがに、各大学病院にジェネラルがいたら怖いなー。血みどろ白衣で手術室の外を闊歩するお医者さん、患者としてはものすごく嫌です。(>_<)

こんにちは。
現実の医師だからこそ書ける小説だなぁという思いを強くした作品でした。
医療現場のことは分からないので軽々しいことは言えないけれど、速水医師のような矜持を持った方が、一人でも多く残れるような場所であって欲しいと思いました・・・。

すずなちゃん、ども。
速水の台詞を通じて、現場の医師の苦悩が訴えられている。そういうメッセージ性の強い小説でしたね。
『ナイチンゲール』に出てきた小児科のピアスをした若い女医(名前を忘れた)みたいな人ばっかりだったら、ユーザーとしてとても信頼も安心もできない気がします。
こちらは体を預けて、心を預けて、命を預けるのだから、単なる技術や知識だけではなく、医師の人柄も重要な要素だと思います。
だけど、だからって、一人ひとりに何ができるってわからんけど。(^^;

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» 『ジェネラル・ルージュの凱旋』/海堂尊 ◎ [蒼のほとりで書に溺れ。]
あの、バチスタスキャンダル(『チーム・バチスタの栄光』)から9ヶ月。桜宮市の東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が入院し、そこからいろいろな事件が巻き起こる。(『ナイチンゲールの沈黙』)。 その出来事の裏側で、この事件(『ジェネラル・ルージュの凱旋』)は起こっていた。 えぇ~!!田口先生、大丈夫?!「ナイチンゲール事件」でも八面六臂の大活躍だったのに、実はその裏でもう1つ別の事件に巻き込まれてたなんて!ああ~、田口先生こそ、怒涛のアンラッキー中年です~。ガンバレ、田口先生(笑)。 ...... [続きを読む]

» ジェネラル・ルージュの凱旋(海堂尊) [Bookworm]
「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」に続くシリーズ3作目。ってか、「螺鈿迷宮」もこのシリーズにカウントしていいんじゃないの?と思うんだけど・・・。出版社が違うし、一応舞台になってる病院が違うから無理なのかな。うーん・・・。... [続きを読む]

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