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2008.11.30

螺鈿迷宮

螺鈿迷宮  海堂 尊 2006 角川書店

死を看取る。
その体験が近すぎて、何度も涙がこみあげてきた。ことに、三色婆には、それぞれに泣かされた。たまらなかった。
緩和ケア病棟に通い続けた今月の最後の読書にふさわしい一冊になったのかもしれない。
症状の緩和による生の質(QOL:Quality of Life)を保つための医療は、あくまでも治療を企図する延命のための医療とは、必ずしも手段を同じくしない。
しかし、延命をあきらめることは、death controlすることと、どこが異なるのか。まだ生きられるかもしれない人を、殺すことになりはしないか。
終末期医療の目指すところを考えさせられた、この秋だった。

この作者は、 『チーム・バチスタの栄光』を書いたとき、この桜宮市という架空の町の物語世界をどれだけ思い描いていたのだろう。
それぞれの作品は、相互に通時的にも共時的にも繋がっている。
舞台は、『ナイチンゲールの沈黙』に出てきた病院、「でんでんむし」こと碧翠院桜宮病院。
白鳥がつぶすしないと言い切った病院に、白鳥が仕掛ける。姫宮を使って。
ただし、主役は白鳥ではなく、天馬大吉という医学部からリタイアしかかっている医大生だ。白鳥・姫宮の仕事に巻き込まれることは、天馬にとって吉と出るか?凶と出るか!?

『ナイチンゲール』や『ジェネラル・ルージュの凱旋』よりはミステリより、になるのかな。途中で、京極夏彦『女郎蜘蛛の理』を思い出した。
指輪は骨壷の中に入れられたのか。それとも、焼き場で処理されたのか。それがあれば、一つは立件の余地があるのに。
主人公のぼんやりぶりや日和見ぶりに、ぷんすか腹を立ててしまった。
この天馬のキャラクターが少し苦手に感じたのも、『螺鈿迷宮』は入り込みづらかった要因だと思う。
その上、今回は白鳥の切れも今ひとつ。出番が多いが、歯がゆい。姫宮との夫婦漫才は楽しいのだけど。

一方、これまで読んだ東城大病院シリーズとはまた違った、気骨のある医師が出てくる。
桜宮巌雄病院長。名前のとおり厳しい、銀獅子のような風貌の、じいちゃん先生。
南方戦線で15歳にして軍医として医者デビューしたベテラン中のベテラン。
だが、生の基準も死の基準も、骨折治療の基準も、南方戦線の泥沼状態って、どーよ。
その上、戦時中から建設に関わった古い建物を根城に病院として、戦後直後の混沌とした桜宮市を医療の面から整備してきた立役者。
医学は、数知れぬ死者の死から汲み取られ、組み上げられたものだと、知っている医師。
白鳥自身がつぶやく。役者が違う。

とても重苦しい気分になる本だった。
よかれかしという心は、いつから道を過つのだろう。どこから道を外すのだろう。
人の心の中は、光だけでできているわけではない。光の部分と闇の部分を併せ持つことでバランスが作られる。
光とも闇ともつかぬ混沌さえも抱え込む力を、健康な人は心に持っている。その心の中の有象無象と付き合うことが心を扱う者の仕事である。
闇を切り捨てて無垢に光にのみ生きようとすることは、光をあきらめて純粋に闇にのみ生きようとすることと、同じぐらいに愚かなことだ。
三人の桜宮の娘たちも、長じれば、三色婆たちのようになれたかもしれないのに。
それにしても、白鳥が光の申し子って、なんか嫌だぞ……。

死を看取る。
死は、人が最後にできる、他の人への教育だ。
私は母からそう言われ、私も人にそう言う。
ひとは、いかに老い、いかに病を得て、いかに死ぬのか、身をもって示す。
それを通じて、いかに生きるか、学ばせてくれるのだ。
だから、私は死から目をそらさずにいたい。

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コメント

こんにちは。
この作品は、私的にいまひとつだったようで、あまり記憶に残ってない;;;こちらのレビューを読みながら、朧気に思い出しました^^;

桜宮の娘やジェネラル。北へ向かった人々はどうしているのかなぁ・・・海堂さん、書いてくれないかしら。

すずなちゃん、ども。
記憶に残る本、残らない本って、あるよねー。
読んだことは憶えていたり、読んだことすら忘れていたり。
ずっと憶えているつもりのことだって、記憶からすり抜ける。
北に向かった人たちが対決すると、なんだか最終決戦の趣になりそうな期待がつのります。
ジェネラル、映画化ですねえ。

香桑さん、こんばんは(^^)。
ジェネラルも映画化ですか~。
バチスタの映画も見てないので、何とも言えませんが、海堂作品が世の中に知られて、それで医療問題について考える人が増えてくれたらいいな~と思います。
巌雄先生のガッシリとした、医療論には頭が下がりました。
でも、組織ぐるみの自殺幇助には、絶対に頷けません!

水無月・Rさん、こんばんは☆
私は、映画もドラマも見ていないので、なんともイメージがわからないのですが、ジェネラルのほうがナイチンゲールよりも映画化しやすく、映画映えしそうですね。

がんの末期の人の苦しみようは、見ていてつらくなります。
親しい人だからこそ長く生きていてほしい。でも、長く苦しんでいるのは見たくない。そんな葛藤を味わいます。
その死にゆく苦しみの緩和と、生きることを苦しんでいる人の苦しみの緩和として自殺幇助することには、大きな溝を感じました。
なんというか、ハナの精神状態も含めて、後者の治療を放棄したところで、桜宮の人たちは治療者失格です。

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なんか、感想が書き難い。何と言っていいのか言葉に詰まると言うか・・・。 [続きを読む]

» 『螺鈿迷宮』/海堂尊 ◎ [蒼のほとりで書に溺れ。]
海堂尊、初読みです。実を言うと、「現役のお医者さんでベストセラー作家」という肩書きの凄さにちょっとビビっておりまして、いきなり『バチスタ・シリーズ』を読むのがためらわれ、でも読んでみたいよ~、というちゃっちいジレンマの妥協点が、この『螺鈿迷宮』だったのでした。 しかし、失敗したな~、『バチスタ』読んでからの方が楽しめたかも・・・トホホ。... [続きを読む]

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