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2008.09.24

平台がおまちかね

平台がおまちかね (創元クライム・クラブ)  大崎 梢 2008 東京創元社

口直しのコージー・ミステリ。
途中までミステリだということを忘れるぐらい、平和なミステリだった。
人が死なないところが、安心して読める。

今までの成風堂書店のシリーズではない、本だ。
といっても、舞台はやっぱり本屋さん。
今度は書店員ではなく、出版社営業(しかも新人)から見た本屋さん。
主人公が男性というところも、目新しい。

本屋さんにはダンピングもないし、返本というシステムもあるし、普通の小売とはちょっと違う。
客にしてみれば、どこで買っても同じ値段で同じ中身。
出版社の営業にしてみれば、どこで売れても、同じ値段で同じ一冊。
だけど、本を作るのも、売るのも、買うのも、もちろん、読むのも、人間なのだ。
店舗によって差別化しづらい商品をいかに売るか。書店員たちの力がなければ、本は売れない。
その書店員たちの力を引き出し、借り受けるのが、営業ということになるのだろう。

それにしても、個性的な営業の人たちが出てくる。
私が行きつけていた本屋さんにも、スタッフと客以外のいろいろな人たちが出入りしていたように思う。
どの人が書店関係なのか、出版社関係なのか、知らないけれど、ここまで個性的な人はいなかったような気がする……。
姿を変えつつ、著者と、著者と一緒に本を作っている人の、本への熱い気持ちが随所に込められていると感じた。
本好きの人向けというより、本に関わる仕事をしている人向けの本だった。

大きな本屋さんには大きな本屋さんには入り込んだらなかなか出られないダンジョンのような魅力(宝箱はいっぱいあるが失うものも多い…)があるし、ネット本屋さんには検索の手軽さや取り寄せの簡便さがある。
が、私は、やっぱり近所にあった行きなれた本屋さんの、顔見知りの店員さんたちの笑顔が懐かしい。
どこに何が置かれているか、客でもきちんと把握できるぐらいのサイズ。見つからなければ、本屋さんに取り寄せてもらえばいい。新着情報を耳打ちしてもらえるありがたさ。
そんな、行きつけの本屋さんがある日突然クローズする。あそこもなくなった。こっちもなくなった。そのときの寂しいような悲しいような悔しいような気持ちを思い出すエピソードもあった。

ネットの本屋さんは確かに便利だ。私も使う。首都圏や大都市部では大型の全国展開している本屋さんもあるだろう。
しかし、ネットの本屋さんを使うのは、世の中に本があることを知っており、自分が読みたい本を何かわかっている人ではないのか。
町中の、通りすがりの本屋さんは、いわば見本市の教育効果を担っている。
世の中に本というものがあり、本を読むという面白さがあるということを、新しい世代に、常に伝え続けていかなければ、読書という文化はますます縮小するだろう。
読書の文化の縮小は、識字能力を主として言語能力の必要性の低下であり、想像力や推理力、論理力、思考力の陶冶を放棄することに繋がる。

また、読みたい文章はネットで読むという人もいるだろう。
紙を用いるのと、電気を用いるのと、どちらがエコロジカルかは、私には判断できない。
だが、有料サイトもあるだろうが、文章を書くことによって得られる収入が確保されなくては、プロの書き手は育たなくなる。
アマチュアリズムが悪いわけではない。しかし、個人の書き手が個人だけで書く文章は、質を磨き、保つことが難しいと思う。
文章を書くこと自体も、知識と経験と感性とが必要な技能であるのだが、編集や校正というのは、知識と経験と感性が必要とされる専門的な技能だと思う。
そういったいくつもの他者の目や手を通さずに発信される文章は、もしかしたらもっと洗練される余地があったのに、もっと注目される価値があったのに、それらを得られなかった点で損をしているかもしれないではないか。

でも、図書館だってある。というのも、至極まともな意見だと思う。
現状として、図書館が手軽に利用できるかどうかは、地域によっても異なるのではないか。
生活圏と図書館の位置、自治体ごとの図書館の運営の方針や規模、生活時間帯と図書館開館時間帯などを考えていったとき、私はやっぱり本屋さんが便利なのだなー。
図書館にも、利用しなれている人としなれていない人の心理的な距離の差がある。
学校図書館で図書館を利用することを学習できていれば、心理的なアクセスのしやすさは向上すると思うが、現時点としては公立図書館を利用しようとする人は読書の文化をある程度有している人だと思う。
ましてや、図書館しか本を購買しないとなると、本の単価はあがり、出版社は立ち行かなくなるんじゃないか。(『図書館戦争』参考)

だから。
本屋さんが潰さないようにしようよー。
読書ってものをなくないようにしようよー。
私は面白い本を読み続けていきたいんだー。
本じゃなくても、違うものに置き換えてみても、文化を維持するのは実はユーザー一人一人だって気がするのだ。
ちょっと大げさに書いてみたが、日ごろ、私が思っていることと同じようなことが書かれていた一文を、下記に引用しておく。

本を読む人というのは、見方によっては、とてもわがままだとも言えるのではないか。
この本の主人公の井辻君は、一冊の本が気に入ると、その世界にのめりこんでしまう癖がある。
心行くまでその世界に浸り、再読し、自分なりに世界を思い描く。そんな風に耽溺してしまう本を、主人公は「魂本」と名づける。
私も、本によるけれども、物語を読むと自然に映像が目の前に広がる。下手なイラストはいらない。マンガ化、アニメ化、映画化には警戒心が働く。
私だけの物語世界を壊されたくないという思いを抱くような魂本を、本好きならいくつか持っているものではないか。
文章だけの、文字だけの表現だからこそ、読み手が自分の好きなように想像力を精一杯働かせる余地が大きくなるのだ。
その読みの多様性を許容する余地が、日によって、時によって、人によって、受け留めるものを変えてくれる。若いときに読んだ本を改めて読むと、初めて感動することがあるように。

最後の書き下ろしのエピソードで、成風堂の名前が出てきた。これは、きっと多絵ちゃんのことだ。私の知り合いの多絵ちゃんは元気にしているだろうか。
大崎さんの次の本は、このひつじ君の次の活躍になるのだろうか。また成風堂に戻るのか。舞台を本屋さんに限らないものを読んでみたい気もするけれど。

 ***

できるだけ身近に、歩いたり自転車に乗ったりすれば行けるような日常生活のそばになければ、人は本も本屋も忘れてしまう。本屋を知らずに育つ子どもが増えて、ますます本離れが進む。(p.177)

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コメント

よく利用する書店が会社更生法を申請したと知りショックを受けたこの夏でした。あの店が閉店しちゃったら、気軽に行ける本屋がますますなくなっちゃいます。なんとか生き残ってほしいなぁと思いながら読んでました。
それはそれとして、ひつじ君をはじめとして書店営業マンの個性豊かなことといったら!読んでいて楽しかったです。ポプコンは、実際に書店でやってみてほしいですね~~。

エビノートさん、こんにちは。
学生のときから、寄り道といえばまず本屋さんだったので、本屋さんのない世界には生きていけないような気がします。地元で愛着をもたれている本屋さん、なんとか生き残って欲しいですね。
ポプコン、楽しそうでしたね。書店に書かれている手書きのポップに着目するのも、楽しみになりました。どんな人が書いたのかな?と、本屋さんの中をぐるっと見回したくなります。

こんにちは!
・・・ミステリだったんだね^^;と、最後の短編で気付いたお間抜けな私;;;

このレビューを読んでいたら、その昔、携帯電話なんて持ってなかった頃は、友人達が私と会いたい時は自宅よりも本屋さんをまず探していたんだよなぁ・・・なんてことを思い出したり。最近、図書館ばかりを利用している私の購買欲を刺激したレビューでした。

私と同じような人がいるー!!!

すずなちゃん、こんにちは。そうなんですよ。ミステリだってすっかり忘れて読んじゃいました。

学生の頃、一緒に帰り損ねた友人と、帰り道にあるいつもの本屋さんで再会することがよくありました。
寄り道はいつも本屋さん。そう思うと、私は学生の頃からまったく進歩がないのかもしれません……。
別に本屋さんのまわしものってわけじゃないのですが。(^^;;;

こんにちは。TBさせていただきました。
この作品を読んで、出版社の営業の方の仕事が分かりました。
今のご時勢、大変そうですよね。
小さな出版社なら尚更。
井辻くんの一生懸命さが伝わってきました。
私も、CDやDVDはネットで買うようになってきてしまったのですが(何せ安くて^^;)
でも、本は本屋さんに行って買いたいですね。
ほしい本は決まってるんですけど、他にも見たい本があるかもしれないですし、本棚を眺めるのがまた好きなんですよね~^^
なくならないでほしいですよね。
昔ながらの本屋さん。

苗坊さん、こんにちは。
本の感想はこうして皆さんのブログで読めるようになりましたけれども、「魂本」の呼び声をキャッチするには、本屋さんをうろうろするに限るような気がします。
苗坊さんが本屋さんに足を運ぶことで、また一つ、本屋さんの寿命が延びるんだと思いますよ。

香桑さん、こんばんは(^^)。
本屋さんのお仕事は、本屋さんに行くと少しは見えてくるけど、出版社の営業さんって、こんなお仕事なんだ~、となかなかに興味深かったですね。
つくづく、「ネットの本屋もいいけど、やっぱり町の本屋さんも利用しよう!」と思います(^_^;)。
取り寄せや検索になると、ネットの方が早いんで、ついつい・・・なんですけどね~。
是非、ひつじ君のような熱心な営業さんに頑張ってもらって、いい本屋さんの維持を、と願ってやみません。

水無月・Rさん、こんばんは♪
積読本の山が多すぎて、ネットもリアルも本屋さん我慢中だったりします。
読みたい本はいろいろあるのですが……。
町の本屋さんが小さいだけに、Story Sellerが入っているのを見て、嬉しくなりました。

大崎さん、また本屋さん関係の世界を書かないかなって、思いました。
多絵ちゃんvsひつじ君で、杏子さんが両成敗みたいなのとか、楽しそうです。

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うわぁぁっ!これはフェイントだよぉーぅ;;;とティッシュの箱を引き寄せたのは、職場の昼休み時間のこと・・・。 出版社の新人営業マンのお話ってことだったから、てっきり新人ちゃんのドタバタ喜劇だと思ってたんだよねぇ。まさかこんな泣かせるお話だとは思ってなかったんで、完全に意表を突かれてしまいアタフタする破目に。も~それならそうとちゃんと言ってよねーっ、とぶちぶち呟きながら、誰も気付かれないように目元を拭い、垂れてきそうな洟(きちゃない;;;)を拭いました(笑)... [続きを読む]

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うきゃ~、恥ずかしい・・・ッ! 先日読んだ大崎梢さんの 『サイン会はいかが?』の時、本作『平台がおまちかね』を〈成風堂シリーズ〉だと思い込んで、自分のブログはもちろん、よそ様でもそういう発言をしてました・・・(T_T)。 勘違いというか、思い込みってオソロシイ・・・。 「サイン会」の次は「平台」かぁ~、本屋さんだよねぇ♪とか思ってた自分を、穴掘って埋めたいです。 ・・・どなたか良い埋め立て地をご存じありませんか(泣)。 いやホント、恥ずかしいよぅ~。「大崎さんだから書店シリーズ、...... [続きを読む]

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