2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

著者名索引

香桑の近況

  • 2017.1.4
    2016年 合計50冊
    2015年 合計32冊
    2014年 合計26冊
    2013年 合計32冊
    2012年 合計54冊
    2011年 合計63冊
    2010年 合計59冊
    2009年 合計71冊

    合計323冊
無料ブログはココログ

« 桃山ビート・トライブ | トップページ | 蒲公英草紙:常野物語 »

2008.08.11

「心の傷」は言ったもん勝ち

「心の傷」は言ったもん勝ち (新潮新書 270)  中嶋 聡 2008 新潮新書

ううぅ。毒舌を発揮したいが、こういう人目のある場所では言えない……ことが多すぎる。
私にとっては良識的で常識的だと思うけれど、近年では感情的な非難も招きそうで心配になるような、そういう本だった。
この当り前の感覚が、なんでこう通用しないのだろうと、私は嘆くほうの立場である。でも、自分の主張を堂々と書くには、私は臆病者なのだ。

たとえば、こうしてインターネット上に書いた文言を読んで、不愉快になった人がいる。その人から、「私が読んで不愉快になったのだから訴える」という書き込みがくるとする。
こういう状況設定自体が冗談じゃないのが悲しい。訴えるって、何をどこにやねん?と首を傾げても、わざわざ不愉快になるような文書を読んで、わざわざそれを訂正しようと関わる人は、多くの場合、真剣である。
そこでは「読みたくないなら読まなくていいです」という、読み手の読まない自由と書き手の書く自由を侵害しないためのルールが棄却されている。共存の思想は近頃はもう流行らないらしい。
私の文章を読むのは義務じゃないぞー、いちいち目を通しているのはそっちじゃないか、なんであなたに私があわせなくちゃいかんのや、などという言い訳は許されないことがある。

この例を、あなたは困ったおかしな事態と感じるだろうか? それとも、私が事例としてあげることを不愉快なおかしな事態と感じるだろうか?
後者である方には、この本をお勧めすると怒られそうであるが、しかし、読んでもらって感想を聞いてみたくもなるのである。

あなたが感じている主体的で主観的な現実が、他者にまで強制されるべき一般的で客観的な現実に引き上げられるのは、何をもって根拠となすのか。
それが普遍的で不偏的で不変的な事実であると、何をもって証明なされるのか。
おそらく、本書の中でとりあげられるような、被害者が加害者を迫害する強者に転じるプロセスを補強しているのは、自分の経験を絶対視してしまう安易なファシズムではあるまいか。
その点、「帝国主義」という語の使用は適切であるように思うのだが。絶対主義とか、中心主義と言い換えてもよいかもしれない。
だから、私は「私たち」という語の多用は嫌いだ。

世界は多様で曖昧である。たくさんのグレーゾーンがあり、単純な二元論で割り切ろうとするのは、認知の形式が未熟である可能性を示す。
冷静になってみれば、明瞭な線引きが無意味なことや、明確な線引きが不可能なことが多いのではないだろうか。
なにもかもラベルを貼ることができ、なにもかもマニュアルで片付けることができると仮定しても、そのシステムが徹底して完遂されていると確認できるのは超越者しかいない。
だから、そんな夢物語ではなく現実に根ざして生きようとするならば、著者のいう「辺縁」、あるいは、遊びやゆとりの余地を持つことは、きわめて大事なことだというのはわかっている。
胡散臭いことや、いい加減なこと、どうしようもないことに耐えられることは、同時に割り切れないことに自分が甘えることもできるのに。
私は女性である自らを弱者に規定するフェミニズムの戦略も大嫌いだが、強迫的で感情的で斉一的な世論形成というのも大嫌いだ。

こういう嫌いなものを嫌いと言う自由も、そのうち、奪われるのだろうか。そうなると、『図書館戦争』の世界っぽいな。
一つ前に読んだ天野純希『桃山ビート・トライブ』で石田三成が目指した世界って、こういう息苦しい世界だよなぁ、と、溜め息が出た。
なんだ、今現在の社会じゃないか。とほほ。

« 桃山ビート・トライブ | トップページ | 蒲公英草紙:常野物語 »

新書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/183237/22918646

この記事へのトラックバック一覧です: 「心の傷」は言ったもん勝ち:

« 桃山ビート・トライブ | トップページ | 蒲公英草紙:常野物語 »

Here is something you can do.

  • ボランティア・寄付ならプラン・ジャパン
    子どもとともに途上国の地域開発を進める国際NGO

最近のトラックバック