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2008.08.28

熱帯感傷紀行:アジア・センチメンタル・ロード

熱帯感傷紀行―アジア・センチメンタル・ロード (角川文庫)  中山可穂 2002 角川文庫

私の中にも、旅人の魂がいくらか入っている。私の放浪癖、漂泊好きは、友人ならば同意してくれることだろう。
旅の計画をするのが好きだ。旅に行くと決めたときから、交通手段を確保し、宿泊先をあれこれと探し、美味しいものや行き先の細々としたことを調べることが好きだ。
狸の皮算用ではないけれども、実際に行くまでの計画、準備の段階が好きだ。
面倒くさくなって人任せにしちゃうこともあるけれど、脱出の予感は胸が躍る。
今、ここではないどこかへ。
恋人に会いに行く旅のこともあったし、現実逃避の旅のこともままある。別れた恋人との思い出をふりきるための旅は、断然多い。出張だって、私には旅の楽しみを与えてくれる貴重な機会だ。

しかし、実際に行ってみると、その時から後悔が始まることも多い。
寂しさや心細さに押しつぶされそうになり、特に、ホテルでの夜をどう過ごすかは大問題としてのしかかる。
見慣れたテレビ番組のにぎやかさを白けた気分で聞き流し、メールを打っては送信できずに涙ぐむときには、何で自分はこんなところにいるのだろうと、世界中を呪う勢いで自分を呪いたくなる。
私は、一人旅がかなり苦手だ。そのくせ、こりもせずに、また旅の計画を立てる。

時折だけれども、その場では誰も私を知らない、私を見つめないという孤独感が解放感として感じられる快感があるから、やめられない。
それは、ロンドンの裏路地、道端のマンション入り口の石段に座り込んで、行き交う人を眺めていたときかもしれない。
アマーストの図書館の書架と書架の間に入り込んで、どちらを向いても英字ばかりの中で、指先で背表紙をなぞって歩いたときかもしれない。
プサンの屋台の立ち並ぶ広場で、ホットックを買いに走ったときかもしれないし。
ロロ・ジョングランで月と南十字星を眺めたり、フエでシクロのおじさんと戦争と平和について語り合ったときかもしれないし。
遺跡や博物館といった朽ち行く死の臭いの濃密な空間の中で、一人ひっそりとたたずむとき、私もまた遺物についた幽霊の一人になれるような、非現実感に溶けて消えることができそうな夢を見られる。
私は私であり、私でなくなる。

きっと、旅には二種類あるのだ。
どこかへ行くための旅と、どこかから逃げるための旅と。
前者の旅をする人をtouristといい、後者の旅をする人をtravelerというのだ。
バロウズに倣えば。

中山さんの足取りは、タイのバンコクに入り、マレーシア、インドネシア、シンガポールからタイに戻る。96年の旅行記になるため現在とは事情が違うであろうが、自分自身の旅行の古い記憶を掘り起こしながら読んだ。
ちなみに、私がタイやシンガポール、インドネシアに行ったのは、著者より前のことである。そりゃ、忘れたことも多いはずだ。
息が止まりそうな暑さと臭い、喧騒。具体的な地名や鮮明な情景は忘れても、雰囲気を思い出しながら読むことはできたし、むしろ、一人旅のなんともいえぬ孤独感に重ね合わせながら読んだ。
私の場合、ベトナムに行ったら肝炎になって帰ってきたり、韓国に行ったら嘔吐下痢症になって帰ってきたり、前科がいろいろあるので、屋台で買い食いは怖くてできない。
中山さんの、お腹を壊したとしても、そのまま屋台を利用し続けるバイタリティに、やっぱり「すごいっ!」と声をかけたくなる。

著者の小説の登場人物たちが抱えるアジアの情景の根源を垣間見た気がする。
登場人物たちが猥雑な人ごみの中で孤独に酔うとき、作者の体験を分かち与られているのだ。彼らは、著者のどこかの写し身であり、化し身であることが、わかった気がする。
それでいて、著者のユーモアの精神も存分に感じられるのが本書の魅力だ。しぶとさやたくましさを持った、素敵な大人の女性であることが感じられて嬉しい。
最近、ますますひ弱に、非力になっているからなぁ。こういう旅行に出るには、勇気が足りない。でも、旅に出かけたくなる本だ。

30代の女性が失恋したら、旅に出よう。
その前に、その恋を失ったときには、旅に出て、誰にも知られずに身も世もなく泣けるほどの、そんな恋愛と出会えたとしたら。

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