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2008.08.31

ナラタージュ

ナラタージュ (角川文庫 し 36-1)  島本理生 2008 角川文庫

心の中に聖堂がある。
最初に刻み込まれた人を祀る聖堂がある。
初めて愛した人に捧げられた聖堂がある。
心の最も奥深く、高く清らかで、美しいところに。

人によっては、偶像が後になって本物に置き換えられることもあろう。
人によっては、聖堂を備えない心の構造を持っているかもしれない。

けれど、聖堂を持つ人にとっては、その後の人生をすべて決めるような出会いをしてから後、その座は誰にも譲り渡されることはない。
たとえ、後からどのような人と出会おうとも、変わることはない、絶対の座。
たとえ、後から誰かを好きになろうとも、恋しようとも、慕おうとも、愛そうとも、聖堂は厳として在る。
秘密の聖堂においては忘れられぬ痛みさえも甘く、人はふとしたときに立ち戻り、ひっそりと熱と涙を供えるのだ。

この小説の構造は、だから、『オペラ座の怪人』に似ている。
主人公の泉。高校教師の葉山先生。結ばれることはないであろう、立場から互いを見詰め合う二人。
たとえ、泉はどれだけ魅力的な男性と出会おうとも、その男性との想いが聖堂に捧げられた信仰に勝るときがあろうとも、立ち戻る場所は人生の中の一点。

丹念な情景描写を通じて感情を表現するような小説で、日々が淡々と語られていくから、途中で疲れそうなぐらいに長い。
過去の回想を繰り返しながら、出会ってしまったその瞬間から一歩も進めない、主人公「泉」の情緒をつかめてくると、後半は意外に過ぎるのが早かった。
実際にやましいことが一つもなくとも、お互いに抑えようとしている感じ、秘めている感じが、いい。

それにしても、男ってどうしてこんなにばかなの、と何度、思ったことか。
特に小野君。ああ、なんで、わかんないかな。あなたが好きになった女は、好きでもない男に抱かれるような女かな?
ばかな上にずるくって。そんな男性に惹かれてしまう女性もばかなんだけど。
でも、葉山先生のような深くて生々しい傷の匂いのする男性に、ぴたっと吸いつけられるように寄り添ってしまいやすい心を私は持っている。
そういう男性の、慎重で臆病、控えめで優しげな傷つきやすい気配が、大好きだ。歯噛みしたくなるぐらいずるいけど、何度泣かされても、愛することを許されるだけで幸せなのだ。
自分の悪食を、妙に客観的に見せ付けられた気がして、むずむずと居心地が悪かった。

私は、私の中に押し隠した聖堂に、誰を掲げているのであろうか。
苦しかった恋を思い出しながら読んだから、この時期でよかった。
もっと不安定なときに読んでいたら、多分、泣いていただろう。

蛇足であるが、その病名で一週間の入院は珍しいんじゃないかな?と思い、もっと重篤な病気ではないかと深読みした。深読みしすぎただけだったらしい。

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コメント

こんばんは。
心の中の聖堂にいるひと、けっして誰もが肯定してくれるようなひととは限らないものですね。
後々もっと安全でとおりのよい恋をするかもしれないけれど、惹かれる感情は不合理で、出会ってしまったら止められないものだし。
途中小野君との流れがけっこう長くて、でも、泉には必要な寄り道(あれ、小野君に悪いかな)だったのでしょうね。

香桑さん、こんばんは。
お返事が遅くなってしまってすみません。
入院中とのこと、どうぞお大事になさってくださいね。

心の中の聖堂、素敵な言葉ですね。
葉山先生のずるさや弱さも含めて、泉には掛け替えのないものなのだということが伝わってきました。
そんな一生ものの恋愛に出会った泉は幸せだと思います。

>雪芽さん
こんばんは。お返事、遅くなりました。すみません。
小野君はだんだん頭が悪い行動が増えたので「寄り道」扱いでOKだと思います。

>エビノートさん
こんばんは。いたわりの言葉をありがとうございます。
葉山先生との出会い以降の泉を好きになった人には気の毒ですが、葉山先生という要素を削除したら泉じゃなくなってしまいますものね。
私は女の人の多くが、心の中に秘密の聖堂を持っていると思っています。

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