ザ・万歩計
この人は、やっぱり文章がうまい。
笑いながら、でも、うなってしまう。
文章に嫌味がないのは、ほどよく自分をネタにできる、関西の洗練された笑いの文化の所為か。
とことん自分をネタにして、人を傷つけずに楽しく優しい気分で笑いあう。そんな姿勢に、上品を感じる。
たとえ、御器齧りとの奮闘記であったとしても。
学生時代のことや、海外旅行のこと、作家になる前の会社員の頃のこととか。
こもごもの日常の出来事を、くすりと笑うような特別な出来事に変化させるのは、作家のセンスにほかならない。
目の付け所。視野の広さ、視座、視点の持ちよう、目線の角度など。小説家の目が、単なる日記をエッセイに変える。
Boiled EggのHP上で読んだものもいくつかあったが、今見ると、サイト上から読めなくなっていた。当り前か。
表紙の万城目氏にお友達パンチをくらわす右腕は、森見氏が友情出演しているらしい。その表紙も凝っているが、表紙と同じイラストを用いたしおりも凝っている。
猫好きとして、ねねの話に涙ぐむものがあった。
そうなのだ。うちの猫達は私が拾ったので、彼女達が去る日まで、私は面倒みたいと責任感を感じている。
だって、彼女達はとても忠誠心に篤いのだ。猫嫌いの人は信じられないかもしれないけれど、猫という生き物にはそんなところがある。
この本を読了後、モンゴルでの乗馬体験をうりにした旅行のパンフレットを、そっと古紙の山の上に置いた。
私の技術ではもともと参加できないのであるが、これを目標に掲げて練習に励むのは、私には不向きであると判断する。
自給自足の生活ほど厳しいものはない。大自然は、けして人間に優しくない。牧歌的でいられるのは、ある程度、条件がよい中で文明を享受しているためだ。
ついでに、砂漠でラクダに乗りたいという夢も、熟慮に熟慮を重ねて検討すべきらしいこともわかった。アラビアのロレンスごっこ、してみたいんだけどなあ。
最大の爆笑ポイントは、突然、訪れた。ぶほはっ、と、噛み殺しきれない笑いが、変な音となってあたりに響いた。
これほど見事に、不意をついて、弱点をついてくるとは。だから、マキメは侮れない。
産婦人科の待合室にいるのでなければ、大爆笑をしていたであろう箇所は、下記である。
「おお、この道はまさに、今もやっているのかどうか知らないが、大阪国際女子マラソンで、唐突にアルフィーの曲がかかるコースそのままではないか」
……今もやっています。
どの辺りで、どんなアングルで、どんな景色が映されるのか、瞬間的に脳裏にひらめく。
ああ、ほんとに、驚いた。
先に読んだ友人は無事だったのかな?
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1982-2007 大阪国際女子マラソン Song by THE ALFEE 販売元:ポニーキャニオン |
***
TBのかわりに……
やぎっちょさんのブログ『"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!』 ザ・万歩計 万城目学☆☆☆
やぎっちょA「だからさぁ。言ったんだよ。以前も瀬尾まいこさんのときにそれあったでしょ。勢いで買ったらエッセイだったって」
藍色さんのブログ 『粋な提案』 ザ・万歩計 万城目学
イラストレーションは石居麻耶。デザインは岩瀬聡。初エッセイ集。
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小説と同じくらい笑えました~♪
エッセイはちょっと苦手なんだけど、これは最後まで楽しく読めたよ。
こ、ここでカミングアウトさせるのかっ!と固まりましたが^^;;;
えぇ、ワタクシは無事でしたです。自宅で読んでいたので(笑)「・・・今年は別の場所で流れたんだよねぇ」と寂しく呟いておりましたけども。やっぱ、大阪城を観ながら聴きたかったなぁ;;;
投稿: すずな | 2008.05.03 11:57
あああ。すみません。すみません。スルーしてくれてよかったのにーっ。
一応、ほら、「友人」って、匿名にしておいたから。ね?(^^;;;
さくさく読めて、病院の待ち時間が余ってしまいました。笑 おかげで楽しい待ち時間になりました♪
投稿: 香桑@室長 | 2008.05.03 12:46
香桑さんこんばんは♪
TBうまく飛ばなくてすみません。記事に直リンク貼りました。
早く次回作が読みたいですね!
投稿: やぎっちょ | 2008.05.04 02:51
こんばんは。
いろんな媒体に書いたバラバラの話題でしたけど、どれもマキメさんらしいセンスのよさが光っていましたね。
あちこちで笑えて楽しいひと時でした。
「ねねの話」猫好きにはほんのり涙。
アルフィーの曲はしっかり画像が浮かびました(笑)。
TBリンクいつもお手数おかけします。ありがとうございます。
投稿: 藍色 | 2008.05.04 02:59
>やぎっちょさん
こちらも直リンさせてもらいました~。
手元の雑誌の中に、「プリンセス・トヨトミ」の連載2回目が掲載されているものがあるんです。そこだけ読んでみるべきか、単行本になるのを待つべきか……。
>藍色さん
おお。藍色さんも、大阪国際女子マラソンの視聴者だったのですね! ありがとうございます!(謎)
年齢不詳なネタの数々、こういう感性がおもろい小説を作るんだなぁ、と思いました。
また、直リンさせてもらいます。
投稿: 香桑@室長 | 2008.05.04 12:58
こんばんは。
残念ながらマラソンはあまり観ないので、笑いは不発でしたが…。他のところで笑えて楽しかったです。
どうしても思い出せない曲を未来のものととらえる感性が素敵だなと思いました。ホルモーや鹿男の創作秘話?も、興味深かったし、万城目さんのエッセイまた読みたいです。
投稿: エビノート | 2008.05.04 20:11
エビノートさん、こんばんは。
そ、そこ(マラソン)は、もう、スルーしてください~。(^^;;;
夜の工場の景色なんかも、日常と隣り合わせの不思議な感じが、マキメ作品そのものだったり。
トナカイさんと見詰め合ってみたくなりました。
投稿: 香桑@室長 | 2008.05.04 23:18