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香桑の近況

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2008年1月

2008.01.29

空中ブランコ

空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)  奥田英朗 2008 文春文庫

あの伊良部が荒唐無稽に見えない。
今回、まともに治療的な営みをしているではないか。
診断名には異論を唱えたい点があったとしても、病状形成や治療機序の説明もまともに見える。
そんな風に感じてしまった自分が、ついにおかしくなってしまったのか?

『イン・ザ・プール』読後、続きを買おうかどうしようか迷っていた。
待ち合わせに遅れた人を待つ間に本屋に寄ると、文庫化されていたので購入。
ページをめくって、映画の伊良部医師は外見上のイメージが大きく違っていたなあ、と改めて思う。画面をちらりと見ただけで、きちんと見たりはしなかったのだけど。

「空中ブランコ」「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」の5編。
患者の職業が、オーソドックスな会社員以外のものである、という面では、患者はユニークかもしれないが、主訴や病状は決して荒唐無稽なものではない。
症状に対して強迫性障害という病名が使われることが多かったが、それがふさわしいかどうかは別にしておく。
ただ、全体を通じて、なにか些細なことが気になって気になって気になって仕方がない、という点で共通している。

そして、いずれも、30代。責任ある立場になって相応のふるまいをしなくてはという気持ちが強くなっていたり、有能な後輩の出現にこれまでの自信を失いかかっている。彼らはそろって、自分が中年であることを受容するときに、受容するために、心理的な動揺が引き起こされている。
中年期の危機というとちょっと意味が変わってくるから、中年期突入の危機とでも命名しておこうか。
いずれにせよ、そういった事態には、読者が現実を投影できるアクチュアリティがある。決して、荒唐無稽ではないのである。

困った。まともに見えると、伊良部医師の面白みが半減する。大爆笑できない。
不謹慎な破壊力がダウンしてしまった伊良部なんて……ということ自体が不謹慎だろうか。
伊良部の場合は、存在自体で治療しているようなものだから、そこは現実とごっちゃにされると、多くのお医者さんが困るだろうけど。
それでも、とにかく、なんとかなるんである。伊良部がなんとかしたんだから、まともな医師ならやっぱりなんとかしてくれるんじゃなかろうか。
大笑いをするよりも、なんとなくいい話になっているところが、微妙な気がした二作目だった。

2008.01.26

阪急電車

阪急電車  有川 浩 2008 幻冬舎

えっちゃんの彼氏が欲しいーーーっ。
えっちゃんの彼氏みたいな彼氏がいいーーーーーーっっっ。
バカでもマヌケでもアホでもヘタレもいいから、優しい人がいい。
くだらない男ではなく、うっかり寝取られる男でもない、私を傷つけない人がいい。
今回は叫ばずにいられません。ちくしょーーーっ。

一話完結の短編であると見せかけて、幾つかの筋が同時進行で進む大きな物語になっている。
何人もの人を乗せて、その人数分の物語を載せて、電車が進んで行くように。
舞台となるのは、言うまでもなく阪急電車。関西圏の私鉄である。
よく磨かれたえんじ色の車体は通学の手段だった。有川ファンとしてだけではなく、元阪急ユーザーとしても見逃せないタイトルだ。
もっとも私が使っていたのは、もっぱら京都線。本書に出てくる今津線に乗ったのは2回ぐらいだと思う。

一回は宝塚を観に行ったとき。もう一回は……と思い出せば、芋づる式にずるずると思い出が蘇り、翔子に自分を重ねる。
復讐を願ったときのことを、踏みにじられた恋のことを、まざまざと思い出して、初日はそれ以上、読み進めることができなくなった。
ああ、これほど美事に復讐を果たしてみたかったものだ。どんなにむなしくても、苦くても。もっともっと効果的に徹底的に致命的に復讐したかった。復讐がかなうなら、我が身を切り刻むことをいとわない。あんたが殺した女を決して忘れるな、と。
人を傷つけた分、自分も傷つけて、血まみれになった日々の思い出なら、事欠かない。

日を改めて、気分を切り替えて、続きを読み直す。
ミサの彼氏ほどろくでもないわけではなく、くだらない人ではなかったと思いたいけれど、彼はどれだけ寄り添おうとしてくれたのか。
ほんと、ばかばかしい。それもこれもあれも、潮時にしてもいいと思えるまで、ずいぶん長くかかった気がする。
家族や友人達、見知らぬ人や通りすがりの人、本や、いろんな出会いに助けてもらった。
そんな出会いを思い出すような、凍えきった心をゆっくりと溶かし、解きほぐしていくような温もりに、この本は溢れている。
私の通う町もツバメが多い。通勤のたび、軒先を見上げて、ツバメが育つのを見守るのが夏の楽しみだ。

雑誌パピルスで数話は読んだ。宝塚駅から西宮北口へ。
が、なんと半分は書き下ろし。折り返して、西宮北口駅から宝塚駅へ。
雑誌で読んだ人も本書を読まないという手はない。
通りすがりの触れ合いだけでほぐれていった糸が、今ひとたびよりあわされる。

この後半、だらだら泣きながら読んだ。布団の中で、次から次へ、涙が出てきた。もう止まらん。
ひーん。ツボを押されては涙が出て、地雷を踏まれては涙が出て、有川さん、もろもろ込みで地雷原を一挙まとめて爆破するような。
幸せでいいなあ。幸せであることがいいなあ。安堵が半分、羨望が半分。幸せすぎて涙が出てくる本なんて、滅多にないぞ。
えっちゃんの彼氏がいいよー。健吾も、圭一も、征史も、みーんなまとめて、いい男ばっかりだ。いやいや、有川さんのだんなさんこそ素晴らしい。

読み終えて、こういう女は幸せになりにくいんだけど……と思いながら、翔子に倣って、この年になると作るのが難しい友達を作る勇気を出してみた。
私もそこそこ幸せでありたいものだ。そして、将来的には、時江さんみたいになりたい。さて、いかに!?

いつもの本屋さんで予約し、真っ先に購入させていただいた。レジの人が二冊の小冊子を重ねて、一緒に袋を入れる。
帰宅してゆっくり見て驚いた。季刊「読書のいずみ」112号と113号。前者の表紙には「座・対談 有川浩:愛と勇気と冒険と」。後者の表紙には「万城目学:あの頃の本たち」。大学生協の書籍部で配られているものだ。わざわざ手に入れてくれたのか。
感激した。

***

TBのかわりに……

苗坊さんのブログ『苗坊の読書日記』 阪急電車 有川浩
オススメ! 恋の始まり、別れの兆し、そして途中下車…。

うめ版

うめ版―新明解国語辞典×梅佳代 梅佳代×新明解国語辞典 2007 三省堂

国語辞典って、こんなに楽しかったっけ?
首を傾げるほどに微笑が生まれるのは、とりもなおさず写真の効果だ。

愛嬌にあふれた子どもたち。
若い女性のなまめかしさ。
年の功の威厳や寂寥。
一途な犬に、堂々たる鹿に、喉を詰まらせん勢いのカルガモに、呼びかける猫に。

写真に言葉を添えられると、やはり、わかりやすい。
写真を読みなれていない者にとっては、辞典の語義を読みながら、作者はこの写真にこの言葉をどうして組み合わせようと思ったのか、などと、想像をめぐらせることが面白い。
しかも、辞書というものは、言葉の意味を二つ三つと紹介するものであるから、俄然、写真の読みも十重二十重となりやすい。
ちょっとずるいぐらいの仕掛けである。

小ぶりで微笑ましい、ちょっと一休みの気分のときに開きたくなる。
にんまり、にやり、くすりと笑ってしまうのは、「思いのたけ」か。
「すたこら」も好きだなあ。動物の出てくる写真はたいがい私好みだ。
「水魚の交わり」も好いし、「芸」は素晴らしいし、「人生意気に感ず」も深い。
写真集初心者にもお勧め。

2008.01.22

ようこそ女たちの王国へ

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫 SF ス 16-2) ウェン・スペンサー 赤尾秀子(訳) 2007 ハヤカワ文庫

一夫多妻制。
この言葉が指し示すものを、180度回転させたところがユニークだ。
20人の女性に対して、1人の男性という比率で出生する。
複数の姉妹は一人の男性を共通の夫として持ち、生まれた子ども達は共通の娘とする。
数少ない息子は貴重な財産である。息子が16歳になれば、交換するか、売るか。
夫を持てない女性は、売春窟に行き、子どもか病気を得る。
邦題には反映されていないが、原題は「A Brother's Price」。

男女を徹底的に入れ替える。
女性が外で働き、外と戦い、男性は家庭を守り、家庭で守られる。
この設定の仕掛けは、よしながふみの『大奥』や、キャサリン・アサロのスコーリア戦記『目覚めよ、女王戦士の翼!』を彷彿とする。
が、本書は西部劇風の異世界を舞台にしたファンタジーであるところも、ユニークだ。アメリカ発の物語らしい景色が広がる。

16歳の誕生日を目の前にした、賢く優しく美しいジェリンをめぐり、ジェリンの姉妹達と王女達、女王の敵が活躍する。
髪を短くした女性達は、ライフルを持ち、カウボーイハットを被り、馬を駆る。川には蒸気船が行きかい、装甲船には大砲を放つ。
お茶の時間はターキーとピクルスのサンドイッチに、甘いケーキの上にはフレッシュ・ラズベリー。
家族の土地は家族で守り、家庭で家族は育まれる。中でも、未婚の男子を手厚く守り、わがウィスラー家は義理の姉妹を裏切らない。

とにかく女性が元気で男前、いや、漢前。男性はひたすら乙女で。
女性が集団になって、一人の男性を愛でる様は、お気に入りのアニメやマンガやゲームのキャラ(もしくはカップル)と、彼らを愛する腐女子たちを、同一次元上に呼び起こしたらこんな感じ? 
ある意味、アクチュアルをきちんと投影できる。小難しいジェンダー論なしに、好きな男の子のために、女の子は頑張っちゃうのだ。もちろん、男の子だって頑張る。
極端な世界であるからこそ、性別に拘泥することを軽やかに風刺しつつ、旧来の家族の価値や地に足の着いた生活の価値をも謳いあげることにも成功している。
最後は、お約束通りのハッピーエンディングで、安心して読める物語だ。

2008.01.13

九月の恋と出会うまで

九月の恋と出会うまで 松尾由美 2007 新潮社

知人のお勧めの一冊。
韓国映画の『イル・マーレ』や『リメンバー・ミー』を思い出すストーリーだ。
九月の恋は九月の奇跡の物語だ。奇跡がなんで起きるのかはわからないけれども、わからないから奇跡なんだろう。
主人公のさりげない日常の中で、気のせいだと片付けたくなるぐらいひょっこりと、不思議な出会いが起きる。

声が聞こえる。
声に恋をする。
未来の人から声が聞こえる。
時を越えて、恋は叶うだろうか。

かすれて低く、ゆとりがあって大人っぽい、時には甘く優しい声。
ハンサムだけど、寝癖が愛嬌、どこかもてなさそうなへどもどした外見の隣人。
これは同一人物なのか? シラノの正体は誰なのか?

未来から過去へ働きかけるとどうなるか。
時間を超えたSFは、シュレジンガーの猫であるとか、考えると面白いけれども頭がだんだんこんがらがってくる。
そう。それが謎なのよ。そのパラドックスが気になっていた!というところを、あえて取り扱っている。
ハインライン『夏への扉』のような古典的なSFの伝統を受け継ぐ、品のよい恋愛小説だ。
恋を忘れた心にときめきを取り戻すような奇跡をどうぞ。

作中、バンホーという名前のぬいぐるみの熊が出てくる。
友人からいただいたもちぐまを目の前にしながら読んだ。
ちなみに、私がもちぐまにつけた名前は、もちみぃという。
フルネームは、「もちい もちみぃ」。いや、それだけ。

2008.01.07

No.6(2)

NO.6  〔ナンバーシックス〕  ♯2 (講談社文庫 (あ100-2)) あさのあつこ 2007 講談社文庫

薄い。するするっと読めてしまう。
前巻から間があけたので、熱も少し冷めていた。
逆に、ここから先も気になるが、あんまり風呂敷を広げると、ちゃんと終わるだろうかと心配になる。
この巻自体は、次の物語の展開への間繋ぎのような、間奏曲のような内容である。

知性教育は抜群でありながら情操教育がなっていない、聖都市育ちの紫苑。
学校教育ではなく人生経験の豊かさから冷徹な理性を持つ、西ブロックのネズミ。
二人の少年達は、生活を共にして、ますますお互いとの違いを感じつつ、ますますお互いの存在が大きくなるのを感じ取る。
すなわち、変化だ。

奇麗事はどこまで通じるのだろうか。
奇麗事を言うのは悪いことだろうか。
綺麗でありたいと願うことは愚かだろうか。
昔、綺麗事を言うと皮肉を言われたことがある私は、著者の問題提起が興味深い。
だけど、紫苑にはむずがゆくなるけどね。

当局に拉致された沙布のこともある。
次の巻はもう少し盛り上がってくれるといいな。

2008.01.06

マリア様がみてる

マリア様がみてる (コバルト文庫) 今野緒雪 1998 集英社コバルト文庫

出来心で買ってしまった。
本屋さんで常に平置き。人気を保っているからには、きっと面白いんだろうと思って。
女子校ものって、つい読みたくなるのよね。

なんか、コバルト文庫だ。うん。安心したよ。
藤本ひとみのまんが家マリナのシリーズに女子校ものの巻があったなぁと、懐かしく思い出してしまったりした。
その中のいじめのシーンがえぐくって、そこだけいまだに忘れられなかったりする。

舞台のリリアナ学園は、聖ミカエル学園@『笑う大天使』はもちろんであるが、聖マリアナ学園@『青年のための読書クラブ』が思い出されて仕方がなかった。
名前も一文字しか変わらないし。きっと、このリリアナ学園のどっかに、ひっそりと読書クラブがあるはずだ、と、想像が止まらない。
私の頭の中で、これらの学園がすっかり地続き、隣りあわせに融合している。

赤白黄の薔薇様と呼ばれる3人を生徒会(山百合会と称す)としていただき、1対1の先輩後輩関係をスール(soeul=姉妹)制度として組み込む。
この組織が、この物語最大の工夫であり、百合だのなんだのと想像と風評をかきたてているらしい。
この一冊目を読む限り、別にこれぐらいどうってこともないんじゃないの?というぐらい健全な範囲だと思う。
思春期・青年期に同性の先輩に憧れるのは、むしろ、発達心理学上、正常と言ってもいいような気がするが。
それでも、多少の色眼鏡をかけて見ると、想像が膨らんでどうしようもなくなる人がいるのもわかるかも。

たかが高校生だという自覚のあるお嬢様たちが、ばたばたと走り回り、カレーをがっつりと食べるところがリアルに女子校らしい。
気楽に楽しむ本を読みたいときにはぴったり。
続きを読んでもいいな、と思ったぐらい。なかなか楽しかったです。

2008.01.03

一瞬の風になれ(3):ドン

一瞬の風になれ 第三部 -ドン- 佐藤多佳子 2006 講談社

1巻から続けて読んだが、これが一番、分厚い。
昨夜のうちに読み終わる予定が、目測を誤り、今日に持ち越してしまった。
よって、正月休みの読書はここまで。

冒頭から、青春です。
読んでいて、うひゃあと照れちゃうのは、特に恋愛方面。
初々しくて、微笑ましくて、読んでいるこちらが頬を染めたくなってしまう。
部の全員が気付いて、にやにやと見守っている様子が、これまたいい。

健ちゃんは、やっぱり新二の自慢のお兄ちゃんだった。健ちゃんへの引け目とか罪悪感とか、いろんなものを振り払って、新二は兄とスポーツマンとして対等になる。
対等であることを認めるということは、相手に対して言い訳できない、言い訳しないということだ。
サッカーでは才能や弟の立場を盾に言い訳することもできたが、ここから先、新二が走り続ける限り、同じ世界にいる……。なんて素敵なんだ。

ほろりと涙腺に来たのは、引退した先輩達が試合を見に来たシーン。
特別な試合。特別なレース。最後の大舞台へ向けて。
盛り上がる物語から身を引かざるを得なかった人たちの祝福に、じーんと揺り動かされる。

主人公は、彼らは高校生なのだ。その雰囲気が随所にあふれている小説だった。
最初は軽い口調が若者過ぎて気になったけれども、話が進むにつれて、確実に成長したと感じる。
陸上の選手としても結果が出るようになっていき、そのために身体的にも鍛えてきた。そして、精神的にも逞しくなっている。

高3になった新二はもう試合の前にトイレに駆け込むことはない。
視野が徐々に広がっていく。自分のことでいっぱいいっぱいになることもあるが、レースが一期一会であること、しかし、その営みは連綿と続いたことであると思いを馳せることができるようになった。
友人との関係、先輩や後輩との関係、教師との関係、恋愛の関係、兄弟や家族との関係。結ばれ深まる関係の中で、かけがえのない自分をしっかりと見つめ、自分の道を走り出す。
人物達の様子を映像で見るわけではないのに、しかも一人称の小説で、登場人物の成長を文章で書き表した作者の技量がすごい。

この後はどうなったのか? 想像の余地が残る。
知りたいけれども、これでいいのだとも思う。
きっと彼らは走り抜けた。今も走っているかもしれない。それでいいのだろう。
イチニツイテ、ヨウイ、ドン。
ここがスタートライン。ここから始まる。走り始めたばかりなのだから。

ちょうど箱根駅伝の時期と重なり、どうしても三浦しをん『風が強く吹いている』と比べずにはいられなかった。
高校生と大学生。一人称と三人称。短距離と長距離。共通する熱さや速さを持ちながら、異なるところも多い。しかし、同一の地平の上に並べたくなる。
どちらが優れているかなどと私が判じることはできないし、言えるとしたら、所詮、私の好き嫌いだけになる。
読み終えてみると、『風が強く吹いている』のハイジや走らの高校時代を、『一瞬の風になれ』は見せてくれた気がした。同じ人物ではない。しかし、同じ陸上の世界にあり、一本のバトン、一本のたすきを、過去から未来へと運ぶものとして。
彼らはフィクションではあるけれど、箱根を走りぬいた人や、途中で涙を流した人たちの、テレビに映らぬ日々が思いやられた。

道は違っていても、きっと道は続いている。
曲がっていても、折れていても、目の前に、光る道。
自分だけの、自由へと続く長い道。

 ***

  一瞬の風になれ(2):ヨウイ
  一瞬の風になれ(1):イチニツイテ

2008.01.02

一瞬の風になれ(2):ヨウイ

一瞬の風になれ 第二部 佐藤多佳子 2006 講談社

途中で主人公の新二が二年生になり、起から承へと順調に進んでいるように見せかけて、転まで転がり込んだのが、この巻だった。
読者であるこちらも、ここまで順調に読み進んできた。4分の3ぐらいのところで気になる章題に出くわし、慌てて飛ばし読みして、また戻って読む。
ああ、そこでこういう展開になるか……。

気持ちは揺れる。
いくらでも揺れる。いつでも揺れる。
行きつ戻りつしながら、それでも気持ちの目指すところが見つかれば、きっと走り出せる。

淡い恋の予感の揺れ。
期待と嫉妬と。劣等感と罪悪感と。憧れと幻滅と。
先輩の引退を見送る揺れ。
後輩を見守る責任感の揺れ。
知っている人の、よく知らなかった顔を見たときの揺れ。
友人の失恋や家族との齟齬や、いろんな出来事が日々の中には起きる。
揺れは、自然な反応だ。

時には大きく揺れすぎて、行きたい方向を見失うことだってある。
自分を痛めつけたい気持ちになる。そうでもしないと自分を許せなくなりそうな。
自分を忘れてしまいたい気持ちになることだって。誰にも顔を合わせたくない。
若くて、幼くて、未熟なほど、気持ちの行く先を見失うことがあってもいいじゃないか。
動揺と衝動に突き動かされたり、自暴自棄になったとしても、それを乗り越えていけばいい。
そこから、もう一度、走り始めたっていい。歩きなおしたっていい。

読んでいると、知人がプロのスポーツ選手だったときを思い出す。
その人が現役だったとき、試合を見ているだけで心臓に悪い思いがした。晴れがましいけれども苦しくて、それでも予定をやりくりして、観に押しかけた。
活躍するのは嬉しい。けれども、いつもいい結果が出るわけではない。一番怖いのは怪我だった。
その人も長いプロ生活の間に故障を抱えていたし、スポーツのやりすぎは体に悪いと笑ったものだ。試合に出ていないときの身体の維持管理のすごさには何度も舌を巻いた。
第一線に立つということは、体を限界を超えて酷使することだ。それでもやり続ける、仕事として割り切ることもできる、強い意志があることだと思う。
本人達は、いたって当たり前のような顔をしているが、スポーツの世界の外に立つ私から見ると、溜息が出るほどすごい。

わざわざ自動車事故にあわなくとも、スポーツ選手には、腰と並び、膝の怪我は多いようだ。
足を使うサッカー選手であっても。ラグビーになると、試合で怪我人が出ないほうが珍しいそうだ。
そういった怪我を乗り越えてきた選手の話を聞くから、健ちゃんの態度にむっとする。
甘ったれんな。2軍でもプロなんだから。やりたかったら、頑張れよ。
というか、現実の選手達が頑張っているんだから、小説の中の選手が頑張らないとは言わせないぞー。
いずれにせよ、私は運動は苦手だけどさ……。

谷口の駅伝のシーンが、箱根駅伝の景色に重なる。
結末を見守らずにいられるものか。
バトンがあるから、走り続けることができる。受け取ったものを届けるために、さあ3巻!

 ***

  一瞬の風になれ(3):ドン
  一瞬の風になれ(1):イチニツイテ

2008.01.01

一瞬の風になれ(1):イチニツイテ

一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ-- 佐藤多佳子 2006 講談社

今年も正月から本を読む。
これは、Bookwormのすずなちゃんとの約束の本。
本屋さんのポイントカードの3倍ポイントの期間に買って、この休みまで取っておいた(と言い訳)。
だってさ、まとめ読みしたくなりそうな本じゃない?

2007年の本屋大賞は、個人的に注目の賞だった。
読んだことのある本、好きな作家がノミネートされていると、こういう賞の行方を見守るのも面白いことがわかった。
有川浩『図書館戦争』も森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』万城目学『鴨川ホルモー』も三浦しをん『風が強く吹いている』さえも抑えて、大賞を受賞したのがこの本。
正直なところではちょっと反感を持ってしまったのだけれども、佐藤多佳子さんの『しゃべれどもしゃべれども』が面白かったから、誘惑に負けることにした。

主人公は高校生になったばかりの男の子、新二。
サッカー好きな家庭に生まれ、Jリーグに入るのも当たり前のような兄を持つ。
そんな家庭で当たり前のようにサッカーをしてきたのに、当たり前には上手になれなかった。
どんなにがんばっても兄には追いつけない。どんなにがんばって、両親の自慢の息子になれない。
そんな主人公の一人称で語られる物語だ。

ちょっと軽い口調で、前向きでひたむきで高校生の語り口に慣れたら、物語はぐいぐいと引っ張り込む吸引力がある。
主人公はどうやら才能があるらしいが、大きな大会の前ではトイレマンになるような普通の男の子で、親近感が持てる。
この一生懸命さが可愛い。よしよししてあげたくなる可愛さだ。ぜひ、タクアン頭のままでがんばってくれ。
試合前の緊張の様子も人それぞれに描かれており、かなり細かい取材の跡が伺える。

場面展開が早く、物語にくどくどしさはない。主人公はスピーディに陸上選手として走り始める。
体育部に所属しており、試合に追われている高校生の年間スケジュールは、きっとこんな風に忙しいものなのだろう。
知り合いが関係している高校のサッカー部だって、新人戦があって、プリンスリーグがあって、いつのどの試合がどの大会の予選なのか、私には何度聞いても憶えられない。
主人公も気づいたら、4継の選手に選ばれていた。100メートルずつ4人で走るリレーだ。
陸上は陸上でも、リレー。走っているときは一人だけど、チームの一員になるのだ。だからこそ、様々な気持ちが惹起される。

サッカーではぱっとしなかったけれど、もしかしたら陸上では?
位置に着いて、そんな可能性を掴んだところで、2巻にリレー。
さあ、がんがん読むぞー。

 ***

  一瞬の風になれ(3):ドン
  一瞬の風になれ(2):ヨウイ

(WEB)フリーター、家を買う

有川 浩 2007 丸の内オフィス(↓サイトは既に無効です)
http://www.nikkei.co.jp/office/novel/index.html

今年最初の読書は本じゃないけれど、1冊目に数えてもいいだろうか?
大好きな有川さんであるが、文章は紙で読むのが一番だし、ちまちま読むのは性にあわないと先送りにしてきた。
が、1月18日までは全章を公開してあるとのことだし、当分出版の予定はないと知り、ようやく読んでみた。

フリーターになってしまった主人公。
その主人公が家を建て直す物語。二重の意味で。
家族を、立て直す物語になっている。
人生を、立て直す物語でもある。

前半は気になることも多かった。
物語は面白いんだけど、物語の筋とは違うところで気になるのだから、仕方がない。
読み進むにつれて、ちゃんと物語のほうに集中することができた。
最後は気持ちよく終わるから、有川さんの物語は元気が出る。

欲を言えば、もうちょっと千葉ちゃんの活躍が見たかったかな?

家族の物語としても、仕事の物語としても、読ませたい人が思い浮かぶ。
現状を振り返って考えてもらうためにも、元気を取り戻そうとあきらめないためにも。
このまま幻の物語とならないことを願いたい。

 ***

単行本の感想  

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