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2007.12.03

青空の卵

青空の卵 (CRIME CLUB) 坂木 司 2002 東京創元社

帯は、「名探偵はひきこもり」。
このひきこもりという言葉と、主人公鳥井の人物像に違和感を持った人は、出版年に注目してもらいたい。
厚生労働省による調査研究と対応ガイドラインが配布されたのは2003年(暫定版は2001年)のことである。調査研究には、対象を定義することが必要である。
伊藤・吉田は「当時、急速に社会的認知の増大しつつあったいわゆる『ひきこもり』に対する公的機関による認知は公式なものではなく、各機関で各々が手探りで支援に着手しはじめたばかりであった」(こころの科学No.123 p.17)と振り返る。
つまり、誰もが現在の定義でひきこもりを語る以前、社会現象として着目され始めたばかりの頃の小説ということである。著者が用いたひきこもりの語が、たった数年の隔たりであっても現在と違和感が生じたとしても仕方なかろう。
そういえば、滝本竜彦『NHKにようこそ!』も2002年が初版である。
斎藤環が書く本の中でも『ひきこもり救出マニュアル』が、同じく2002年の本だ。

『切れない糸』の原点はここにあったか。
著者にとって一冊目の本の主人公は、著者と同じ名前である。それだけをとってみても、このシリーズが著者にとっては大きな意味を持つことがわかる。おそらく、未来においても重要な意味を持つことだろう。
著者は坂木に自分を重ね合わせて書いたのだろうか。それとも、鳥井にだろうか。これもまた、おそらく両方であるだろう。
主人公の坂木にしか心を開かぬ鳥井が名探偵の役である。坂木と鳥井の危うい関係をキャラ読みしたくなる人の気持ちはわかるし、そのほうが無難のような気もする。

ミステリとしては、この作者らしい、人の死なない事件を題材にしており、事件の過激さや陰惨さを好む人には刺激が少なくて不向きだろう。
むしろ、痴漢やストーカー被害(ちなみにストーカー規制法は2000年)、身体の障害や移民や貧困の問題、夫婦間の問題や養育放棄など、社会的な問題を取り扱おうとしている。
その大きな主題を、小さな関係の中で解決していくことの難しさと、著者の初々しい筆致から、多少の無理やりな感じはなきにしも。青臭いような、若々しさを感じて、むずがゆくなってしまった。
登場するのも、嫌味のない、いい人たちばかりだ。誰も死なないから、誰も物語から立ち去らず、主人公らを取り巻く人間関係は豊かになっていく。
したがって、ミステリとして読むよりも、鳥井や坂木らの成長の物語として読んだり、もっと腐女子っぽく読んだほうが、面白いかな?と思ったのだ。

夢見がちではあるかもしれないけれど、傷つけあう物語ばかりでは殺伐とする。
個人的には、私は鳥井よりの人間だと思う。特別な才能があるわけではないからおこがましいかもしれないが、危機的な状況を救ってくれた唯一の友人にすがりついて生き長らえた。
私にとっての坂木が私を見つけたときの、坂木の心を覗き込むような。これは不思議な感じだ。
もしも、私の坂木もまた罪悪感を持っていたとしたなら、教えてあげればよかったと思う。そうやって坂木を捕らえたのは鳥井である、と。
お互い様、なんだよね。

だから、この二人の成長を楽しみにして、続きを読みたい。

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コメント

ちは。
出版年ってのは全く考えなかったなぁ・・・とこの記事を読んで思った。「ひきこもり」って言葉が認知されだしたのって、本当に最近のことなんだよなぁ、と改めて感じた次第。
このお話はミステリとして読むとちょっと;;;だよね。私は二人の成長物語として読んだ・・・かな、たぶん^^;

すずなちゃん、ども。ひきこもりって現象としては昔からあったのだろうけれど、2000年代に入ってから問題視されるようになったんですよね。
情報が増えると、ひきこもりの状態にもいろいろがあることがわかって、それに引き比べると、鳥井はわざわざひきこもりと呼ばなくてもいいような状態かもしれないけれど、殻の中にひきこもっていたい心理状態という意味では間違っていないと思うの。
なんかさー、冒頭だけは真面目に書いてみたです。

こんばんは。
ちょうど、ひきこもりが社会現象として捉えられた時期の出版だったんですね~。
社会現象云々はあまり意識せず、キャラ読みしてました(^_^;)
鳥井と坂木と、二人で完結していた世界が少しずつ広がっていく様子に好感が持てました。

エビノートさん、こんばんは!
読んでいる最中はキャラ読みだったんですよ。記事を書くときに、ちょうど手元にひきこもり関係の資料があったものですから。(^^;
栄三郎じいさまが、お気に入りです。好みがますます渋くなってきた気がします。

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