2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

著者名索引

香桑の近況

  • 2017.1.4
    2016年 合計50冊
    2015年 合計32冊
    2014年 合計26冊
    2013年 合計32冊
    2012年 合計54冊
    2011年 合計63冊
    2010年 合計59冊
    2009年 合計71冊

    合計323冊
無料ブログはココログ

« 彩雲国物語(15):隣の百合は白 | トップページ | 青年のための読書クラブ »

2007.12.07

エスケイプ/アブセント

エスケイプ/アブセント 絲山秋子 2006 新潮社

Bookwormのすずなちゃんのお勧め。
東京から京都、そして福岡。
親しみのある場所が出てくることから、キャラ読みならぬ場所読みをした。

吉田寮は知らないけれども、京大の近くで、中庭がある清潔感のある古い喫茶店というと、頭に浮かぶ景色は進々堂だ。森見だ、万城目だと、楽しくなってしまう。案の定、最後の方には進々堂の名前が出てきた。残念ながら八文字屋は名前しか知らない。
比叡山に登ると琵琶湖が見える。森見登美彦の小説でも、梨木香歩『家守綺譚』でもわかることだが、京都と滋賀は山並み一つで隔てられているだけで、実は近い。
京都の野球好きは、阪神ファンじゃないような気がする。京は、阪でも神でもないからだ。子どもの頃、京都で見たのは阪急ブレーブスや近鉄バッファローズのポスターだった。
主人公達の出身地の仙台も、一度だけ行ったことがある。住所からすると、同級生が住んでいる辺りではないか。

9.11。
日本で過激派を名乗っていた人たちは、どのようにあの出来事を受け留めたのだろうか。
奥田英朗が『サウス・バウンド』で描く一郎が見切ったのは、こんな人たちではなかっただろうか。
二つの話のどちらも主人公の一人称で語られる。その語り口は、軽やかにつるつると堂に入った口語である。リズムよく、多弁な独り言のように、アジるのが下手な正臣は喋りつづける。これが読んでいて、とても面白い。居酒屋や特急車両の隣の席のおっちゃんにとっつかまった気分だ。
女性が書いていることで、主人公に独特のなよやかさを加味することに成功し、余計に変わり者らしくなっている気がする。

中編「エスケイプ」の主人公、正臣は、左翼の活動家だった。一応、過去形。
革命は起きないまま、暴動すら起きないまま、四十歳にして惑いまくり、逃げる。
逃げると不在ができる。不在は美化される。不在によって存在は固有の伝説になる。
けれど、逃げた当人に自由はあるのか。ポケットの中の自由が、自由か。
自由になろうとして、自由にならなくてはならないというルールに縛られていた。最後の最後で、主人公は自由だと思っていたものをうっかり壊すことで、やっと解放される。そんな気がした。
libertyは圧制や暴力的支配からの自由である。freedomは法によって保障された自由である。

短編「アブセント」の主人公は、正臣の双子の和臣だ。
お互いに、大学の時に、それぞれの家族から行方不明になった。
正臣が東京で左翼の過激派になったなら、和臣は京都でノンセクト・ラディカル。
そして、今は福岡の本屋でバイトをしている。年貢の納め時がきている。結婚を迫られており、自由な時代が終わったと感じている。
不在が成立する。死という圧倒的な不在がある。それは、他の誰にも埋められな不在である。
自分の不在が成り立つ。それは、自分の代わりには誰もならない、自分という個があることの証明である。

エスケイプとアブセント。一つ目の中編と二つ目の短編のタイトルが入れ替わっていても通じそうなものだが、なぜ、一つ目はエスケイプで、二つ目はアブセントなのか。
正臣はエスケイプによって属性づけられており、和臣はアブセントによってのみ特徴付けられる。そういう兄弟の物語である。
きっとここからは、やっとお互いの影から解放されるかもしれない。それぞれのたっぷり残った人生を、退屈で窮屈な日常に縛られる覚悟はできた。
不在を抱えながらも、不在から解放されて生きることができるかもしれない。できないかもしれないけれど、それが自分なのだと言えそうな日々。

こういう小説は、感想を書くのが難しい。
最後に、読んでいて思い出した歌の歌詞を書きとめておく。
この歌を知っている人なら、そういう時代の、そういう主題の物語だったと思うのではないだろうか。

 ***

自由になるそのために 何かを探していたよ
手探りの毎日に あの詩が聞こえていた
強く!強く!この胸に!

作詞:高見沢俊彦「希望の詩 (うた)」

« 彩雲国物語(15):隣の百合は白 | トップページ | 青年のための読書クラブ »

# 九州縦横」カテゴリの記事

# 京都界隈」カテゴリの記事

小説(日本)」カテゴリの記事

コメント

これで「感想を書くのが難しい。」なんて言うなーっ。
いや~なるほど、なるほどね~と読みましたよ。
解説書みたいで、やっとこの作品の根っこのところが分かった!・・・ような気がする^^;

だって、難しかったんだもーーん。
面白いとか、楽しいとか、そういう感想は出てこないんだもん。
解説は書けても、感想は書けんよ……。これも書くのに時間がかかった。

ちょうど読んでいるときに「希望の詩」を聞いて、ああ、これだよこれ、と思ったら、するすると解きほぐれた気がする。
よければ、聞いてみてくださいな。

なんだか難しそうな本ですね。「罪と罰」くらい読むの大変そうですよ。
でも、難しい本にも挑戦したいです。
眠らないで頑張って読みたいです。

ゆうさん、
この本自体はそれほど難しいとは思いません。
よければ、まず本を御覧ください。
ただし、それが睡眠を削るほどのことかどうかは、各自の価値観と健康度の問題だと思います。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/183237/9288673

この記事へのトラックバック一覧です: エスケイプ/アブセント:

» エスケイプ/アブセント(絲山秋子) [Bookworm]
これ、すっごく感想が書きにくい。・・・ってか、書けない;;; [続きを読む]

« 彩雲国物語(15):隣の百合は白 | トップページ | 青年のための読書クラブ »

Here is something you can do.

  • ボランティア・寄付ならプラン・ジャパン
    子どもとともに途上国の地域開発を進める国際NGO

最近のトラックバック