リアル・レイプ
スーザン・エストリッチ 中岡典子(訳) 1990 JICC出版局
出版当時に読んだ。この本で忘れられないことは、性犯罪に関する法律の論拠の古さであった。アメリカで書かれた本であるので、日本国内の事情とは異なるとわかってはいても、中世からの伝統的な価値観や発想がそのまま横行していることに驚いた。
読んだのが昔であるので記憶が間違っているかもしれないが、イギリスの貴族男性の見解で、女性がレイプされたという訴えをそのまま無条件に聞き入れていたらすべての男性が訴えられてしまうではないか、女性の気まぐれで立派な紳士が損害を被ることになってはならん、という論調だったと思う。
自覚があるんやったら、訴えられないようにしたらいいじゃん。と、言いたい。
ここから、レイプを立証するためには、抵抗の跡が見られることが用件の一つにあげられていたのだそうだ。
逆に言えば、銃で脅されようと、集団で取り囲まれようと、被害者の身体にあざが残っていなければ抵抗したと言えず、抵抗していないのだから合意であると見なされる。
この理不尽さはなんやねん。ショックを受けた。だから、憶えている。被害者は殺されなくちゃ、犯罪被害者であると認められないということか。著者の訴えは強烈だった。
その後、日本でも、おそらくアメリカでも、性被害や被害者に対する意識は変わったかもしれないが、まったくこういうものの見方がぬぐいさられたわけではあるまい。
被害者の側にすきがあったのではないか?と論じる人も多いが、平均的な体格や腕力を比較すれば、女性である身はなかなか男性にはかなわない。
つきまとわれたり、脅されたり、殴られたりするときは、その後、レイプされることを恐れるのではない。その後、殺されることが恐ろしい。
被害者の感じるものは、性的に侵害されることへの不安ではなく、自分の身体のコントロールを奪われ、生命を脅かされることへの恐怖である。この点は性被害であっても、他の暴力の被害と変わりない。人権侵害である。
これは被害者側からの大切な主張である。
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