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香桑の近況

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2007年10月

2007.10.28

京都の平熱:哲学者の都市案内

京都の平熱  哲学者の都市案内 鷲田清一 2007 講談社

京大で教えていた人の書いた京都案内。ということは、京大生とも生活範囲が似通っていることだろうと思い、購入。
森見登美彦や万城目学の本に出てくる京都と、どこか似通っているだろうと期待して。森見登美彦『有頂天家族』に続けて読んだ。

京都駅から東へ向かって出発し、ぐるりと206番の市バスに乗って京都を一周する。
三十三間堂の近くのホテルにはこの前、泊まったばかりだが、あまりなじみのないエリアだ。
著者は生活をしていた景色を書くことに専念し、観光客向けの名所案内を避ける。つまり、寺社や大学のことはほとんど書かれない。
俗なことを取り上げるといっても、祇園の界隈には馴染みがなさ過ぎて、興味を持つことが難しかった。

私も京都に住んでいたことはあるが、市内ではあっても洛中ではなかった。
京都生まれでもないし、子どもの頃であるから、生活範囲は限られていた。
だから、この本を読むと、京都を懐かしむ気持ちがあっても、初心者扱いされることで、ちょっとひねた気分になった。

もちろん、知っている場所が出てくると嬉しいし、読むスピードもあがる。
今宮神社のあぶり餅なら、井戸のあるほうのお店と決めていたし。
丸善ばかりか、オーム社なども姿を消していることを知って悲しくなった。
わびすけに六曜社、フランソア、進々堂、天下一品、一澤帆布(もともとの)、飲食代を食器洗いの労働で立て替えさせてくれる中華料理屋さんに、アバンティも忘れちゃいけないけれども、イノダぐらいは昔のままであって欲しい。
206番の路線上にないから登場しなかった場所が残念だし、著者が避けた寺社仏閣や博物館などが私は大好きだ。価値観の相違は仕方がない。

作者は極力省いているのだけれども、やっぱり学生さんの話が面白かった。
大文字を犬文字にしちゃった話とか、実話なんですねえ。いまや都市伝説の域に達した感があるが。
森見登美彦や万城目学が描くネタのあれこれの原点はここか!と、にやにや笑いたくなった。

京都へ行こう。
このCMを観ると、涙が出そうなほどのホームシックに駆られた数年があった。
時折、行く機会があるが、そのたびに景色が変わり、老舗の小さなお店が殺伐としてきている気がする。さびれてすさんで消えてしまうか、ガイドブックやメディアで取り上げられて客が殺到し、せかせかと忙しく、ぎすぎすと厳しくなってしまうか。
みやげ物は日本のどこでも手に入れることができ、しかも生産地は販売地と同じとは限らぬことも多々ある中で、京都はどうやって生き残るのか。後半の都市論、都市再生論のあたりが興味深く、面白かった。
地方都市在住者としては、都市とは言えないほどの町に住む生活も心地いいと思うんだけどね。

マジョモリ

マジョモリ 梨木香歩 2003 理論社

これも、秘密の花園の物語だと、表紙が教えてくれる。
鍵は、水色の折り紙に書かれた、招待状。
主人公は招待されるまま、魔女の森に足を踏み入れる。

魔女と題にあるし、梨木さんの描く魔女なら、西洋風な物語を想像していた。
手にした絵本は、きりりとした線と淡い色合いで描かれており、開くと日本風の舞台であることがすぐに分かる。
この魔女は、植物に詳しく、子どもの味方であるところが、梨木さんの描くほかの魔女と共通している。
全国を駆け回って仕事をしてきた疲れを癒しつつ、子どもたちを招いて御陵の主の無聊を慰めているのだろうか。

神様と出会うには作法がいる。招待をされたら、畏みて受けよ。
『となりのトトロ』の招待状はどんぐりの包みだったけれども、今度は水色の折り紙だ。
招待するかどうかは神様の決めるところであって、待ち構えていてもいけないし、押しかけてるわけにもいかないし。
複雑なことは何もない。淡々と描かれた短い物語を、澄んだ緑の美しい繊細な挿絵が、補強し、時には読みとくヒントをくれる。

森の中の濃密で清浄な空気を思い出す。
綺麗な世界を閉じ込めた一冊。

2007.10.26

猫辞苑:現代「猫語」の基礎知識

猫辞苑―現代「猫語」の基礎知識 えびなみつる 2004 祥伝社

ぱっと開いたページの黒猫の大きな瞳に魅入られた。
色っぽい金猫や猫離れした猫糞や猫車の猫たち等など、愛らしいイラストに一目ぼれ。
猫を主題に置く本を選ぶときにはためらうと、河合隼雄『猫だましい』のときにも書いた。
だから、買わないつもりで、手に取ったのに。予定外の衝動買いだった。

猫にちなんだ言葉が100個。
挿絵のない言葉にはどんなイラストを作者は思い描いたのだろうか。
全部、絵も見たかったなあ。期待が膨らむぐらい、説明文はどれもこれも微笑ましい。思わず笑いがこぼれるものもある。
著者の我が猫自慢ではなくて、猫そのものへの愛情があふれているから、きっと特別な猫との出会いを持っている人にも、快く読むことができると思う。

そういえば、『猫だましい』を読んで、今ひとつ納得できなかったのが、猫の報恩譚の少なさの指摘である。
『猫辞苑』では、「猫は三年の恩を三日で忘れる」を項目に挙げた上で、「民話の中には猫が恩返しをするものも数多くあり」と反論しており、溜飲を下げてみたのだった。
しかも、「猫又」の項を見れば、3年飼っていたり、10年生きているだけでいいのなら、うちの飼い猫たちは猫が化ける条件を満たしているではないか。よっしゃ。

こんな猫贔屓の私であるが、「猫が槍を立てる」の図を見て驚いた。我が家では猫好きだった死んだ伯母に倣って「白鳥の湖」と呼んでいるが、そういう表現があったとは知らなかった。
猫好きの修行がまだまだ足らないようである。

サイズも値段も可愛い絵本。プレゼントにもお勧めの手頃さ。

2007.10.18

現代社会心理学の発展Ⅰ

三隅二不二・木下冨雄(編) 1982 ナカニシヤ出版

国内の実験社会心理学の論文集。
そういえばPM理論のことは、提唱者の文章で読んだことはなかったと思って、見つけたついでに借りてみた。

社会心理学の基礎的な知識を必要とするが、心理学実験の計画や報告の仕方の参考になる。
四半世紀が経ち、ここに紹介されている研究は、最先端の成果であるとは言えない。
が、だからこそ却って、Heiderの帰属理論やRawlsの公正理論、三隅のPM理論など、教科書に当然のように出てくる情報が生き生きとして語られている様子が興味深かった。

でもねー。
図書館の本に線を引くのはやめましょう。やめてください。
公共のものは大事にしましょう。と言いたくなるぐらい、私の目当ての論文のところにだけ、アンダーラインが引かれていた。
鉛筆なので、消しゴムをかけてから返そうか。古びた紙を破くことにならなければいいのだけど。

2007.10.16

有頂天家族

有頂天家族 森見登美彦 2007 幻冬社

この京都には、人間と天狗と狸が住んでいる。
もふもふの毛玉や、ふはふはの毛玉のような、柔らかな毛玉好きにお勧めの、狸が主人公の小説だ。
時には女子高生に化けたり、叡山電車に化けたりしながら、出町柳やら先斗町やら、ところ狭しとばかりに駆け巡る。

いつも通りに森見さんの仮想京都は、不思議がいっぱい。
六角堂と同じ境内の要石をなでて、六道珍皇寺の井戸を覗きに行ってこなくては。
思い出の中の京都をたどりながら、行ったことのない景色を主人公と一緒に走り回ることが楽しかった。
ちなみに、大阪の道具筋は、現実でも、いらない小道具やわけのわからない看板を買わせる魔力に満ちている。あそこは間違いなく魔境である。

馴染みの店員さんが、急いで入荷してくれた貴重な一冊。
雑誌に掲載されていたものを集めて加筆したとあり、前半は設定の説明の繰り返しが多く感じたが、中盤からは先が気になって気になって、ぐぐっとのめりこんで読んだ。
子狸から長老狸まで個性的で阿呆が身上の狸たちの心意気に、ジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』を思い出したりもした。狸のヴィジュアルはそんな感じで読む。

主人公とその兄弟達、母親と亡き父親と、家族の姿が愛情深く、心温まる。阿呆の血のしからしむるままに、目の前の些事にうごうごする狸たちの姿は、そのまま読み手と重なる。
この世界を動かすような権力とは無関係だし、弱肉強食のような生命の危機とも無関係だけで、当たり前の日常生活を飽きずに繰り返し送るものたち。
一切の高望みを捨てよ。それなりに毎日を生き延びて、それなりに楽しんで生きていられるのだもの。
こういう言葉を紡ぐことができる作者の感覚が好きだなあ。最後の2ページがとても好き。

一方、天狗も出てくる話だから、てっきり下鴨神社の祭神が顕れるかと思いきや、今度のメインは別の方。
如意ヶ岳薬師坊様は、修験行者の唱える天狗経の中に名前があるとのこと。室町時代の後期には成立していたとか。赤玉先生、本当に本当はすごい天狗だったのかもしれない。
風神雷神の図は俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一と見比べると、抱一が一番メジャーかもしれないが、迫力で宗達を推しておきたい。

これまでの森見作品と関わりがあるのは、詭弁論部と偽電気ブランぐらいか。
登場人物では、偽電気ブランを片手に狸鍋を囲む一人は、李白さんじゃなかろうか? しかも不気味なほうの。どうやら李白さんは乙女にだけ弱い御仁らしい。
とはいえ、今度の乙女である弁天様は、これまでの森見さんのヒロインとは一線を画して色気も危険な匂いも芬々。素顔がとても可愛いのだけれど。
もう一人のヒロインの海星ちゃんも、謎をいっぱい残している。

第二部胎動で、個性的な狸と人と天狗の活躍はいかに?
特に熱烈なつもりはないけれども、ファンというのは自分が好きだからこそファンになるのであって、作者にどーにかされても困るし、続きを楽しみに待ちたいと思った。

 ***

TBのかわりに……

水無月・Rさんのブログ 蒼のほとりで書に溺れ。 『有頂天家族』/森見登美彦 ○

2007.10.15

彩雲国物語(14):白虹は天をめざす

彩雲国物語白虹は天をめざす (角川ビーンズ文庫 46-14) 雪乃紗衣 2007 角川ビーンズ文庫

だいぶ前に読んだのですが、ここにリストアップするのを忘れていました。

楸瑛や燕青がかっこよかったのに対して、ますます孤独で心細い様子が気の毒な劉輝、ますますかっこわるいことになりそうな絳攸。邵可パパはまだまだ無敵で、出番が嬉しかったです。

この作者の偉いところは、続きをちゃんと書いているところ。こんなに長くなってくると、どこまで続くのか? ちゃんと続きは出るのか? 物語は終わるのか?……といろんなことが心配になってきます。登場人物もどんどん増えていく中で、今回はお一人様が表舞台から去っていきました。かなり上手な去らせ方です。

男性中心の社会で、女性がどのように立場を得ていくか。秀麗が特別だから活躍できる、というのは、ちょっと悲しいことです。普通の女の子なのに活躍できちゃったらいいのになあ。貴種流離譚も素敵ですが、ジェンダーの問題がさりげなく織り込まれている小説です。

饅頭の逸話は、諸葛孔明ですね。元ネタに気づいて、にやり。

読み返してみると、タンタンのタヌキ汁に目が留まりました。タヌキつながりではないですか! 狸がこの秋の流行です。>森見登美彦『有頂天家族』

2007.10.09

ホームレス中学生

ホームレス中学生 田村裕 2007 ワニブックス

日々の報道を見ていたら、親子の情愛が薄っぺらく頼りなく感じられる時がある。
母親だから、子どもだから、それだけで十分に愛情の根拠になるとは言えない世情が残念でならない。

あまりお笑いには興味がないし、テレビもほとんど見ない。けれども、麒麟の二人の紹介を聞いて、唖然としたことがあった。
流行に乗るのは片腹痛い気もするが、こんな経歴の人になら、印税が一人分増えたっていいよね?と応援したい気持ちもあって、購入。

するすると入り込むんだ。とつとつとして素朴な文章だ。嫌味がなくて、人柄が表れている。
ぶっちゃけすぎじゃないのか?と心配になるぐらい、正直に書いている印象を受けた。
あまりにも素直に書いているから、子どもの場合、早くに死を体験しても十分に理解できず、後から抑うつや悲しみがやってくる、「遅れてくる喪」の作業の様子が克明だった。

いきなり「解散」と言われても、ねえ? どーするよ?? 著者も兄姉も途方に暮れたことだろう。
この子どもはよく生き延びることができたなあ、と思った。
周囲の大人たちの活躍もあってのことだろう。その大人の貢献が素晴らしい。本人達の希望を尊重しつつ、福祉に上手に繋いでいる。
子ども達だけで始まった生活は、奥田英朗『サウス・バウンド』を思い出したが、こっちは物語世界ではなくてリアルなのだからたまらない。
子どもが子どもでいられるように、ある程度の大人の援助は必要であり、そういう大人でありたいという気持ちを新たにする。私にできることをしていきたい、と。

感謝できるって、素晴らしいことだと思う。感謝の気持ちを持てること、感じられる謙虚さ、認められる寛容さ、伝えられる正直さ、どれも大事な素質だと思う。
こんな息子さんを育てた人は、母親として自慢していいと思うんだ。きっと自慢の息子さんになっている。
このお母さんは偉大な母親の一人だと、子どものほうも胸を張っていい。死んでもなお、子どもの心を、守り、育て、支えている素敵なお母さん。
母親を自慢できることも、とっても素敵なことだと思った。

その人の母親以上に、誰もその人を愛せない。
うちの偉大な母親にも、改めて感謝をこめて。

図解コーチングマネジメント

図解コーチングマネジメント  伊藤守 2005 ディスカヴァー・トゥエンティワン

コーチの役割、コーチの技術は、スポーツの中で発達、練磨されてきたものだ。
鈴木義幸『図解コーチングスキル』と同時に購入した。内容の重複はあるが、スキル以外のことも書かれているのは、本書のほうだ。
コーチングとはどういうものか、コーチングを取り入れることでどのようによいことがあるか、そこから説明が始まっている。

紙面が限られる中で、コーチングって何だろう?という疑問にそれなりに答えてくれるし、専門用語や固有の表現の説明もある。
解説はちょっと堅苦しい気もするけれど、内容としっかりかみあった図解が非常にわかりやすく、整理されていて、そのまま研修の材料にできちゃいそう。
著者はもっともっと書き込みたいことがあったんだろうな。
章ごとにはさまれた村田伊吹のイラストが楽しくて気に入った。

企業も組織だけれど、家庭も学校も組織。友人関係も趣味の団体も組織。
日本では企業を主たる対象にしてコーチングは浸透してきたけれども、もう少し広がりをもって利用されてもいい気がする。
ただ、コーチとクライエントに模す権力の上下関係がない関係では、適用に配慮が必要である。
失敗しても練習を繰り返して、少しでも上手に人と関われたら、どんなに素敵なことだろう。

図解コーチングスキル

図解コーチングスキル  鈴木義幸 2005 ディスカヴァー・トゥエンティワン

日本では、企業で働く人を主たる対象にしてコーチングは普及してきており、コーチングに関する本も種々出版されている。
私のほうは、今回は伊藤守『図解コーチングマネジメント』とあわせて購入した。
ピンからキリまでのピンもキリもわからなぬ初心者で、コーチングのテクニックを身に付けたいと思うが、歴史や思想にはあまり興味がないという人に、即戦力となるのは本書であろう。
したがって、本書だけでコーチングを活用できるようになっても、コーチングを理解したとまでは豪語しないほうがいいと思う。

イラストそのものがわかりやすくしているかというと、雰囲気をなごませるためには役立っているかもしれないが、その程度のものだと思う。
本文の解説のわかりやすさや嫌味のなさが好印象だった。更に、スキルの難易度を三段階でしめしていること、こういう場合にはどのスキルを用いればいいかフローチャートで整理されている点も、実践的である。
以前、手にとった菅原裕子『コーチングの技術』は、新書で廉価なわりには内容ぎっしりで密度が濃かったけれども、スキルを一つ一つ身に付けたいなら鈴木の本のほうに軍配をあげる。

ただ、なんのためにコーチングをするのだろうか?
このテクニックの背景となる思想も、忘れず学んでもらいたいものだ。
これで人を操縦できると勘違いしたり、ごり押しになってしまったら、コーチングのよさが失われてしまうからだ。
それにつけても、こういったコーチングの本の多さに、多くの上司という役割をしている人の苦労がしのばれた。
大変なんやねえ。

2007.10.08

性犯罪の心理:あなたは性犯罪の実態をどこまで知っているのか?

性犯罪の心理 作田 明 2006 河出書房新社

抑制の効いた、よい本だった。
リンチに誘うかのように、感情的で扇情的に反応する人々がいる。
断罪をする前に、はたしてどれだけ実態を知っているのかと著者は問う。
性犯罪は、確かに恐ろしい暴力ではある。人権侵害であり、ひどい暴力だ。
同時に、性犯罪に対しての迷信も根強い。犯罪者に対しての偏見も根強い。

本書では、強姦や強制わいせつといった代表的な犯罪を中核に、犯罪ではないが関係の強い性嗜好異常から説き起こし、痴漢、窃視症、露出症、小児性愛、ストーカーのような性的犯罪まで取り扱う。
病態と診断については、DSM-Ⅳ-TRに基づいて、解説されている。

著者は「合意に基づかない性交はすべて強姦であると考えるべきであろう、という立場である」(p.177)と明記している。
この明快な断言はエストリッチ『リアル・レイプ』の時代の常識と隔年の違いがあるようでいて、著者が「強姦の神話」に章を割いているところに、まだまだ世間に偏見は根強いことを示している。
著者が読者に想定しているのは、もともと犯罪にあまり興味を持っていない人であることであるから、この章は避けてはならないことであった。
人は誰でも加害者にもなりうるが、被害者にもなりうることもあり、決して無関係であるとは言い切れない。
そこから、ストーカーや強姦、痴漢など、対策にも目配りの効いた内容となっている。性的被害の心理的後遺症について、カウンセリングによる二次的被害を受ける危険性も警告しており、非常に良識的であると思われた。

精神鑑定の意義について、知らなかったのが正直なところであり、一番、印象的だった。
特異な犯罪の一例をもって犯罪一般を語ることはしてはならないが、事例の積み重ねを経てのみ得られる知見がある。
本書には幾つかの事例が紹介されており、具体的に犯罪や犯罪者を感じることができる。それが、事例の積み重ねの効果である。
重大な犯罪において、重い刑罰が予想されるときに、精神鑑定が行われるのは、情状酌量のためだけではなく、その犯罪の特異さを記録に残し、資料とする機能もある。
精神鑑定が行われた多くの事件が、完全責任能力と判断されていることを知らなかったし、責任能力の有無の判定だけが目的とは限らないことがわかった。

高校生までに、できれば義務教育段階で、正確な情報に触れ、適切な警戒心と自制心を持ち、倫理観を磨く機会がもう少しあればいいのに、と思わざるをえなかった。
なぜならば、自分も含めて、個々人の大人は、風評や迷信にともすれば踊らされがちであり、自分の中の偏見や無知に対して無自覚であることがあるから。
こう考えること自体、自己責任の概念も分からずに、法律の厳罰化ばかりを求める、人任せの姿勢が自分にもあるということだろう。

自分も少し短絡的になっていると反省する。私は性犯罪に不寛容である。
性犯罪については、即座に拒否反応を起こして、厳罰化もやむなしと考えてしまう。
厳罰化が、犯罪の抑制に役立たないとわかっていながら、嫌悪感を押さえきれない。
犯罪の解決は、事件の背景や動機よりも、処罰にあるのではないかと考えてしまう。
冷静に考えれば、「性犯罪の実行に至る人々も、さまざまなタイプがあり、再犯の可能性もまちまちである。したがって、日本の性犯罪を減少させようとする立場に立てさまざまな方策があり、また最も効率の良い方法があるだろう」(p.21)という著者の意見はもっともにも関わらず。

女性であれ男性であれ、子どもであれ年配の人であれ、できれば読んでもらいたい。
簡潔な文章は、専門用語をなるべく排しており、読みやすく、わかりやすかった。
阿部定事件、小平義雄事件、大久保清事件といった、歴史的な事件にも触れている。
性被害に遭った人にとっても、自分の体験と少し距離を置くきっかけになるまいか。
ワイドショー的な興味関心からでもいい。性的な幻想を託している人には、もっと読んでほしい。

 ***

私は、性的被害に遭ったあと、少なくとも一ヶ月は精神科医や臨床心理士の元を訪れずに経過を見る必要があるだろうと考えている。その上で、治療が必要かどうかを考えても遅くないはずだ。(p.42)

人間には自然治癒力を持っている。直後に大騒ぎをして傷口を広げるよりも、じっとして心身を養生するほうが、障らぬこともあるだろう。関係者は当事者よりも冷静に対応することが望まれる。

2007.10.04

リアル・レイプ

 スーザン・エストリッチ 中岡典子(訳) 1990 JICC出版局

出版当時に読んだ。この本で忘れられないことは、性犯罪に関する法律の論拠の古さであった。アメリカで書かれた本であるので、日本国内の事情とは異なるとわかってはいても、中世からの伝統的な価値観や発想がそのまま横行していることに驚いた。
読んだのが昔であるので記憶が間違っているかもしれないが、イギリスの貴族男性の見解で、女性がレイプされたという訴えをそのまま無条件に聞き入れていたらすべての男性が訴えられてしまうではないか、女性の気まぐれで立派な紳士が損害を被ることになってはならん、という論調だったと思う。
自覚があるんやったら、訴えられないようにしたらいいじゃん。と、言いたい。

ここから、レイプを立証するためには、抵抗の跡が見られることが用件の一つにあげられていたのだそうだ。
逆に言えば、銃で脅されようと、集団で取り囲まれようと、被害者の身体にあざが残っていなければ抵抗したと言えず、抵抗していないのだから合意であると見なされる。
この理不尽さはなんやねん。ショックを受けた。だから、憶えている。被害者は殺されなくちゃ、犯罪被害者であると認められないということか。著者の訴えは強烈だった。

その後、日本でも、おそらくアメリカでも、性被害や被害者に対する意識は変わったかもしれないが、まったくこういうものの見方がぬぐいさられたわけではあるまい。
被害者の側にすきがあったのではないか?と論じる人も多いが、平均的な体格や腕力を比較すれば、女性である身はなかなか男性にはかなわない。
つきまとわれたり、脅されたり、殴られたりするときは、その後、レイプされることを恐れるのではない。その後、殺されることが恐ろしい。
被害者の感じるものは、性的に侵害されることへの不安ではなく、自分の身体のコントロールを奪われ、生命を脅かされることへの恐怖である。この点は性被害であっても、他の暴力の被害と変わりない。人権侵害である。
これは被害者側からの大切な主張である。

2007.10.03

失はれる物語

失はれる物語 (角川文庫)  乙一 2006 角川文庫

印象的なタイトルだが未読だった乙一作品。勧めてくれた人と相談して最初の一冊に選んだのが、この短編集。
水に滲む五線譜と青い題字。表題作を読んでから見直すと、成る程と思えた。

いずれの主人公たちも、どこか周囲になじめないと感じ、疎通しあえることをあきらめているような気配を持つ。
裏切られ、傷つけられ、信じられなくなった。あきらめきった。そんな孤独に共感を持つ人も多いだろう。

もう一つの共通項は、親の不在や別離である。
共働きで帰りが遅い両親。事故に遇って他界したり、病気のために入院していたり、犯罪のために処罰されていたり、子どものそばにはいない保護者。
あるいは、保護されるべき年齢を過ぎて、逃げるように親元から離れた主人公もいる。

成長発達する段階のどこかで、おそらく思春期に前後して、自分の両親がまるで別人であるように、自分が別人になってしまったかのように、違和感を持つことがあるという。
目線が大人になるにつれて見える景色が変わることが、徐々にではなく、急にふっと起き上がり、自分や他人が見知らぬ人のように感じる一瞬。
やがて、その違和感は徐々に修正され、自然に調整されていくものだと思う。これがなかなかうまく調整できない人は、とても苦しいこともあろう。

理想は幻想だったとわかっても、現実もそう捨てたものじゃないと、腑に落ちるとき。
これがまさしく自分であると確かめられたり、世界はそれなりに自分を優しく包んでいたと気づけるようになるときがくる。
世界との一体感がもたらす万能感が傷つき、分離の不安を通り過ぎて、再び対象との信頼や愛着を築く。
そんな一瞬を上手に掴んでいるところが、本書の短編の特徴であり、魅力ではなかろうか。
この視点で見通すと、「ボクの賢いパンツ君」だって、立派なビルドゥング・ロマンだ。

通じ合えた暖かいときは一瞬であり、いつか遠い過去の思い出になるとしても、とても貴重に輝く一瞬で。
「Calling You」は今も大好きな曲をメロディを思い出しながら読んだ。これと、「しあわせは子猫のかたち」が私は好きだなあ。韓国映画『イル・マーレ』か『リメンバー・ミー』に似ているかな? 定番でも、こういうのは好き。
「失はれる物語」は独特の設定で、自分の身に置き換えるのが恐ろしいけれども、この想像力には脱帽。
「傷」や「手を握る泥棒の物語」「ボクの賢いパンツ君」は男の子の成長物語だ。最後は元気になろう。
「マリアの指」は怖かったです……。人から切り離された身体の一部というのは、ちょっと苦手で……。でも、これもまた、親との分離と愛着の物語として、構造を読むのが面白かったです。
ラストの「ウソカノ」。これも好き。なんだか、『NHKにようこそ!』の男の子たちが思い出された。

通り過ぎていくのは寂しいけれど、だけど、確かにそこにあったもの。

2007.10.02

コブラツイスト

買ったきっかけ:
これのきっかけも、やっぱり「Kaleidoscope」です。こちらは、「メリーアン」を目当てに購入。
そろそろ、私が誰のファンかばれてしまう頃でしょう。

感想:
買うのに勇気のいるタイトルでした。どうやったら、コブラツイストが歌になるのか。コブラツイストってどうやるものか。
「メリーアン」を聞いて、その男臭さに参りました。たくましくて力強くて、よい。かっこいい。フェミがどう叫ぼうと、こういう男性にしかできない男性らしさって、好きだけどなあ。
ついで、「チェリー」はもともとは誰の曲かを思い出すのに、3日かかったぐらいに別物の感動。この感じも大好き。
そして、1曲目の「コブラツイスト」。あんまり力強くて、背骨が折れそうです。だけど、これがまた、ぐっと来るんだ。体格のいい男性がぽろりと見せるへたれた横顔のようなよさです。

おすすめポイント:
予想外の力強いバラード? どんな歌詞でも、笑っちゃうぐらいに潔く、シャウトする。とにかく楽しい。
ヴォーカルも特徴的だけど、VAN HALENとか、あの辺りのバンドを連想する音も素敵。バラードなんだけど、戦闘態勢に入るような元気のよさで、通勤時のB.G.M.にしています。

コブラツイスト

アーティスト:ANCHANG

コブラツイスト

恋うた

買ったきっかけ:
「木枯らしに抱かれて」をコピーしていると知ったので。面白がって買ってみました。
きっかけはやっぱり「Kaleidoscope」ということになるのかな。

感想:
初々しい「木枯らしに抱かれて」でした。懐かしいメロディに、ほんのり切なくなりました。
が、聞いてみると、「恋うた」のほうが、これまたよかった。なんというか、若いんです。泣いても負けない、へこたれない。
ギターの音は「恋うた」のほうがいいかも。

おすすめポイント:
「恋うた」は音のスピード感、変化のある構成で、何度も聞きたくなる。恋しても恋しくてもかなわぬもどかしさ。耳に残る歌で、切ないけれども爽快なバランスが絶妙。
ジャケットの写真も綺麗だし、CDに足跡で描いたハートも可愛い。

恋うた

アーティスト:音速ライン

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