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2007.09.06

逃亡くそたわけ

逃亡くそたわけ (講談社文庫) 絲山秋子 2007 講談社文庫

なんて攻撃的なタイトルだ。
目を見張った。

プリズンからの脱走劇。福岡に始まり、大分、熊本、宮崎、鹿児島へと駆け抜ける。
主人公の花ちゃんはうつ病から躁転(躁状態に転じること)し、幻聴と不穏な気分にさいなまれている。
 亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
渡部直巳が文庫の解説で、マルクスの『資本論』と引用元を提示しつつ解説を述べているが、このフレーズを無意味なジャルゴンとして受け止めたほうが、主人公の苛立ちに寄り添いやすいかもしれない。

いらいらして、止まらない。自分では止められない。どうしようもなく駆り立てられる。
追いかけられるのではないかと広がる妄想。頭の中で自分を責めるいくつもの声。
焦燥と衝動。不安と緊張。恐怖と激越。実感の上では、幻覚が現実を凌駕する。些細な刺激にも耐えがたいほど過敏になる。
症状は、意思を強くすれば抑えこめるようなものではない。多種の薬剤が作中にも登場するが、効き目も万能とはいいがたい。
花ちゃんの相棒に行きがかり上なってしまったなごやんは、躁はうつの反対だからハッピーな状態だと考えていたが、花ちゃんは泣きそうな悲鳴をはりあげる。

ここから逃げよ。

奇矯な様子に圧倒されて引きずり込まれるうちに、ふっと、花ちゃんもまだまだ若い、ほとんど幼い、普通に年頃の女の子らしい女の子であることを思い出さされる一節が訪れる。
「一人では絶対に来たくなかったけれど、一度ほかの誰かと行っておかないと、もう行けなくなるような気がした」。恋人との思い出の地にわざわざ立ち寄ろうとする花ちゃんのけなげなこと。
うっかり男性と行ってしまった為に、その男と別れた後、二度と行く気がしなくなった場所が私にもいくつかある。その土地には、結界が張ってあるかのように踏み入ることができなくなる。行くと間違いなく体調を壊す。
失いたくない場所の思い出を上書きしたり、効力を失わせてしまわなくちゃ。

神秘的な国東半島、雄大で豪快な阿蘇、きらめく都会の宮崎、そして一番強い海にそそり立つ開聞岳。
行ったこともある場所も、行ったことのない場所も、魅力的な愛想笑いで旅行に手招きしてくるようだ。
南へ行くほど、光は強く、景色が開け、空気が澄んでくる。どこかあっけからんとした雰囲気が、逃亡劇の舞台に九州を選んだ効果ではないか。
田舎に住むことは、可哀想でもなんでもないんだけどな。ご飯が美味しいって、食いしん坊らしい自慢をしたくもなるよ。美味しいんだもん。
主人公達と一緒に口をとがらせたくなる場面もあった。

最後にとっておきのよかにせが出てくるけれど、間近に寝ながら花ちゃんを抱かなかったなごやんも、なかなかのよかにせだと思った。
失うものも多かった二人だと思う。精神疾患は悲しいと主人公はつぶやくが、決して悲壮に浸ることはない。その力強さがまぶしい。
ああ、どこかに行きたいな。
さしあたって、宮崎のホテルを目指そうか? それとも、一番強い海に会いに行こうか。
思い切り大声で叫んだような爽快感が残る一冊。勢いにつられて、ふっと元気になってしまった。

200708260529000 ***

先日、長野の善光寺で「極楽の錠前」に触れてきた。
どうしても私にはこの世が大事に思われて仕方がないから、あの世の浄土に帰っていくのではなく、この世こそが極楽であってほしいと願う。
しゃあしくて、うっとうしくて、いとしいこの世界が。

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コメント

重苦しい物語になるのかな?と思っていたら
逆に力強さを感じた内容でした~。
タイトルも妙に力強いし、舞台も突き抜けた明るさを出すのに一役買ってますよね。

こんばんは。コメント、ありがとうございます♪
最初のほうは「はずしたかな?」と心配したのですが、途中から楽しくなってしまいました。
九州自慢のいいテキストです。ほかの本も読んでみたくなりました。

なんだか、「九州横断ドライブの旅」に出たくなるようなお話だったね~(笑)
私もなごやんは”よかにせ”だぁっ!と思いました。

TB届いてないときはお知らせくだされ。

すずなちゃん、ども。TB届いています。ありがとう。
この間から、私が南へ行きた~いっ旅に行きたい~っと叫びだした理由の一つです。
いやぁ、ほんとは二人連れでドライブで行きたい。ドライブじゃなくても、多分、珍道中間違いなし。

続けて『サウス・バウンド』を読むと、心はまっすぐ南ですよん。

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福岡の精神病院を脱走した21歳の花ちゃんと、24歳のなごやん。二人が、なごやんのルーチェ(マツダ車)に乗って博多を出発し、九州を横断して、鹿児島の指宿に到着するまでの、逃走どたばた劇。... [続きを読む]

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