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2007.08.21

エンジェル エンジェル エンジェル

梨木香歩 2004 新潮文庫

認知症のおばあちゃん。
そのテーマは気が重くなる。自分の祖母の境遇を思って。祖母の介護と、施設での様子を思って。
だから、避けていた本だった。が、やぎっちょさんのブログを読んで、手に取ってみた。
買ったその晩に、一気読みした。

主人公コウコと、突然自宅介護することになった寝たきりに近い祖母。
祖母がそのばばちゃまを慕っていた娘時代の、憧れの旧友コウちゃん。
二つの物語が同時進行する。
現代仮名遣いで新字体の章と、文語体で旧字体の章が、交互に紡がれる凝り様に驚いた。
単行本では印字の色合いと黒と茶で使い分けていたそうだから、さらに趣のあったことだろう。

これもまた、三世代の女性達、祖母−母−娘を軸にしてまわる物語である。
『裏庭』の解説で、河合隼雄がそのことに触れている。
母を飛び越えて、コウコの物語と、祖母の物語と、二つの時間の交流が始まる。
祖母の過去の問題と、コウコの未来の問題が許されていく。

二人の娘たちの悔悛を、天使が見守る。
後悔が、そのまま、共感に、受容に、なる。
その交流そのものが、奇跡のような時間だ。
こうして言葉にすると、嘘っぽい。本書を読む以上に再現できないのだ。
小説の中で流れる緊張と緩和の一瞬を味わってもらいたい。
どんな気持ちが動いたのか、言葉にできないほど、揺り動かされた。
ちなみに、本書の解説は神田橋條治。臨床の大家が続くなあ。

祖母は、もう私の名前がわからない。顔がわからない。関係がわからない。どこの誰であるかわからない。祖母の娘である、私の母のことも朧である。
手をなでるとしわしわだが、何年も陽にやけていない皮膚はやわらかく、握ると意外な強さで握り返して離さない。
ときに手を叩きながら歌うこともできるが、透明な目で虚空を見つめたまま反応がないこともある。
ぽろぽろと失われていく人の記憶。誰もおぼえておらず、思い出すことのなくなった過去。
祖母の歴史の何ほども知らぬまま、言語レベルでは通じ合えない人になってしまった。

老いの残酷さを見せ付けられる気の重さに、足が遠のきがちになる。
世話になった。可愛がられた。大事にされた。それなのに、返そうとしない、返せない、薄情な自分。
人を、人たらしめるものはなんなのだろう。ただ長生きをすることが幸福なのか。その人の人生は、いったい何だったのだろう。
老いと死は、祖母が最後にしてくれる教育なのだと、母は私に言った。親が子どもに最後に教えられることなのだ、と。

茶の木を一本、庭に植えている。
椿や山茶花に似た、もっと小ぶりな白い花をひそと咲かせる様が清楚である。
匂い椿(lutchuensis)に似ている。匂い椿は沖縄原産で、白い壷咲きの小さな花をつける。
いつかもう少し茶の木が育ったら、家でお茶を作ってみようかな。できるのかな。やってみよう。
昔、祖母たちがしてきた営みに思いを馳せて。

 ***

エンジェルエンジェルエンジェル 梨木香歩 ["やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!]
私がインスパイアされたのは上記のレビューです。読書の幸せをいただきました。

また、ちょうどよいタイミングで人が生きる意味を考えるきっかけをくれたのは麻麻猫さんでした。トラバありがとう。

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コメント

香桑さん
ややや。これはとんでもないところで引き金を引いてしまって「よよよ」ですぅ。。。特にあちきの5つ★はみなさまに人気がないようなので・・・。
ともあれ気に入らないというわけではなかったようで安心しました。
ご家庭の事情は他人がとやかく言うものでもないと思いますし、実際よく理解できていないので何とも言えないのですが、自分を責めるのはやめた方がいいかもしれない、なぁ、なんて無責任ですが思いました。
きっとそこのところはわかってくださっていると思いますので!

やぎっちょさん、こんばんは。コメント&TB、ありがとうございます。
この本、読んでよかったです。「面白い」というとちょっと違いますけれども、目が離せなくて夢中で読みました。
さわちゃんと母親とコウちゃんが、それぞれ心の一番奥底に押し隠していた重石を、すうっとときほどくような最後に、読んでいるこちらまで気が楽になる感じでしたもの。
最後の木彫りの天使像、「村田エフェンディ」の遺物に残る生活のささやかな声に耳を傾ける感覚を思い出しました。

香桑さん、こんばんは(^^)。
この作品は、とても痛かったです。
その痛みと真摯に向かい合う、そのしなやかな強さが、梨木さんの魅力の一つでもありますが。
現在の物語とおばあちゃんの過去の物語で、文体などが変わるのが、雰囲気良かったですね。私も文庫版だったのですが、単行本はもっと凝った作りだったんですよね。素敵だなぁ。

TBさせていただければ、と思っております。
宜しくお願いします。

水無月・Rさん、ありがとうございます。ぜひ、TBをさせていただきたいです。
高齢者の介護の問題は、我が家にも大きく横たわっているのですが、妙手にかかるとこんな物語になるとは思いもよりませんでした。
最後の時間を、透き通るように美しいものにできたら、痛みも悲しみも貴いものとなるような気がします。

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