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2007.08.19

シェルタリング・スカイ

1990 イギリス

サハラの景色は美しい。朱色の大地と青空の対比。砂漠は夕焼け空のように美しく、白い骨のように無駄がなく清潔だ。T.E.ロレンスの言葉を思い出す。
砂漠の真ん中で記憶喪失になった人を探しに行く約束をした。その意味を知りたくて、DVDを借りてきた。
画面の美しさにうっとりする。サハラに行ってみたくないと言えば嘘になるが、蝿の多さは苦手だ。

一回観ただけで感想を述べるのは難しい。いろんな連想がもやもやと湧き立って形にまとまらない。
サハラに旅をしたアメリカ人夫婦ポートとキット、同行するタナー。
顔を隠してなされる愛撫、酔っ払って記憶に残らぬ愛撫は、匿名性を保つ。
それは、夫の代替。夫を想起させる手がかり。夫を記銘する身代わり。
他者との関わりを拒絶して、個の内で完結した自慰の範囲にあるもの。

サルトルの『嘔吐』を思い出した。人生を冒険という意味で満たそうとした主人公を思い出した。
レヴィナスを思い出した。キットは砂漠の民に対して、無条件で賓客として扱うことを要求している。(『レヴィナス入門』『ためらいの倫理学』
クンデラの『笑いと忘却の書』を思い出した。愛しても愛しても愛しても、忘れてしまう。

後半はほとんど台詞のない映画だ。人々は多いが、言葉がわからず、字幕がない。
群衆の中の孤独。アフリカの地方都市の群集も、N.Y.の都市の群集も、性質において変わらぬ。
主人公キットの孤独はますます深まる。一声も話さず、顔を隠し、私物を捨て、研ぎ澄まされていくほど、美しさを増す。
彼女を迎えに来た大使館女性が、冒頭のキットと同じように厚化粧をしている横で、キットは素顔に清楚な衣服を身に着けているのが印象的だ。
言葉を失い、記憶を失い、ありとあらゆる個性を一つずつはぎとられて、そこに残された孤独。

知人が勧めてくれた通り、最後の場面の原作者が語る言葉がよい。印象的で、哲学的だ。
原作者バロウズは、キットに「Are you alone?」と声をかけ、キットは笑顔で「Yes」と答える。
孤独になる不安を訴えていた神経質な表情はない。晴れ晴れとした笑顔があるだけだ。
字幕では「迷子になったのかね?」と訳されているが、「一人かい?」でもいいだろう。
キットは笑顔で、自分は孤独であると肯定してのけてみせたのだ。最早、自分の名前すら忘れ去った境地において、やっと。

旅行者travelerと観光者touristは違うという。後者は旅に出たときから家に帰ることを考えているが、前者は帰りを考えていないという。
でも、人生そのものが、繰り返しのほとんどない、後戻りすることのない旅行、いや彷徨なのだ。
空は固体のように、人を虚空から守っていると、ポートがキットに語りかける。キットは空虚への恐怖から守られたのだろうか。
彼女を待ち続けて、しかし、彼女の人生においてゆきずりの関わりしか持ち得なかったタナーの立ち位置が自分に近く、気の毒になった。

愛されたことを忘れるのと、愛したことを忘れるのと、どちらが悲しいことだろう。
人は忘れる。どうしても忘れる。いつか自分自身も忘れ去られる。終わりがあることを人は忘れがちである。
孤独からは逃れえず、不安や恐怖に駆られることがあっても、空がシェルターになる。空虚から、虚空から、人を守っている。
このタイトルが切ない祈りのように感じる。

私はあなたを空虚から守る空になりたかった。私が守らなくても、あなたが孤独のまま生きていけるように祈ろう。

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