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2007.06.06

猫町 他十七編

猫町 他十七篇  萩原朔太郎 清岡卓行(編) 1995 岩波文庫

猫町。表題作に興味を持って、手に取った。
方向音痴な主人公が、繁華な美しい町に迷い込む。緊張するうちに、ふっと人間が猫の姿に見える。ぎょっとしたと思ったら、普段の町並みがそこにあった。省略してみると味気の無い短い小説だ。
あまり萩原の詩を読んだこともないし、他の収録作に興味もなかったが、編者の解説が3分の1ぐらいのボリュームがあり、結果として、これが初心者にとって非常によかった。

私の最初の猫町との出会いは、菅野覚明『神道の逆襲』である。この中で、筆者は「猫町」を神との直接の出会いの体験として読み解いている。菅野によれば、「猫町」の主人公は、道をなくした迷い子の、神隠し寸前の体験をした。「道を失い、再び道を取り戻すまでの時間が詳細に語られている」(p.41)。場所や人は同じだけれども違うという、日常世界の「景色の裏側」にあったカミが突如として「景色」として現れる、世界の反転が起きている。このような体験が、神道の教説の深い主題の一つをなすと、菅野は言う。

次に、私が猫町と出会ったのは、春日武彦『不幸になりたがる人たち』だった。「見慣れた筈のものを意表を突いた角度から眺め直すといった偶然を契機にして、内面がそのまま周囲の世界に映し出されたという体験」(p.28)に面白さがあり、統合失調症の発症の直前に「周囲がただならぬ状況を呈しはじめ、それこそ右に引用した猫町さながらの様相を帯びていったという話を聞くことは珍しくない」(p.28)と述べる。

同じ小説に対して、二つの異なる読み。それが、「猫町」に興味を持ったきっかけだった。

更に、清岡卓行は本書の解説で、景色の裏側である繁華で美しい町を、萩原が見ていた国民の生活や文化の近代性ないし近代化の夢であると措く。その近代の幻想が、全体主義と軍国主義によって編成された群集によって「無残に破壊されるかもしれないという絶望に近い思い」(p.150)を読み取る。

……深い。
私などの思いが及ばぬほど、深い。
小説そのものもさることながら、この多様な読みを読み比べることが面白かった。
多様な読みを可能にさせる作品の抽象度の高さが、アートとしての完成度であろう。
猫が出てくるが、ここでの猫は宮沢賢治の『注文の多い料理店』の山猫のような不気味さを持つものであり、猫好き向けであるとは言いがたい。かも?

その他十七編は、小説2篇、散文詩13篇と、随筆2篇から成る。
散文詩の中では、ショーペンハウアーを「猫町」の冒頭で引いた著者が「自殺の恐ろしさ」を書いているものが興味深い。
ショーペンハウアーは『自殺について』を読んだような気もするし、部屋にあるような気もするが、はるか記憶の彼方に埋もれている。
どうやら、死んだらどうなるか知ろうと思っても死んでみてからわかっても遅いからやめておきよし、というようなことを言っているらしい。
対して、萩原は、飛び降りた瞬間に後悔しても遅いことを考えると恐ろしいから自殺はせんどき、と語る。

随筆はかなり後年の作で、「老年と人生」がよい。
性欲に振り回されなくなった自由さをあげて、加齢を肯定的に書いているところがよかった。

 ***

要するに初め善きものは終が悪く、終善きものは初めが悪い。終始一貫して善い人生などというものは、西洋人の工夫した社会にもなう、東洋人の道徳する社会にもない。(p.115)

とにかく老年を楽しむために、まだまだ僕は修行が不足で、充分の心境に達していないことを自覚している。(pp.116-117)

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