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2007.06.28

村田エフェンディ滞土録

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫 な 48-1)  梨木香穂 2007 角川文庫

否応なく、時代も距離も隔たった、戦争の世紀の初頭、革命前夜のトルコに連れ去られる。
これは、小説なのか。村田氏の手記ではないのか。夢のように鮮やかな日々をつづる、祈りのような言葉たち。
そんな錯覚すら覚えるこの本は、是非とも『家守綺譚』と対で読んでもらいたい。
素晴らしい本に出会った。余韻が惜しまれて、レビューを書く気にもならなかった。書くと、読み終えた気持ちになるから。

スタンブール。
道が集まり、物が集まり、人が集まる。
ローマやペルシャにビザンツ。トルコには帝国の歴史が幾重にも折り重なっている。
ノア・ゴードン『千年医師物語:ペルシアの彼方へ』のめくるめく壮大な世界を思い出す。
道が集まり、物が集まり、人が集まる。だから、様々な神々も集まる。
その多様性は共存し得ないものなのか。多数の宗派や宗教があり、人々は主張はするが、専制君主制のもとではあるが潰しあうことなく存在していた時代があった。
やがて、西洋の合理主義という迷信が、世界を貪欲に飲み尽くす。

私は政治史は嫌いだ。英雄の歴史は目立ち、時に面白いことを認めるが、戦争の歴史は嫌いだ。
私は文化史が好きだ。名も残らぬ人々が生きていた。どんなものを食べて、どんなところに住んで、どんな服を着て、どんな風に愛し合ってきたのだろう。
泣いたり笑ったり、腹を立てたり、平凡な日常を生きていた。その当たり前のはずの生活が、異文化で異時代の私にとっては目新しいことも多い。
人が生きて死んでいった。ここに確かに生きていた。じんわりと胸を温めるような感動を覚えることがある。
私の感性に、この本はとてもフィットした。

不思議なことが不思議ではなく、当たり前のように日常に溶け込んでいる。
極めて繊細で、曖昧で、あたりに漂う気配のような、ともすれば消えやすいもの。
当然のこととして不思議を受け入れる心持になることが、梨木さんの本ではしばしば起こる。
時は流れ、人も変わる。貴重なものも、砂と埃に埋もれていく。時代の災厄が大きすぎて。
輝かしい日々は、なんで過ぎ去ってしまうのだろう。夢から醒めた日々の顛末は、涙を禁じえなかった。

京都に住んでいた頃、日本トルコ文化協会と関わる機会があった。オスマン軍楽隊の行進を見聞きし、トルコ大使もまじえたパーティに参加した。
ロダンという店のコーヒーは、飲み終えた後にカップの底に残る粉で、占いができそうだ。京都のコーヒーは、どこかアラビアの香りが残っているのかもしれない。

Disce gaudere.
友よ。楽しむことを学べ。我が友よ。
歴史をただ繰り返さないために。

 ***

200706280047000テレンティウスという古代羅馬の劇作家の作品に出てくる言葉なのだ。セネカがこれを引用してこう言っている。「我々は、自然の命ずる声に従って、助けの必要な者に手を差し出そうではないか。この一句を常に心に刻み、声に出そうではないか。『私は人間である。およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない』と」。(p.84)

←国立民族学博物館で購入した目玉のお守り(ナザル・ボンジュク)。トルコ製。携帯ストラップの目玉はなくしちゃった。

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コメント

香桑さん
こんにちは。非日常が日常ってすごいこの本と家守綺譚を表していますよね。それもこの世界の魅力なんだなと思います。
今度京都に行く機会にロダンを試してみようかな。覚えているといいんだけど。。(笑)

ロダンは年配のご夫婦がしているカウンターに数席だけのこじんまりとした喫茶店です。
御幸町錦小路上がるの辺りだったと思います。

私はこの本を読んでいる間、羊が食べたい羊が食べたい羊ーーっ、と叫んでいました。笑
出てくるお料理が美味しそうで香辛料の香りが漂うようです。

香桑さん、こんにちは(^^)。
梨木さんの、深みある美しい文章で描かれる、村田の滞土録、素敵でしたね。
廻り廻って、全ての事象が、在るべき処へと織り込まれていく、タペストリーのような構成に、息もつけませんでした。
ああ、美しい文章って、すんばらしい!

水無月・Rさん、こんばんは。
これはもう、今年の一番にしたいぐらい、大好きな本です。
梨木さんは、文章としても、表現としても美しくて、凛として品があります。綺麗な日本語を遣える作家さんですね。
それにしても切ないタペストリーでした。ディクソン夫人の手紙も痛ましかったのですが、色あせた鸚鵡が到着したところでは、ぼたぼた泣いてしまいました。

香桑さん、こんばんは。ご無沙汰でした。
最近やっと復活して、いそいそ更新再開しました^^;
この作品わたしも大好きです~
そして「家守綺譚」とペア萌えです~
政治史よりも文化史が・・というコメントにも激しく同意^^
その時代時代を生きた名もない人々の瞬間の生の煌めきを写し取ってくれる作品に、無性に心惹かれてしまうわたしです。

トラバ、失敗しました~;;

susuさん、こんばんは。お久しぶりです♪
『源氏物語』を読んでいらっしゃるんですね。すごい!!

『家守』&『エフェンディ』が好きな人がいることが嬉しいです! 梨木さんの本の中で、私にとっては『エフェンディ』は別格なんです。大好きです。
神様たちが集まって、困った様子で首をかしげているところなど、お稲荷さんの前を通ると、思い出してしまいます。
あー、読み直したくなってしまいました。表紙も可愛くてお気に入りです。

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ブログを始めて、読むようになった作家、梨木香歩さんの作品です。流れるような美しい文章を書かれる作家さんですよね~。こういう美しい文章は、いいなぁ。読んでいて、安心感がとってもある。以前読んで、非常に感銘を受けた、『家守綺譚』 に出てくる「土耳古(トルコ)へ招聘された学者」が、主人公の村田さんな訳です。その村田さんの「土耳古日記」が本書、『村田エフェンディ滞土録』ということになりますね。... [続きを読む]

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