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2007.05.04

太陽の塔

太陽の塔 (新潮文庫)  森見登美彦 2007 新潮文庫

どうしよう。
登場人物を笑うと、己を嘲うことになる。
笑いながらも、変な汗やら汁やらが出そうになった。
断っておくが、私は一応、女であるので、断じて男汁ではない。

著者のデビュー作の文庫化。
太陽の塔と聞いて、『青春の門』のような由緒正しい文学的な香りを予想した。
表紙を見た途端、正体を見たり。
あ、太陽の塔! これか。こっちか。このことか。
肩透かしを食らいつつ、安堵して読み始めた。きっと硬すぎるってことはなかろう、と。

ここから、あの仮想京都&京大生の世界が発展していくのだ。
過剰な自意識と自尊心で防衛している、達成と承認と親和のいずれの欲求も満たしかねている男たち。心の肉球はぷにぷにと柔らかくて傷つきやすく、型にハマった幸せを満喫する人々を目の前にしてぷるぷると震える。
昔の文学青年風の彼らが可愛いし、親しみも憶える。太陽電池でゆらゆら揺れる招き猫なんて、私がもらったら大喜びだけどなあ。
『夜は短し歩けよ乙女』の黒髪の乙女の原型も発見。

四条河原町南東角は、学生時代の待ち合わせ場所の一つ。阪急百貨店前に立っていると、夕方、むくむくと見る間に待ち人の群れに飲み込まれ、小さな私は踏み潰されそうな恐怖に巻き込まれたものである。人ごみに埋もれて、待ち合わせた人たちに見つけてもらえないのではないという不安に襲われることが常だった。
梅田HEP5の赤い観覧車に乗ったのは、いつかの年末のこと。その中で撮った写真は、手帳の中に挟み続けてよれよれになった。
万博公園に遊びに行って、待ち合わせた相手を忘れて、時間を忘れて、民族学博物館から出てこなかったこともある。
ああ。
懐かしいやら、恥ずかしいやら。私の心の肉球をもぷにぷにと押されて、泣きたくなった。

これで著者の本を読むのは3冊目であるが、これが著者の素に一番近い感じがする。行動の面ではともかく心理の面で、体験をそのまま書いたのではないか? いいのか? 大丈夫なのか? 心配になるほど、するすると自然に流れるような物語。
ファンタジー大賞受賞とのことだが、ファンタジーらしくないというか、分類しがたいというか、無理にファンタジー呼ばわりしないでもいいというか。
だってさ、失恋したって辛かったって、とてもアクチュアルな物語なんだもの。
とても自然に読むことができる本だった。

 ***

去年の初秋、万博公園に行った。
出張で関西に行ったのだ。当初は複数泊するつもりだったが、恋人と会う予定がなくなり、1泊2日に短縮した。険しい時間の中だったが、民族学博物館のポスターを見て、やっぱり行こうと思って行った。
モノレールが駅に近づくにつれ、太陽の塔の偉容を見んと、わくわくしながら車窓から眺めた。期待にたがわず、そこに静かに立っていた。
駅のロッカーに荷物を押し込み、傘も差さずに歩き出した。
朝一番、しっとりと空気が濡れていた。雨が降るというほどの強さではなく、ちょうど湿度がいっぱいいっぱいになっているような、肌寒い曇りの朝。
テナントも開けたばかり。ゲートを潜り抜け、人気のない公園に踏み入った。客足はまったくない。
芝生の上にどっしりと立つ、太陽の塔を一瞥して敬意を表す。その日の目的は、公園の一番奥だったから、塔に挨拶せずに通り過ぎることはできないが、立ち止まって時間をつぶすのも惜しまれた。
ヒールにはそぐわない早足でずんずん歩く。耳に聞こえるのは、木々が風に揺れる音、葉に降り注ぐ雨の音。シジュウカラやヒヨドリの声が重なる。
深い、深い森に踏み入るような静けさ。その木の中に立ち入って、一緒に立ち枯れてしまいたくなるほど、私はすっかり疲弊していた。
民族博物館の中も無人で、貸し切り状態だった。ここは何度来ても時間を忘れる。すべてを歩き回りたくなる。本来ならば、一日をここで費やす自信がある。前科がある。特別展も見たいが、常設展を削る気はない。もちろん、ミュージアム・ショップも。
ほんの少し、心が湧き立つ。目の前のことに集中すれば、考えたくないことを考えずにすむ。私が彼と出会う前の自分を思い出すこともできる。
四角い建物を組み合わせて作られた民族学博物館には、いくつかの中庭がある。その一つに韓国の民家が再現されており、中庭に出て建物に触れることができるようになっていた。そこの縁側にも座ってみる。誰もいない。コンクリートに囲まれた狭い空間。箱庭。空を横切る鳥の声。
再び歩き始めると、電灯をつけ忘れたらしい薄暗い一画を見つけた。壁際のソファに座り込む。祈る人のいない神像の上に積もった埃をじっと見ていた。あがめる人々の間から取り上げられ、生活や祭祀をふるい落として、神秘を失った微笑のまま、壁につなぎとめられた神像たち。祈りから切り離されたとき、神はいかにして神としてあることができるのだろう。
長い時間、そこにいた気がした。私も忘れ去られた神のように、世界から切り離されて、消えてしまいたかった。それしか、私が彼のためにできることは残されていない。彼とのすれ違いに疲れ果てた私はとげとげしく振る舞い、それに彼をつき合わせ続けるのは、もう気の毒だった。
出張から帰ってすぐ、彼と別れた。

200609160947000

今夜、夢の中で、叡山電車に乗って、あの日の万博公園に遊びに行こう。 

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コメント

香桑さん、こんにちは。
次々と繰り出され膨らみ炸裂する妄想。
展開のよさ、スピード感、若さゆえのばかばかしさがすごく楽しめた作品でした。
レビューの後半の体験記は、すごく読み応えがありました。
万博公園って行ったことがなかったのに、一緒に見て回ったような感じがしましたよ。
いい体験でした。

藍色さん、こんにちは。
森見さんの著作の中でも、文章のクセが際立つ前で読みやすいほうになるんじゃないかと思いました。
今は「四畳半~」と「きつね~」を交互に読んでいます。どっちを先に読もうか迷ってしまって。

万博公園の広い空間が好きです。エキスポランドで事故があったようですが……。
民族学博物館は、国内の博物館で、最も好きな場所の一つです。展示内容も面白い上、館内レストランのメニューも魅力的です。
結局、夢は見られませんでした。(^^;;

面白かった。なんか癖になる面白さでした。
私もゆらゆら揺れる招き猫は欲しいぞー(笑)
そんでもって、「太陽の塔」とか「民族学博物館」とか、行きたくなっちゃったし。

すずなちゃんも読んだんだ! 森見さんの中では、これが一番クセのない文章で読みやすくて面白い、勧めやすい感じがしました。これではまった人なら、ほかのも楽しめるんじゃないか、と。
いつか民族学博物館ツアーをしましょう。いつでも行っちゃうよー。

香桑さん、こんばんは(^^)。
森見さんのデビュー作、なかなかに印象的ですねぇ!
あの『夜は短し~』の作家さんと同じとは思えぬほどの「男汁」たっぷりな・・・(笑)。
妄想たっぷりで疲れそうですが、きっと彼らは妄想に身悶えつつ渾身の力を振り絞って、生活してるんでしょうね~♪
是非「ええじゃないか騒動」の渦中に身を投じてみたいです。

水無月・Rさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
冒頭ではひいちゃいそうになりましたが、読み進めるうちに男の子達のだめだめっぷりが可愛くなりました。
私の心の中のランキングでは、これが一番インパクトが大きい気がします。

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